もしや、あいつに呪われているのか


 いつもの厨房で、イラークは真っ赤な液体の煮えたぎる鍋を見つめていた。


 旅の男にもらった赤い香辛料を大量に突っ込んでみたのだ。


 あと、なにを入れるかな……と思ったとき、海老が頭に浮かんだ。


 いや、海老以外で。


 かなり辛いからな。


 後味が爽やかに感じられるような――


 海老。


 いや、海老じゃなくて、とまた頭に浮かんだそれを振り払う。


 赤に映えるのは緑だろう。


 そこはやはり新鮮な――


 海老。


「おのれ~っ」

 イラークは赤い鍋を見つめてうめく。


 あの海老海老うるさい偽アンブリッジローズのせいで、頭に海老しか浮かばなくなったではないかっ、と思ったとき、真横で声がした。


「わあ、すごい色ですね。

 なに煮てるんですか?


 ……海老?」


 イラークは知らぬ間に真横に立っていたアキを振り返り言う。


 王子の一団が湖から帰ってきたようだった。


「だから、なんで、海老だ。

 っていうか、何故、此処に戻ってきた」


「いや、赤いから。

 そして、ちょっと此処に用事があったからです」

とアキは言う。


 ほう、そうかそうかっ。


 頭の中は、さらに海老まみれになり、他のアイディアなど浮かびそうにもない。


 ヤケになりながらイラークはアキに訊いた。


「で、誰なんだ?」


「は?」


「お前は誰なんだと訊いてるんだよ」


 アキは、ええっ? という顔をし、

「私のこと忘れましたっ?

 もしや、実はあそこは時の湖で、1000年経ったとかっ?」

と言ってくる。


「1000年経っても俺が此処でこうして宿屋をやってると思うのか」

と言ってやったが、アキはあっさり、


「やってると思います」

と言ってきた。


 きっとロクな意味で言ったんじゃないだろうが。


 ちょっと嬉しかった。


 この仕事が天職だと言われている気がして。


「莫迦。

 お前の名前は元に戻ったのかという意味で訊いたんだ。


 お前はアンブリッジローズなのか、タイガー・テイルなのか」


 ああ、とアキは笑うと、


「無事にアンブリッジローズに戻りましたよ」


 そう言ってきた。


「そうか。

 じゃあまあ、とりあえず、座って食え。


 ……海老を入れてやる」

 新メニューの鍋を見ながら言うと、アキは、わあい、と子どものように喜んだ。


 そのまま行こうとする彼女にもう一度訊く。


「で、なんで戻ってきた?」




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