第4話
その後――。
大量の瓶詰めトマトケチャップの入った紙袋を抱えたメイユウは、呆れているランレイと共に店を出た。
「他に何か買うものはないの? 水とかさ」
「ないなぁ~。無駄遣いはよくないし」
「さっきのは無駄遣いじゃないの……?」
メイユウは、訊ねてくるランレイにやる気なく答えた。
ランレイとしては、トマトケッチャプの瓶詰めを三十、四十個買うことはかなりの無駄遣いではないかと思っていた。
だが、人の好みにや金の使い方を注意してもしょうがないと、何も言わずに大きくため息をつくのだった。
「ホントに水いらないの? 物乞いをしてたあたしたちでも買ってたのに。いくら沸かしても水道の水は飲み水としては体に良くないんだよ」
「大丈夫大丈夫。先のことなんてわかんないんだから、一生懸命に日々を過ごしていれば大丈夫」
ほぼ無法地帯であるクーロンシティの地下ローフロアのライフラインは、住民の多くが電気や電脳ネットワークの廃線を勝手に引いてきており、通信などは使用できるものの、剥き出しの廃線などがあり、時々ボヤ騒ぎが起きるなど安心して電気が利用できる状態ではない。
また、水道もまともに通っておらず、業者を呼んで地下水をくみ上げる形になっており、ローフロアに何ヶ所かある給水所へ足を運ばなくてはならないうえ、そのままでは飲めず、沸騰させてから利用するなど、苦労が絶えないのだが。
どうやらメイユウは、あまり自分の環境への配慮に関しては気にしないようだ。
「メイユウって、自分のことにも無関心なんだね」
「まさかぁ。わたしは愛に生きる女だよ。ようは無関心とは反対に位置する存在というワケ」
「そんな死んだ目をした聖女はいないと思うよ……」
しばらく歩きながらそんな会話をしていると――。
メイユウが時間も時間だから昼食を食べに行こうと言ってきた。
「行きつけの定食屋があるんだけど。この近くだし、せっかく外へ出たんだし、食べに行こうか?」
「なんかそのしーしー話す言い方は気になるけど……。あたしは別にいいよ。でも、さっき無駄遣いはよくないって……」
「はい。では行きましょう」
ランレイが了解後に――。
先ほど言ったことを突っ込まれたメイユウだったが、会話をスパッと切って定食屋へと歩を進める。
「あッ!? もうッ、だからあまり早く歩かないでってばッ!?」
そして、メイユウの後を追い、ランレイは彼女の行きつけの定食屋へと向かう。
そのメイユウの行きつけも、先ほどの店『グルメショップ 食いだおれ』と同じような外観だった。
商売っ気があるとは思えない感じで、安っぽいネオン看板だけはピカピカと派手に輝いている。
「『定食屋 飲みだおれ』……って、さっきの店の姉妹店とかなのかな……? というか、定食屋なのに飲みだおれって……」
その看板の文字を読んでいたランレイを置いて、メイユウは先ほどの店のときと同じように店へと入って行った。
「ああッ! だから置いて行くなよッ!」
慌てて入った店内は、薄暗くあまり清潔とはいえないテーブルやイス、油でギトギトした床が目に入った。
それでもローフロアの飲食店としては、まあ整理されているほうであろう。
メイユウはランレイの首根っこを掴んで、カウンター席へと彼女をそっと置いた。
そして、メニュー表をポンと渡してくる。
「好きなものを頼んでいいよ。ここはなんでも安いし」
「あ、ありがとう。でも、あたし飲食店初めてだから、何がおいしいのかわからないよ」
「じゃあ、わたしと同じのでいいね。リーシーいつもの二つね」
そして、目の前にいたリーシーという少女に声をかけるメイユウ。
リーシーは元気よく返事をすると、早速調理を始めていた。
ランレイは、中華鍋の下から吹く豪快な炎に思わず見惚れてしまう。
「この店は焼き飯がウリなんだよ」
セルフサービスである水の入れたコップをへ渡され、ランレイが舌を伸ばしてその水を舐めていると――。
「お待ちどうさまです。こちら、メイユウ·スペシャル二つになります」
張りのある声と笑顔で言うリーシーを見たランレイは、その可愛らしい顔を見てどうもと頷き返した。
(あたしよりちょっと上で、メイユウよりは年下かな?)
リーシーの年齢を考えていた彼女が、目の前に出された八角皿を見ると――。
「って、こ、これはッ!?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます