第13話

そして次の日――。


相変わらずメイユウはベッドで横になりながら、一昔前のパソコンで動画を観ている。


当然ほぼ下着姿で、食事も変わらず茹でた麺にケチャップをぶっかけただけのものだ。


「ねえメイユウ。いいのかな……こんなことで……」


「いいのいいの。今はシェンリアの連絡待ちだからね。わたしたちはそれまで英気を養っていればいいってワケ」


これでは普段と変わらない――。


ランレイはどうもメイユウの仕事のスタイルに馴染めないようだった。


そして次の日も――。


「ねえメイユウ。シェンリアから連絡もないし。あたしたちも自分たちで動いてみようよ」


「あのねぇランレイ。何か探しているときってのは、だいたい向こうからやって来るもんなんだよ。つまり何もしないほうが良いってワケ」


そしてまた次の日も――。


「ねえメイユウ……」


「いいからいいから」


それから一週間、メイユウはただ食べては寝てを繰り返した。


一方ランレイのほうは――。


店の周辺やリーシーの店に、ガイノイドを見た人が来なかったかと訊ねに行ったが、特に有力な情報は掴めないでいた。


「ただいま」


「おー、おかえりぃ」


リーシーの店から戻ったランレイは、だらしなく寝ているメイユウを見て大きくため息をついた。


「なんかここ数日で太ってない?」


そして、彼女の体型の変化に突っ込み入れた。


メイユウは特に気にせずに、右手で尻をボリボリと掻き始めた。


「ほら、わたしって着太りしちゃうタイプだから。多少太って見えるのもしょうがないんだよ」


「いや知らないし。そもそもほぼ裸じゃん……」


自堕落な生活のいいわけを言うメイユウに対し、弁解まで怠惰だと思うランレイであった。


「相変わらずの怠け者っぷりだなぁ」


そこへシェンリアがやって来た。


彼女もメイユウのだらしなさを知ってはいたが、さすがに呆れているようだ。


「えッ!? な、なんでッ!?」


驚いたランレイは、一体どうやって中へ入ってきたのかを訊ねた。


このクーロンシティにある住居は基本的にドアが電子ロックされている。


ハイフロアのような声帯認証や指紋認証ほどハイテクではないが、ローフロアでも暗証番号入力、またはIDカードがないと扉を開けるとはできない。


なのにどうやって?


両目を見開いているランレイを見ながらシェンリアは笑みを浮かべる。


「アタシを誰だと思ってんだよ? クーロンシティ最強のハッカーシェンリア様だぞ。こんな電子ロックごとき、冷蔵庫の扉と同じくらい楽勝に開けれる」


自分に入れない場所はない。


シェンリアは高らかに笑いながらそう言った。


どうやらシェンリアは、事前にメイユウの家のドアの暗証番号を調べていたようだ。


「わぁー犯罪者は怖いわ。今度からうちのケチャップがなくなった問答無用であんたのせいにするからね」


「取るかそんなもんッ! つーかケチャップだけ盗むってどんな泥棒だよ!」


メイユウがダルそうに自分のトマトケチャップの心配をしたが、シェンリアはただ「そんなコソ泥はいない」と怒鳴り返すのだった。


気を取り直して――。


シェンリアはローフロア中にある電子機器にアクセスして、ガイノイドのいる場所を見つけた。


今日はそのことを報告に来たのだと、不機嫌そうにしている。


「でも、わざわざ来なくてもよかったのに。呼んでくれればシェンリアの家に行ったよ」


「そりゃお前、こっちは報告と報酬をもらうのも兼ねて来てやったんだよ。ほら、さっさと残りの瓶詰め粗挽きマスタード四個を早くよこしな」


ランレイにそう答えたシェンリアは、メイユウの前に立って右手をクイクイと動かした。


だが、メイユウは粗挽きマスタードを渡さなかった。


ボケっとシェンリアのことを見つめている。


「何してんだよ? さっさと渡せって。それともケチャップの取り過ぎで血糖値がバカみたいに上がってんのか?」


「まずは情報を先に見せてよ」


「あーそういうことか。ちッ、メンドくせぇなぁ」


シェンリアはブツブツ言いながら自分の耳から配線を伸ばし、メイユウの目の前にある一昔前のパソコンに繋いだ。


このクーロンシティではめずらしくないが、彼女は両方の耳と下半身の一部を機械化――義体に変えている(身近なところでは、定食屋のリーシーも手を義体にしていた)。


繋がれたシェンリアの義体にあるデータが、パソコンに読み込まれる。


「よし、これでパスワードを入力してと」


それから自身のデータのセキュリティーを解除し、ついにパソコンの画面にガイノイドの情報が映し出される。


「あれ? これって」


「そう、ローフロアの街頭カメラの映像だよ」


ランレイが不思議そうするとシェンリアが答えた。


なんでもシェンリアが言うには、ローフロアの街頭カメラはすでに使われていないようだった。


だがまだその回線は生きており、それを使って調べたのだそうだ。


なるほど、これならどこにいても見つけることができる。


ランレイがそう思っていると――。


「な、なんだよこれはッ!?」


なんとその画面に映っていたのは、同じ姿をしたガイノイドが集団で歩いている姿だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る