信用がないようだ


「……だったら、ラロックに斬ってもらう。

 達人に斬られると痛くないと言うからな」

と王子は言い出した。


 いやいや、愛する者より達人ですか。


 っていうか、ラロック中尉は剣の達人だったのか。


 っていうか、斬る役目だけじゃなく、愛する者の立場までラロック中尉に持ってかれたみたいで、ちょっと面白くないのですが。


 などと思っている間に、ラロック中尉があっさりすっぱり王子の指を斬り、王子はその血を湖に落とした。


 一滴のはずの血が水面を中央に向かって伸び、ぱっと白く光って弾けた。


 一瞬、湖の中央に月が出たようになる。


 その白い月から周囲に向かい、波紋はもんのように水面を波動が走った。


「うむ」

と女神は頷く。


「クローズ家の血族で間違いないようだな。

 よかろう。


 さあ、宝を取りに行くがよい。


 宝はこの湖の底にある」


 ……なんだって?

と全員で訊き返していた。


「湖の底にある」

 アキたちの表情を受け、女神は繰り返した。


「湖の中央に地下に通ずる階段があるのだ」


 あのー、とアキが訊いてみる。


「……その階段、水が張ったときだけ出てくるんですか?」


「いや」


「じゃあ、水が張らないときの方が取りやすかったんじゃないですかね?」


「細かいことを言うな、娘よ」

 女神は金色の目で、マジマジとアキを見たあとで言う。


「ところで、お前、何処かで見たことがあるな」


 その言葉にアキは小首を傾げた。


「私は貴女にお会いしたことはありませんが」


 そうか。

 変だの、と言っている間に、王子たちはじゃばじゃば水の中に入って行っていた。


 浅瀬なのでかまわず行けるようだ。


「行くぞ、アンブリッジローズ」


「ほう。

 お前、アンブリッジローズというのか。


 私の友人と同じ名だ。

 お前、もしやアンブリッジローズの子孫か。


 顔も似ておるな。


 アンブリッジローズは彼女がとつげば、その国がかたむくと言われるほどの美女だったが……」


 そうだ、まさに傾国の美女だった、と女神は口の中で繰り返したあとで、もう一度、アキを見、


「……ちょっとだけ似ておるな」

と失敬なことに言いかえてきた。


「いえ、たぶん、そのご当人は私に面倒ごとを押し付けて、塔で呑気にしておいでです」


 ああいう性格だから、元気で長生きなんだな、と思う。


 アキは、とことんマイペースっぽかった魔女アンブリッジローズを思い出していた。



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