『久住さんの恋のキューピッド』って設定ですよね?

第44話 たとえ星が見えなくても

「なんだよ、急に外に出ようだなんて言い出して」


 俺たちは平林に連れられて、旅館の外を出る。

 幸いウチの学校はまぁまぁ自由なところがあるため、見回りに来る先生なんていないが、まぁバレたら良いイメージはつかないだろう。


 今は午前4時。外はほんの少し明るく、あと一時間もすれば朝と変わらずの明るさとなるだろうか。


「それで? 打ち明けてくれるんだよね?? キミの好きな人!!」

「わかった!わかったから近づくな

 気持ち悪い!!」


 鼻息を荒立てて容赦なく迫る道重ホモを平林が懸命に離すと、しばらく黙り込んで顔を上げる。


「……今日は、星が綺麗だな」


 いや、木々が茂りすぎて見えないから。そもそもこんな時間に見えないから。そういう時間稼ぎいらないから。


 ……なんて思ったが、きっと彼なりに一呼吸置いているのだろう。


 平林が顔を下に戻すと、また顔を上げて答えた。


「……俺さ、実は堀田ほったのことが好きなんだ」


 堀田 愛奏あかねさん──俺たちの班のリーダーで、調理実習や球技大会などで何度か俺と面識がある。

 更に平林はこう続ける。


「アイツとは幼稚園の頃からの付き合いでさ……。もう時効だから話すけど、小学校の時に『将来は戦隊ヒーローになって、アカネを守る!!』なんて書いちゃうほどでさ……」


 平林は恥ずかしげに笑いながら頭を撫でた。


「絶対、堀田に言うなよ?」


 そして、念押し。

 心配するな。そんな言葉、口から出すだけでも恥ずかしくて言えないから。


 彼は普段、堀田さんのことを苗字で呼び、彼女もまた彼を苗字で呼ぶ。

 けれど小学校のときは堀田さんのことを『アカネ』と呼んでいたみたいだ。

 その変化とは──。考えていると、すぐさま答えが出た。


「でも、なんだろうな。小学生って謎に女子のことを下の名前で呼ぶのを揶揄からかう文化ってあるよな? それが嫌で、いつの間にかアイツも俺も互いに苗字で呼び合うようになって、気がついたらそれが定着してたんだよな……」


 あるあるだ。俺たち二人も「わかる」と返した。

 確か俺の学校にもその文化が根付いていて、初恋の相手とはずっと互いに苗字で呼び合ってたっけな。

 そしてそれが定着すると、簡単に戻らない。「下の名前で呼ぶ」→「苗字で呼ぶ」という変化は、簡単に可逆的にはならないものだ


 そのきっかけの一つ、それこそが──恋人同士で付き合うことである。


「だからさ俺、アイツに告ろうと思うんだ。もう一度名前で呼べるような関係に、いや、『好きだ!』って気持ちを乗せてアイツの名前を呼べる関係になるために」


 告白……。俺の嫌いな言葉。俺を変えてしまった言葉だ。

 だから、こんなことを聞いてしまっていた。


「……それで、フラれたらどうするんだ?」


 きっとフラれたら傷つくのだろう。良くない輩に兎や角言われ、傷を抉られるかもしれない。


「ん? フラれたらどうするかって??」


 けれど平林はそんなことを一切考えていないような、きょとんとした表情をしていた。

 そしてニカッと笑ってこう続ける。


「別にどうもしねぇし、どうもならねぇよ」


 なんて前向きだろう。いや、何も考えていないのだろうか?


