第51話 もしも──

 八月九日の朝、セリシアのことを思い出した俺はふと小学校の頃の写真を漁っていた。

 多く残ってるのは三年生の頃の、遠足の写真だ。


「そういえばそのときの俺、結構やんちゃだったっけな?」


 目に映るのは泥だらけになった自分の元気そうな笑顔。今の自分には想像できない、かなり目立ちたがり屋な少年だったことを思い出す。


「……っておいおい、これはヤバいだろ……」


 最悪だ、というか分かっていたというか……。

 写真のほとんどには、怖いくらいセリシアが背後に写っていた。こいつ小学校のときからヤバいやつじゃん!!


「あっ、こいつって確か」


 そこでまた一つ、懐かしい写真が見つかった。

 それは遠足のバスで隣に座っていた、一人の女の子の写真。

 銀縁メガネが特徴の、赤い前髪が目にかかるほど伸びていた子。俺の隣で本ばかり読んでいた女の子。


 そして──勇気を出して俺に告白してくれた女の子。


「……懐かしいな」


 確か俺、あの子のこと振っちゃったけど「次会ったらもう一度告ってほしい」なんて言ってたっけな。まぁ、さすがに本人は覚えてないだろうけど。


 そういえばこの子、なんて名前だっけ? 


「えっと、確か……」

「なっつかしぃ~! 倉坂美唯くらさかみゆちゃんじゃ~ん!!」

「琴ねぇ!?」


 突然背後から現れた姉に、俺は思わず引きつった声を上げた。


「いつの間に帰ってきたんだよ」

「さっき! ウタが懐かしそうに写真漁ってたときからずぅ~っと!」

「……全部見てたのかよ」


 まぁだからと言って特に何もないのだが、帰ってきた時くらいはインターホン鳴らすなり、一声かけてほしいものだ。それをいつもやらないのが、うちの姉なんだが。


「この子あれでしょ? ウタの初恋の相手でしょ!?」

「ちっ、違わなくないけど、それ言うなよ恥ずかしい──」

「それに、ウタが変わった理由、だよね?」

「…………」


 頭の隅に置いていた思い出したくないことを、͡琴ねぇに引っ張り出された。


「それ、言うなよ……」

「あぁ、ごめん」


 反省して顔を沈ませた琴ねぇ。けれど数秒経って、何かを思い出したかのようにハッと顔を上げた。


「そういえばこの子、最近どっかで見た気がするんだよねぇ~」

「倉坂を?」

「うん」


 まさか俺に告白してくれた女の子がこの町にいるのか!?

 まさか花火大会で俺のことを……、って、これじゃあ修羅場になるじゃねぇか!!

 突然のヒロインレースを示唆する展開になるかもしれないことに焦る俺。


 だけどこの後──。


「ウタが友達三人を家に招いたときだっけ。その中にいた気がするんだよねぇ?」


 は? それって確か颯人はやと牧原まきはら久住くすみさんが俺の家に来た時の──


「確か倉坂さんに似た赤い髪の女の子が……」


 いや、ただそっくりなだけで、人違いだろ?


「そういえば、あの子も『美唯みゆ』って言う子だって、ウタ言ってたよね?」


 ホントだ。でもそんな偶然が……。


「それにほらこの写真、どことなくあの子にそっくりだし……」


 …………………………………………

 ……………………………………

 ………………………………


 言われてみれば、久住さんそっくりだ。

 だけどこんなの、ただのそっくりさんだろ?


 けれどその考えが、どんどん崩れ去るのだった。


「そういえばあの子、ちょっと変わってるって言ってたよね? 颯人くんの恋を応援してほしいと頼んだけど、どういうわけかウタとの距離が近い、みたいなこと言ってたよね?」

「……確かに」

「でもそれ、倉坂さんだって仮定すると辻褄つじつまが合うんじゃない?」


 辻褄が合う、とは。琴ねぇが続けて仮説を述べる。


「あの子はアンタとの別れ際の一件で、ウタに近づけなくなった。ウタに近づいたら、また誰かにいじめられるんじゃないかって」

「いや、まさか──」

「だから間接的に近づいた。大好きなウタに近づくための口実を作った」

「でも、それじゃあ久住さんが俺を騙してるみたいじゃ──」

「そうよ! きっとアンタに近づきたくて!! アンタに自分が『倉坂美唯だ』って気づいてほしくて仕方がなかったんだよ!!」


 いきなり声を張った姉さんに、俺は少し驚いて硬直した。

 けれど今度は、声のボリュームとトーンを落として続けた。


「……まぁ、あくまで仮定だし。私とてその子のやり方に賛成するわけじゃない」

「……」

「でももしそうだったら、許してあげて。彼女もきっと、いろいろ考えたんだと思う。いろいろ悩みながらアンタとの高校生活を送ってたと思うから」


 そうか、もしそうだったら俺、ちゃんと気づいてあげなきゃな。


「ウタ? どこ行くの!?」


 バッと立ち上がり、俺は家を出て行った。

 今日の夜、すべてを終わらせるために。お互いにかけられた呪いに打ち勝つために──。


「ちょっと、散髪行ってくる!!」



【あとがき】


 皆様、大変、大変長らくお待たせしました。

 この間、忙しい中でこのストーリーのクライマックスを何度も見直したり書き直したりして、ようやく第一部完結まで書けました!


 ということで明日の20時、52話と53話の二話を投稿し、この作品のメインストーリーを完結致します!!

 何卒、首を長くして待っていただけると幸いです!!!


 最後に──。


「面白い!!」「すこ!!」と思った読者様にお願いです。

 良ければ☆や応援、応援コメント、作品のフォローなどしていただけると嬉しいです!!

 それらは僕の血骨となり、更新速度もどんどん速めてまいりますので、何卒よろしくお願いします!!!!

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