第5話

驚愕の声をあげるランレイ。


それは出された八角皿の上に、真っ赤なドロドロしたものが大量にかけられていたからだった。


ドロドロした赤い物体が、まるで悪魔の要塞のように八角皿の上にそびえ立っている。


「これってただケチャップをかけただけの焼き飯じゃないかッ!?」


リーシーが出してきた料理とは、ランレイが今言ったように、大量のケチャップがかけられた焼き飯だった。


ランレイは今さらながら自分の配慮の無さに後悔していた。


考えればわかることだったと、他人に、いやメイユウにオーダーを任せたのは失敗だったと、メイユウ·スペシャルの前でうなだれる。


「ほら、さっさと食いな。冷めちゃうよ」


そう言いながら出されたメイユウ·スペシャルをレンゲを使って口へと運んでいた。


真っ赤な塊を、実に旨そうに頬張る彼女を見て、ランレイは開いた口が塞がらない。


「食わず嫌いしちゃダメだって。想像しているよりも旨いから」


「いや、嫌いとかじゃなくて食べる前から味は想像できるんだけど……。い、いただきます……」


そして、観念したランレイは、ケッチャプの味しかしない焼き飯を少しずつ食べるのだった。


「その子、メイユウのお友だちなの? 猫に人格と記憶を移した人なんてめずらしいね」


リーシーが食べているところに声をかけてきた。


気さくに返事をするメイユウを見るに、どうやら二人はそれなりに付き合いが長いようだ。


メイユウはランレイが死にかけていたところ助けて、機械猫の体を与えたこと。


そして、その体の代金の返済のため、これから自分の店で働いてもらうことと説明した。


「へえ、そうなんだ。ランレイっていうのね。私はリーシー。この店『定食屋 飲みだおれ』の店主と看板娘をやってるの」


「よろしくです……」


ランレイは自分で看板娘とか言うのかと思いながらも、そのことは突っ込まずに礼儀正しく頭を下げた。


ランレイは、再びリーシーのことを見上げ、よく見る。


三つ編みを後ろに流しているエプロン姿。


快活で可愛らしい外見をしている彼女の容姿に、たしかにこの人が看板娘ならお客さんも集まりそうかもしれないと思っていた。


(だけど、メニューに焼き飯しかないのは問題だなぁ……)


そして。昼食時のこの時間に他の客が誰もいないのは、出された料理のせいだと理解していた。


「メイユウはうちにお得意さんなんだ。だから私、店ともどもよろしくね」


リーシーが満面の笑みでそう言ったときに店の戸が開いた。


どうやら他にお客さんが来たようだ。


ランレイは、メイユウのような悪食、もとい物好きな人がいるもんだなと思っていると――。


「リーシー。いつものやつお願いね」


「いらっしゃいませシェンリアッ!」


ランレイは、そのオーダーに気を取られ、入ってきたリーシーがシェンリアと呼んだ客のほうを見た。


そこには、短い髪をしたチャイナジャケットの下にタンクトップを着た女性が立っていた。


年齢もメイユウと同じ二十代前半くらいに見え、彼女と同じく背が高くスタイルもいい。


目つきは悪いが、とても美人。


そのシェンリアと呼ばれた女性はズカズカと店に入って来ると、ランレイのいたカウンター席の隣に腰を下ろした。


「なんだ? いたのかよジャンク屋」


「あんたこそ。メニューくらい席に着いてから頼めば」


先ほどのリーシーが振りまいた穏やかな空気はどこへやら――。


メイユウとシェンリアはランレイを挟んで、何やら殺伐とした空気が流れ始めた。


「相変わらず気味のわりぃもん食ってんな。てめぇ、そのうち絶対に体壊すぞ」


口悪く声をかけてくるシェンリアを無視して、メイユウは淡々と食事を続けている。


ランレイは、口は悪いが、この人のいうことも最もだと思っていると、リーシーが出来上がった料理を出してきた。


「はい。シェンリア·スペシャルお待ちどうさま」


「えぇぇぇッ!?」


出された料理を見たランレイは、思わず叫んでしまった。

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