第49話 「好き」と言えない私と「ごめん」と言えない彼
(前書き)この話は、第三話の裏で起っていた出来事です。
三話の内容、そこで颯人の言ってた言葉と照らし合わせると面白いかもです。
〇
あれはウタくんに初めて、「私と雪村くんの仲を取り持って欲しい」と頼んだ日のこと。
私は舞香に連絡先を教えてもらって雪村くんにLINEした。
最初は何気ない挨拶から。だけど既読がついてから返信がしばらく無く──。
「?」
そして返信が来るより先に電話がかかってきた。
初めて話す相手は電話からなのだろうか。私は疑いも躊躇いも無く電話に出た。
「もしもし?」
「あっ、久住さん、だよね?」
「うん、そうだけど」
「悪いな、いきなり電話かけてきて。時間は大丈夫??」
電話越しとはいえ、少し緊張していた私と違って、彼は既にリラックスしている様子で、噂通り明るく話しやすい、爽やかな少年であった。
だからきっとこういうのに慣れているのだろうと思った。
最初はウタくんのことから始まり、あとはお互いの話をしたりして──気付けば話題は恋愛に代わっていた。
「それで、雪村くんはいるの? 好きな人」
今思えば、この話に誘導させられていた気がする。
そして、ここで彼は答える。今となっては「計画通り」と言わんばかりに聞こえる口調で──。
「……いるよ。好きな人」
「えっ……」
「ん?」
「……あぁ、ごめん! へぇ、いるんだ。好きな人」
当時の私もこのトラップに気付き、更なるステップを踏み込んだ。
「ねぇ雪村くん」
「ん? なんだ?」
「もしかして、いつもこういう風に立ち回ってるの??」
「…………」
さっきの明るい態度が一変。まさに図星といったところ。
そして目的もなんとなく分かっていた。
好きな人の有無は分からなかったが、おそらく「付き合うつもりが無い」伝えるつもりであろうとまでは思えた。
「……なんか、ごめん」
「ううん、大丈夫。素直に言えない気持ち、わかるから」
そう、彼も同じ。
私が「好き」の気持ちが素直に伝えられないように、彼もまた好意を寄せて迫る女の子たちに「付き合うつもりは無い」と言えないのであった。
「なんか、罪悪感を感じちゃうんだよな。ごめんって断るの」
彼曰く、その言葉を言う度に胸が締め付けられるとのこと。
「でも、こうやって立ち回ると楽だなって思って。ひどいだろ? 相手はきっとショック受けてると思うのに、俺だけ楽な方に進んでさ」
「……」
「あぁもちろん、全員が全員じゃない。気になるなと思った子には、俺からもアプローチしたことあったし……」
「……ということは私、雪村くんにフラれちゃったわけか」
そう言って苦笑すると、彼はまた「ごめん」と言った。
「そういうことだからさ。今日はその……縁が無かった、って言うのもおかしいよな──」
「待って! 雪村くん!!」
「?」
「わ、私、実は友達の藤澤くんが好きなの!!!」
ここで私も、本来の目的を打ち明けた。
「小学校の頃から好きで。でも一度はフラれたけど『またその思いを伝えて欲しい』って言われて……」
でも、その「好き」という言葉が伝えられなくなった。
そのことまで打ち明けていた私だが、気付けばあの物語のように「私も~」なんてことを言っていた。
「……って私、何言ってんだか。ごめん忘れて!!」
「……はははっ」
「もう、笑わないでよ!」
「はははっ、いやぁごめんごめん。久住さんってメルヘンな一面があるんだなーって。まさに『夢見る少女』って感じだな」
……からかわれた。完全にからかわれた。
当時は恥ずかしすぎてここで話を終わらせてやりたいとまで思ったが、ここで私は羞恥を押し殺して話を進めた。
「ねぇ雪村くん」
「おっ、なんだ?」
「こんな形、だけどさ……」
一呼吸置いて、私は勇気を振り絞った。
「私と藤澤くんの恋、応援してくれますか」
〇
久住さんを背負って皆が集まるところにたどり着いた俺。
久住さんは無事に保健室まで運ばれ、俺は颯人たちに心配されてから先生にこっぴどく叱られた。
「これからは何かあっても、絶対に一人で動くなよ?」
「はい、失礼します」
宿の一室から、とぼとぼとした足取りで出て行ったわけだが……。なんかすげぇ腹痛い。
「ひどい叱られ
部屋の前で、セリシアが腕を組んで俺を待ち伏せしていたみたいだ。
「あぁ……、アンタか。腹痛の原因は」
「ははっ、ひどいこと言うもんだね藤澤クンは」
「冗談だ……、と思う……」
……ヤバい。
「それで藤澤クン」
「ちょっとタンマ。トイレ行かせて」
くそっ、情けないぜ。助けてくれ。
俺はセリシアを置いて、ひとまずトイレに駆け込んだ。
「ははっ、このまま逃げられると思ったんだけど。ちゃんと戻ってきてくれたんだね」
「いくらトラウマがあるとはいえ、当たり前だ。どうせ俺に何か用があるんだろ?」
トイレからセリシアの元へ戻る俺。
用を聞くと、不服そうな顔を向けられた。
「……メッセージ、見てないんだ」
「あぁ、悪ぃ……」
「もういいよ。今ここで言うから」
そう言うので、俺はケータイを見るのを止めた。
「それで、話って?」
「……八月九日、のことなんだけど」
「あー」
確かその日は──
「花火大会の日、なんだけどさ」
「…………」
「その、空いてるかなって」
「もしかして、俺と花火大会に?」
「違う」
違う? どういうことだ??
そう聞こうとするが、セリシアはその前に答える。
「……実は私、また祖国に帰ることになったんだ」
「そっか。どれくらいだ?」
「……しばらくはこっちには来ないだろう。もしかしたら一生、ね」
「えっ……」
ということはもう、セリシアと会えなくなるわけか。
そして八月九日が、セリシアとの最後の日。
「それで、できればでいいんだ。キミだけに私を見送って欲しい──」
「行くよ」
「えっ……」
即答する他無かった。
いろんなことはあったが、それでも大切な存在なんだ。
『花火大会に行け』と言った舞香には悪いが、花火大会よりもセリシアとの最後の時間を優先する自分が真っ先に出てきた。
「それで場所は? 時間は?」
「……やけに食いつくんだね。花火大会はいいのかい?」
「そんなの、時間次第で間に合うし。それに場所次第なら花火だって見えるだろ??」
花火なんて毎年見れる。
だけどセリシアには毎年といった頻度で会えなくなるんだ。
花火大会だの舞香が言ってたジンクスだの、そんなの今は考えられないでいた。
「……確かにそうだ。それに、そこまで言われると話は早い」
「……ということは?」
「八月九日、花火が見える空港に、十九時に来て欲しい」
そこで花火を一緒に見て欲しい。
別れを惜しむセリシアの寂しげな表情からはそんな感情が
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