あれは神です
朝の光にきらめく湖を眺めながら、宿の庭でアキたちは朝食を食べていた。
レモンとハーブのオープンサンドに山盛りのフルーツ。
それに真珠入りの葡萄酒。
この世界の人たちはワインを呑まねば働けないのか、と思いながらも、真珠により、炭酸飲料のようになった葡萄酒を呑む。
……いい世界だ。
これはこれで。
いろいろ思っていたわりに、呑んだ結論はそれだった。
朝食を終え、いざ、出発しようとしたが。
王子がラロック中尉と広い玄関ホールの肖像画の下で、何事か相談している。
「アンブリッジローズ、今着ているものを脱げ」
と王子がこちらに向かい、言ってきた。
いや、今朝も中尉に素敵なドレスを出してもらっていたのに。
シフォンジョーゼットのような透け感のある軽い素材を幾重にも重ねたクリーム色のドレスだ。
馬に乗れるようにあまり豪奢な作りにはなっていないが、可愛らしいデザインだ。
なにかメキメキ腕を上げてきてるな、とアキはラロック中尉を見ながら思う。
王子がなにか言い、ラロック中尉が頷いた。
「わかりました。
では、あの上に着られるものでも良いかと」
とこちらを見て言う。
中尉に招かれ、ふたりで今まさに兵士たちが馬車に乗せんとしていた木箱に触れた。
ぎぃぃぃとちょっとホラーな音を立てながら、中尉が木箱を開ける。
中から、やたら頑丈そうな
「これを着ていけ。
この先はかなり危険だ」
と王子がそれを手渡し、言ってくる。
危険って、どんな感じにですか、と不安になりながら、ドレスの上からそのローブを羽織ると、見た目より、ずっしりした重みがあった。
まず、このローブを着て馬に
「……身体が鍛えられそうです」
とアキが呟くと、王子は、ふむ、とこちらを見て考え込み、
「そうだな。
逆に逃げにくいかもしれないな、重さで」
と言ってくる。
逃げるって、なにから……?
と思っていると、王子は、
「わかった、脱げ」
と言ってきた。
「ああいえ、着てみます。
忍者も
「ニンジャとはなんだ」
「神です」
と忍者をリスペクトするあまり、よくわからないことを言ってしまう。
「ほう。
お前の世界の神はニンジャというのか」
……よくわからない伝わり方をしてしまったようだ。
結局、二人乗せたうえに鎖帷子まで着込まれては馬が走れないだろうということになり、鎖帷子のローブは脱いだ。
それを木箱にしまってリサイクルしながら、馬車にのせる。
見送りに出てくれた宿の人たちが、その様子を見ながら、ひそひそと話しているのが聞こえてきた。
「余程大事な木箱なのか?
姫が馬に乗って、木箱が馬車だぞ」
はあ、私より、木箱様の価値の方があると思いますね、とアキが思っていると、
「莫迦だな。
姫が狙われないよう、馬車には木箱だけをのせて
と宿の従業員が言っていた。
いや、それだと、馬車より先に私が馬で走っていくの、おかしいですよね、と思ったが、もう突っ込まなかった。
王子の言う危険な地域に向かい、出立する。
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