第10話
「こんにちは! こちらジャンク屋メイユウです!」
ドアのロックを解除し、中へと入るよう言うランレイ。
ギィッとゆっくり開かれたドアから、呼び鈴を鳴らした人物が現れる。
それにしてもドアの向こうにいる人物も、まさかこんな元気いっぱいに声を出しているのが機械猫だとは思わないだろう。
「すみません。機械のことならなんでも相談にのってくれると聞いたので……。えッ……猫……?」
ランレイは笑顔のまま、玄関に入ってきた人物を尻尾を振って迎えた。
当然のことだが、やはり呼び鈴を鳴らした人物は両目を見開いていた。
まあ先ほども書いたが、機械技師の店に来て、まさか猫が迎えてくれるとは思うまい。
「さあどうぞ。中へお入りください。奥で機械技師メイユウが待ってますよ」
「は、はぁ……」
そしてランレイは、戸惑っているその人物を、機械の部品だらけの工房へと案内した。
ランレイは、玄関から工房までの短い道で、その人物の顔や格好を見る。
(キレイで凛々しい感じの人だ。もしかして舞台俳優さんかなにかかな? )
スーツ姿の端正な人物。
それがランレイが見た、お客さんの第一印象だった。
その後、工房へ着くと、ランレイはスーツ姿の人物にイスを用意した。
「ささ、汚いところですが。楽にしてください」
「あ、ありがとうございます……」
初めて来たお客さんというのもあってランレイは嬉しそうにしている。
だが、客は言葉を話す猫に慣れないのか、ランレイを見てからずっと落ち着かない様子だ。
「メイユウはもうすぐ来るので、少々お待ちを」
「は、はい……」
だが、その数十分後もメイユウは現れなかった。
その間もランレイは客に世間話をしたが、会話はあまり盛り上がらない。
気まず空気に耐えなれなくなったランレイは、工房を笑顔で出ていく。
「あれ~? おかしいな~? ちょっと見てきますね。もう少しだけ待っていてください」
物乞いしていても食えていたランレイは、コミュニケーション能力には自信があったのだろう。
だが、喋る猫に戸惑っている客には、その能力もいかせなかった。
「けっこう自信あったんだけどなぁ……。いや、それより今はメイユウだ!」
ランレイが急いでメイユウのいる部屋へ入ると――。
彼女はまだ服も着替えず、ベッドで横になっていた。
そんなメイユウの姿を見て、ワナワナと身を震わしたランレイは、寝ている彼女の体の上に飛び乗る。
「お客さん待たせてなにやってるんだよッ!?」
ランレイがメイユウの腹の上で喚くと、彼女は煩わしそうに体を起こす。
そのダルそうな様子はまるで寝起きのようだ。
「いや、もうちょっといけるかなって」
「いけねぇよッ!」
その後――。
気怠げなメイユウに側にあったボロボロの中華服に着替えさせたランレイは、無理やり客のいる工房まで彼女を連れていく。
だが、メイユウの足取りはフラフラと安定しない千鳥足のようで、なかなか工房までは辿り着かなかった。
「もうッ、早くしないとお客さんが帰っちゃうよッ!」
「いいっていいって。んなちょっと待たせたくらいで帰るような奴なんてさ。どうせ仕事なんて頼むつもりもないよ。ようは、帰りたい奴は帰らせればいいってワケ」
「どんなワケだ! 客に帰られて困るのはこっちだろッ!」
そんな言い合いをしながら客の待つ工房の目の前に到着。
メイユウは、工房の開いていたところから客の姿を覗いた。
「あ、あれがお客さん……⁉」
そのときの彼女の顔を見たランレイは、何にそんな慌ただしくなっているのかわからず、首を傾げている。
「な、なんだあのリアルベルサイユは? 」
「なに? お客さんが凛々しい人だとまずいの?」
「そりゃあんた……」
メイユウは俯くと身を振るわせ始めた。
そして、バッと大きく顔を上げる。
「最高じゃないのッ!」
そう叫んだメイユウは、着替えてくると言ってまた自分の部屋へと物凄い速度で走っていった。
ランレイはワケがわからなかったが、とりあえず仕事にやる気を出したのだと解釈して、客を待たせている工房へと入っていった。
「長い間待たせてごめんなさい。もうすぐメイユウが来ますから」
とても申し訳なさそうにペコリと頭を下げたランレイな、スーツ姿の客は笑みを浮かべた。
(よかった。怒ってはいないみたいだ)
ランレイが内心でそう思っていると――。
「すみません。お待たせしました」
工房にメイユウが入ってきた。
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