第7話

「てな感じで、わたしがこの子ランレイを助けてあげたワケよぉ」


「ふーん、ランレイ……だっけ? あんた物乞いだったんだ」


食事を終え、白酒バイジョウを注文し飲み始めたメイユウとシェンリア。


話題――酒の肴は自然とメイユウがランレイを拾った経緯についてとなっていた。


まだお昼くらいだというのに、二人ともすでにベロベロに酔っ払っている。


「それにしてもツイてないねぇ~拾ってくれたのが目も心も死んでるジャンク屋で」


「はっ? ヤクザなハッカーに拾われるよりはマシじゃない?」


不思議なことに、メイユウとシェンリアはアルコールが入ると、口の汚さは変わらないが喧嘩をしなくなるのだ。


二人は毎日のようにリーシーの店に来ては、こうやって言い合いをし、一緒にお酒を飲んでいる。


意外とリーシーの言うように、本当は仲が良いのかもしれない――。


と、ランレイはそう思った。


「ランレイも飲む?」


リーシーが訊ねてきたが、ランレイは自分がまだ未成年であると返事をした。


そして、自分は大人になってもお酒を飲むつもりがないことを伝える。


「えー、もったいないよ。体に合わないとかじゃなかったら、お酒は最高に楽しいのに」


将来的に自分の店に客として来てほしいのか?


リーシーがそんなことを言った。


ランレイはそう言われたのが嫌だったのか、話題を変える。


「それにしてもお酒ってお店で飲めるんだね」


「うーん、でもこの辺じゃうちくらいかな?」


リーシーがやっている、この『定食屋 飲みだおれ』は、メインのメニューが焼き飯しかないので、いつ潰れてもおかしくない。


だが、メイユウとシェンリアという二人の常連と、あとローフロアではめずらしくお酒が飲める店なので、なんとか続けていくことができていた。


「それにしても昼間からお酒なんて……」


ランレイは物乞いだった自分が思うことではないがと考えながらも、メイユウとシェンリアを交互に見る。


まるで先ほど出てきた八角皿にのったケッチャプとマスタードのように――。


ドロドロとした動きでカウンター席に前のめりなっている二人の女性を見たランレイは、大きくため息をついていた。


いくらここがローフロアといっても、仕事もせずに真っ昼間から泥酔しているなんて――。


それにメイユウもシェンリアも年頃の女性である。


二人のあまりのだらしなさを見たランレイは、自分は将来こうならないようにしようと思うのであった。


「あのねぇ、ランレイ。お酒に昼も夜もないんだよ」


その呟くようなランレイの声を聞いていたのか? ムクッと体を起こしたメイユウは、死んだ魚の目をボヤけさせながらランレイのほうを振り向いた。


近づく顔から強烈な酒の臭いがし、ランレイは不快感を覚えながら仰け反る。


「つまりねぇ。美味しいものを食べるのに、朝も昼も夜もないように。お酒も同じなワケよぉ」


メイユウの的を射たようなことを話してはいるが、全く正論になってはいない言葉に、ランレイは呆れてた。


「そうだぁ~。よく言ったぞケッチャプ女!」


「ありがとうマスタード女」


互いを罵る名で呼び合うメイユウとシェンリアだったが、何故か意気投合していた。


ランレイは、この二人は仲良しじゃなくて同じタイプの人間なのだと思っていた。


だからアルコールが入っていないときは、言い合いをするのだ。


(この二人って……いわゆる同族嫌悪ってやつだよねぇ……)


ランレイが「はぁー」と今日何度目かのため息をつく。


そんなことは気にせずに、メイユウとシェンリアは酒のツマミを注文。


「かしこまりました! ネギチャーシューを二人前!」


リーシーが変わらずに元気よく声を出すと、冷蔵庫から何の肉かわからない塊を出した。


それをまな板の上にのせると、彼女の腕が機械音を立て始める。


「えッ!? リーシーの腕って機械だったの!?」


「うん。メイユウに頼んで調理用にカスタマイズしてもらったの」


笑顔で言うリーシー。


だが、その変形した腕の先は、およそ料理とは関係なさそうな、回転切断機に設置する円型の刃が現れた。


そのギザギザした刃がキュイーンと音を鳴らすと、まな板の上にあった肉の塊がキレイにスライスされていく。


おそらく、まな板が切れないのは特殊な金属を使っているからだろう。


金属同士がぶつかっても刃こぼれも破片も飛ばないのは、リーシーの調理技術のおかげだろうか?


だが、こんな調理方法を見たら誰でも食欲が無くなる――。


ランレイはそう思っていた。


「どう見ても料理用の義手じゃないよ……」


「え~でも、とっても便利なんだよ。へいおまち! ネギチャーシュー!」


そして、出されたスライスされた肉を当然のように――。


メイユウはケッチャプを――。


シェンリアはマスタードを大量にぶっかける。


「……もはやなんでもいいのではないだろうか……」


ランレイは、赤と黄色いに染まったそれぞれのネギチャーシューに、憐れみの視線を向けた。


その後――。


いつまでも飲み続け、一向に帰るつもりのないメイユウのせいで、そのまま夕食もこの店で食べることになった。


「よし、ランレイ。シェンリア·スペシャルを奢ってやる」


「何を言う? ランレイはメイユウ·スペシャルを食べるんだよ」


「あん? あんな気色わりぃもん食わすなんてランレイがかわいそうだろうが」


「あんたのシェンリア·スペシャルのほうがよっぽど拷問だよ」


管を巻き、こんなどうしようもない言い合いを続けるメイユウとシェンリア。


お昼から飲んでいるというのに、まだまだ飲み終わる気配がない。


「もう……どっちでもいいよぉ……」


何もしていないの疲れきってしまったランレイは、そう呟きながらテーブルの上にグニャッと倒れた。


「あらら? ランレイったら。飲んでないのにたおれちゃったね」


そして、そんなランレイを見たリーシーは、ニコニコと微笑むのだった。

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