「フラれたらいつも通り、友達以上恋人未満の関係のまま。苗字で呼び合う関係のままだ。それに俺の気持ちが、フラれるのをきっかけに冷めるとは思わねぇな」


 彼は更に言った。


「それで誰かにイジられようが構わねぇ。まぁ……、さすがに堀田がいる前でイジられたら、話変わるけどな」


「じゃあもし、堀田さんに好きな人がいたら?」


 横から道重みちしげが投げかけたのは、まるで俺の現状を的確についたような質問だ。

 どんな答えが返って来るのだろうか──。俺は真剣に耳を傾ける。


「んー……、まぁ、そりゃちょっとは戸惑うかもしれねぇ。でもさ──」


 また顔を上げ、目を凝らして平林は言った。


「それでも諦め切れないって思える程、俺のアイツへの気持ちはどうかしちゃってるんだよ」


 諦め切れない──その気持ちは俺とは真逆だった。


「……じゃあさ、平林」


 俺もまた、空を見上げながら問う。


「相手に好きな人がいても、気持ちくらいは伝えてもいいんだよな」

「……そうだ。それで好きな人ってのが襲って来ても俺はボコボコにされてでも立ち向かう」

「じゃあ、お前を好きだって人が他にいたら?」

「それでも俺は自分に正直になる。だから『ごめん』って断る覚悟なんてとっくにできてるし、実は何回か断ってきてもう慣れたんだよな」


「好きだよ、平林くん♂」


「お前は黙れ」

「いだっ!!!」


 突然迫る道重ホモの額にデコピンを喰らわせた平林。ホモの取り扱い方法はパーフェクトだ。


「……じゃあ、最後に聞く」


 俺は最も核心をつく質問を投げかけた。


「堀田さんがお前の友達のことが好きだったら、どうする?」

「…………………………」


 けれど、答えが返ってこない。さすがにその状況は想定外だったか?

 そう思ったとき、平林は口を開く。


「……わかんねぇ」

「……そうか」

「あぁ。だって中学の時に同じようなことがあったからさ」

「そう、だったのか」

「……中学の時、堀田が野球部の友達と付き合ったことがあったんだ。告ったのはまさかの堀田の方で、一年もしないうちに友達がフッた」

「──ってことは……」

「もしかしたら堀田のやつ、まだそいつのことが好きなのかもしれねぇし、そんなアイツを振り向かせるなんて出来ないかもしれねぇ」


 空を見上げるのを止め、顔を俯かせた平林。だけど彼の目は死んでいなかった。


「……それでも俺、必死になるかもしれない。しつこく迫らず、ただアイツが俺を振り向いてくれるまで自分を磨き続ける。アイツが好きだった男に負けないくらい……」

「……平林」

「そしたら最初に言ったみたく、友達に襲われても勢いよく殴ってやる。喧嘩に発展したって構わない」


 ──だって、それくらいアイツが好きだから……。


 実際に口にはしなかったが、この後に平林の口から出ると思った。証拠にその言葉が幻聴として耳に入った。


「……そろそろ行こうぜ」

「あぁ」


 そう言って俺たちは立ち上がった。

 あぁ、ホモなら無事だ。道重みちしげいわく「ホモは生命力が高く、ゾンビみたいに地を這う」らしい。どこの世界のバケモノかな?


「……ありがとうな、平林」


 旅館へ入る直前、俺は言った。


「あぁ、頑張ろうな」


 ──やっぱり、バレてたか。俺の思い。



「あっ」

「いた」


 旅館の入り口にて、俺は舞香と目が合った。


道重みちしげに用か?」

「違う。アンタ」


 どうやらこんな時間に俺のことを探していたらしい。道重にも構ってやれよ。ホモ化が進んで大変なことになってるからさ……。


「……で? 俺に何の用?」


 そう聞くと、舞香はキリッとした表情を一ミリも変えないまま──


「アンタのことで、ちょっといい?」




【あとがき】


今日から新連載始めました。同じく17時に投稿しており、今日中にプロローグと4話投稿する予定です!


タイトルは

『日本一賢い高校の劣等生、不登校の天才四姉妹の家に監禁される』

https://kakuyomu.jp/works/1177354054902026312


ジャンルはラブコメで、タイトルや序盤の作風は今まで以上にかなりぶっ飛んでます(笑)

ですがこの作品は夢や目標、更には学生ならでは悩みである『進路』をテーマにした青春ラブコメとなっております。


詳しい概要は近況ノートに書いておりますが、それよりも作品を読んでくれると嬉しいです!!

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