第15話

それからメイユウとランレイは、ガイノイドの集団が向かうと思われる破棄された工場へ歩を進めた。


いつも歩いているネオン看板が眩しい歓楽街ではなく、だんだんと人気がなくなる路地へと入っていく。


「なんか薄気味悪く感じるね」


「そう? ローフロアの道なんてこんなもんじゃない?」


「うぅぅ……オバケでも出そうだなぁ」


先ほどまで喚いていたランレイだったが、もうすっかりいつも通りになっていた。


まあ、彼女のように前向きで後に引きずらない性格でなければ、メイユウとはとてもじゃないが一緒に暮らせないだろう。


早くに両親を亡くし路頭に迷って――。


物乞いをしていたら人狩りにさらわれて――。


そこで事故で死にかけて――。


起きたら機械猫の体になっていて――。


さらに借金まで背負わされたというのに、なんと精神的にタフな少女であろうか。


その心の強度を支えているのは、ランレイの夢――物語を作る人間になりたいという欲求から来ている。


こんな悲惨な人生を送る彼女だが、ある意味では、それだけ叶えたい夢があるというのは幸せなことなのかもしれない。


「あんたは元物乞いなんだから、こんな路地裏に住んでいたようなもんでしょ? 今さら何を怖がるっていうの?」


「うるさいな。薄気味悪いものは悪いんだよ」


「悪いものは悪い……。今、さっきのわたしのマネをして韻を踏んだね」


「たまたまだよッ!」


人目ない道にランレイの声が響く。


「はぁ……。メイユウのいうことにはまるでウイルスがあるみたいだよ。まさに言葉ウイルスだ」


すでに突っ込み疲れていたランレイは、少し弱音を吐いた。


猫の体というのもあるが、俯きながら歩く姿勢はまさに猫背そのものである。


そんなランレイをチラッと見たメイユウは口角を上げた。


「なら言葉のセキュリティで感染を防げばいいのでは?」


「なんだそのドヤ顔は?」


メイユウはランレイの言ったことに、捻りのあるなにか納得感があるようなことを言えたつもりだったのだろう。


彼女は得意顔をしてランレイのほうを見た。


そんなメイユウを見たランレイは、疲れないはずの機械の体に、疲労が溜まっていく感覚を味わうのだった。


「おかしいな? 機械の体なのにそんなに足取りが重いなんて。そうだ。いっそのこと四本の足を切断してキャタピラに変えようか?」


「無限軌道なんて、あたしを戦車にでもするつもりかッ!」


「あら、それいいね。猫タンクなんてかわいい、かわい過ぎちゃう。きっと人気でるよ」


「ぜったいイヤだし、どこの誰に需要があるんだッ!」


そんな感じで歩き進めていたメイユウとランレイは、目的地である破棄された工場へとたどり着いた。


当然もう使われていない工場ではあったが、まだ電力供給のシステムが生きているようで、薄暗い照明がところどころ付いている。


「うわぁ……さらに気味が悪いとこだなぁ」


白と黒のバイカラーの毛柄を震わせながら、ビクビクしているランレイ。


やはり彼女は、こういうホラー作品に出てきそうな場所が苦手のようだ。


「さあ、中へ入りましょう」


「えッ!? それってマジで言ってる!?」


ランレイは工場へ入ることが怖いのもあったが、どうもガイノイドたちがいる様子がないので、別の工場へ行ってみようと提案をした。


だが、メイユウはそれを拒む。


「ねえランレイ、わたしはね。一度しっかりメイクしてちゃんと服を着て外へ出たからには、目的を遂げるまで必ず続けると心に決めているの。だから次の工場へ行くのは、ここをしらみ潰しにしてからだよ」


「そう……ですか……」


めずらしく正論を言われたランレイは、渋々ながらも工場へ入ることを決めた。


そんな震えるランレイとは対照的に――。


メイユウはまるで近所にある店へ行くような足取りで先を行くのであった。

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