新しい呪文



「修行して力が使えるようになるものもいるが。

 大抵の場合、そういう血筋に生まれたものが使えるのだ」


「へー、そうなんですか」


 アキは女神の説明を受けていた。


「お前は誰か力が使えるものの血族なのか?」


 そうアキは女神に訊かれる。


「いやあ、特にそんなこともないかと思うんですが。

 まあ、脅して悪かったです。


 そんな水浸しになられて」


 そうアキが言うと、後ろから王子が言ってくる。

「その人は初めから水浸しだ……」


「お詫びに、なにか温かいものでもと思ったんですが、なにもないんですよねー」


 王子の言いつけとは言え、いきなり攻撃したのは悪かったかと思いながら、アキがそう呟くと、


「火なら起こせますよ」

と後ろからラロック中尉が言ってくる。


 うーん、とアキは目の前の湖を見、

「あとあるのは水ですか。

 スープにならないですかね」

と呟いたが、王子は、


「……味がないだろうよ」

と言う。


「あ、そうだ。

 海老がありましたね、海老」


 そう言ってアキは、フリーズドライした布袋の中のエビを出してきて、手のひらに載せる。


 それを見て、女神がゾッとした顔をした。


「お前、私をそうするつもりだったのかっ」


「いえいえ、これ、お湯につけるとピチピチに戻るんですよ」


 ほう、とピチピチという言葉に、女神は急に興味を示した。


「すると、その状態になったり、戻ったりすれば。

 使いようによっては、いつまでも若くあれるということか」


「あれっ? 女神様って歳をとるんですか?」


「とらなかったら、今でも赤子だろ」


 いや、ある程度の年齢になると成長が止まるのかと思ってましたよ、と苦笑いしていると、女神は呟くように言ってくる。


「我々は、人とは身体の成長速度が違うんだろうな。

 非常にゆるやかに私の時は進んでいる。


 ついこの間まで、塔のアンブリッジローズは美しい少女だったんだが」


 どれだけゆっくり流れてるんだ……とアキは思う。


 アンブリッジローズは1016歳。


 千年前、日本で言えば、平安時代。


 このひとにとっては一瞬きの間なのだろうなと思う。


「しかし、若さを保てても、干からびさせられたうえに、湯につけられるのは嫌だな」

という女神の言葉に、うーんとアキは考える。


「……湯につけなくても戻る方法はないんでしょうかね?」


 待てよ、と思ったアキは、手のひらの海老に向かい、もう片方の手を伸ばし、


「リバースッ」

と言ってみた。


 海老がぴちぴちし始める。


「すごいっ」

と女神たちとともに自分も驚いたあとで思う。


 ほんとうに、この力、何処から来てるのだろうか、と。


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