第42話 ご想像にお任せします
「「「はぁぁぁぁぁ…………」」」
広々とした露天風呂に着き、早速湯船に身体を沈める俺たち男三人組。夏だから暑くて耐えられないと思っていたが、ここはやけに涼しいものだからむしろ心地良い。
「……なぁ、藤澤」
「なんだ?」
「さっきの初恋の人、どんな人だったか教えろよ?」
「……無理」
平林が今日一番のニヤニヤした表情を見せて迫るが、拒否。俺は平林から目を背ける。
「じゃあ、代わりに道重が初恋の話するからさ」
「ちょっ、なんで俺!?」
「よし、それ乗った」
「藤澤くん!?」
そう言われたら聞くしかないよなぁ!?
あの先を話すにしてもさすがに良い思いはしないが……、まぁ俺のは過去の話だし? 話したところでその初恋の女の子が現れるわけではあるまい。
それに道重の初恋の相手は間違いなく舞香のはずだ。それが聞けるなら、初恋の女の子の特徴くらい教えてやるよ。
「そこは言い出した君が話すべきじゃ……」
「まぁまぁいいだろ?? 俺も後で話すからさ?」
「……ほんとに?」
「あぁ。ということで話してもらおうかな? ほら? 藤澤もめちゃくちゃ気になってるみたいだし??」
俺が首をぶんぶん縦に振ると、道重はやれやれ、と言いたげな顔で話し始めた。
「……中学のとき、俺の所属するバレー部にマネージャーがいたんだ」
──うん、舞香だな。
「眼鏡をかけたポニーテールの子でさ」
──あれ? 舞香じゃない??
「その子は男勝りの気が強い女の子で、マネージャーなのに顧問の先生より怖い人なんだよ」
「お前、まさかそういうところに惹かれたのか?」
「えっと、まぁ……、そうだね。かっこよかったし」
──なんだ、舞香じゃん。
「でもオンとオフの激しい子でさ、普段は静かなんだよね」
──舞香じゃない!?
「それで? その子と何かあったか??」
「何かって言われても……、まぁ何回か積極的に話しかけたよ? まぁお互いが異性と話すのに不慣れで、全然話が続けられなくてさ。もうお互い、恥ずかしくなって顔も合わせられないくらいで」
まさかあの舞香(?)が顔を合わせられないくらい恥ずかしがった? 俺は舞香(と思われる初恋の相手)のウブだった頃のエピソードに舞い上がり、平林より先に「それで!?」と言って、道重に迫った。
「それで一回、勇気を出して告ったんだけどさ……」
「うん」
「……フラれたんだよね」
「……マジか」
──あれ? まさか舞香じゃないのか!?
「でもさ、諦められなくてさ……」
──ということは、まだ舞香の可能性が!?
そう思い、更に興味が沸いてきたところで平林が割って入った。
「わかった。もう十分だ、道重」
「えっ? あぁ、うん」
「いや、良くねぇから!!」
このまま終わられてしまったら、気になって夜も眠れないじゃないか!! 俺は立ち上がって声を上げた。
「落ち着け藤澤。このまま聞いて、もしバッドエンドだったらどうするんだよ?」
「そんなの、最後まで聞いてみなきゃ分からねえだろ?」
「お前、成就しなかった恋バナを最後まで話させるとか鬼畜過ぎるだろ!?」
「なんで成就しない前提で話すんだよ!!」
「まぁまぁ、二人とも……」
こうなったら結果さえ知れれば十分だ。成就しなかったのなら、慰謝料として旅館の売店で何か買ってやろう。
「道重、結局どうなったんだ??」
俺がそう聞くと、道重はクスリと笑って答えた。
「この先は想像に任せるよ」
〇
くそっ、焦らされた。
風呂に入って身体は綺麗さっぱりしたというのに、心の中は道重のせいでさっぱりしない。
結局、道重の初恋の相手が舞香なのか不明なまま終わり、平林は「俺もう熱くて耐えられねぇわ」と言って逃走。
薄々そんな気はしていたが、これで道重が許すわけでもなく。「夜に無理矢理起こして聞き出してやる」と怒りの混じった声で言っていた。
俺は風呂上がりにジュースを買うべく一人で自動販売機に向かうのだが、その先で一人の少女と出会った。
「あっ、久住さん」
「う、ウタくん!?」
見ると久住さんは顔が茹でられた蟹のように赤くなっている。触ったら熱そうだ。触らないけど。
「な、なんか暑いね?」
「ま、まぁ風呂上がりだし?」
「…………」
「…………」
ダメだ。話が続かない。これじゃ道重と舞香(?)の初恋エピソードみたいじゃないか。
「あっ、そろそろ戻るね」
「あっ、うん。それじゃあ、またね?」
結局、二人きりで話したのはこれっきり。颯人と結びつくための作戦会議とかできたはずだと言うのに、これ以上は口が上手く動かなかったのだ。
それでも「またね?」と言えるくらいは口が動いたのに「待って!」と呼び止めなかったのはきっと、チキン野郎の俺が「また後で舞香たちと合流できるしいいだろう」という考えを持って逃げた結果であろう。
でも、これで良かったのかもしれない。そう思わされたのは、俺と颯人と舞香、そして道重と久住さんの五人で舞香の部屋で集まったときである。
そのときはトランプで遊んだり、他愛もない話で盛り上がったりできたし、二人きりではないが、そのときに久住さんと楽しく話すことができた自分に満足していたのだ。
やっぱりこういう関係が楽しい。
楽しさのあまり興奮して、今いる空間がさっきの風呂場よりも暑く感じられた。
久住さんもそう感じているのだろうか、先程のように顔が赤くなっており、何度か手を扇ぐところも見られた。
(あとがき)
20時にもう一話投稿するよん。
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