電源を入れてみました
「ちょっと電源、入れられそうなくらいには溜まりましたね」
アキはその懐かしい感じのする赤い折り畳み式の携帯の電源を入れてみた。
チャラ~ンという軽快な音とともに画面が起き上がってくる。
「他を見ては悪いので、プロフィールだけ見てみましょうか」
異世界から来た誰かが落としたのだろうかな。
ガラケーだから、ずいぶん昔に落としたものなのかもしれないけど……。
でも、今も使ってる人、結構いるしな、と思いながら、アキはその携帯を動かしていたが。
「あ、しまった。
通話履歴を出しちゃった……
ん?」
『家』という表示の下に番号も出ているのだが。
その番号に、なんだか見覚えがあったのだ。
「この番号……」
「どうした?」
と王子が横から覗き込んでくる。
「気のせいでしょうか。
うちの番号のような気がするんですが……」
「番号?
なんの番号だ。
金庫の番号か?」
と王子が訊いてくる。
そうか。
まだ電話とかないみたいだからな、この世界、と気づいたアキはできるだけ王子たちにもわかりやすいよう、説明してみた。
「電話番号ですよ。
えーと。
この機械で遠く離れた相手と会話ができるんですけど。
電話番号というのは、その決まった相手の声が、この機械から聞こえてくるために必要な暗号みたいなものなんです」
そう説明しながら、アキはチラと履歴を見た。
ざっと見た感じでは、他の番号に知っているものはないようだった。
今度はプロフィールを呼び出してみる。
住所やなにかは入っていなかったが、名前は入っていた。
『藤堂ハルコ』
「……藤堂ハルコ。
何処かで聞いた名前ですね」
とアキは小首をかしげる。
藤堂。
トウドウ ハルコ……。
「あ、お母さん?」
「親の名前を忘れるな……」
と横から呆れたように王子が言ってきたが。
いやまあ、夫となろうとしている人の名前もなんだかんだで知らないままですしね、と思いながら、アキは他人のものではなかった携帯をマジマジと見つめる。
何故、これが異世界の森の中に落ちていたのだろうと思いながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます