第41話 正直な身体とウタの初恋話
『ウタくん先輩、わかってますか?』
『あの人と颯人先輩がくっつかないように、見張っててくださいね!?』
──くっつかないように見張る、ってなんだよ……。
次の集合場所へ向かう最中、牧原からの難題が書かれたLINEを見て、俺は思う。
それに我、恋のキューピッドぞ? そんな裏切り、謀れるものか。
『そんな無茶、できるわけないだろ』
『林間学校後にまた自分でアプローチ頑張るんだな』
とりあえず可愛い後輩からのLINEを無視するわけにもいかないので、断りの意志を提示して返信した。
さて、次は班ごとにカレー作りが行われるわけだが、どうやって久住さんと颯人をくっつけようか?
俺は林間学校のしおりを見ながら、今後の動きを脳内でシミュレーションするのだが……
「……えっ、これ無理ゲーじゃね?」
なんと、クラスごとに分かれたカレー作りの場所が、俺たちと颯人たちのクラスでかなり離れていることが判明。
しかも泊まる部屋も離れてるし、風呂なんて一緒なわけがない。
──あとはこのイベントの醍醐味である『肝試し』に可能性を賭けたいところだが……
『男女ペアは班内のくじ引きで選定』
はぁ、ダメだ。今日の俺は何一つ活躍できそうにないみたいだ……。
〇
集合場所へ集まると、班ごとでのカレー作りが始まった。
「それじゃあ男子は
班のリーダーである堀田さんの指示に従い、俺たちは動く。
その間、とりわけ目立ったことも事故も無くカレー作りが進むわけで、俺のキューピッドらしい活躍も無く──俺はただのモブとして、遠くからシェフ久住さんの大いなる活躍とセリシアが班の女子メンバーと馴染んでいる姿を眺めていた。
そんな俺に、平林が顔をニヤつかせながら話しかけてきた。
「どうした? 久住さんのいる班に混じりたいと思ってるのか??」
「いや、違う!」
「んなこと言ってぇ〜、照れてんじゃねぇかよ!」
「は!? いや、んなわけ……」
「はははっ! ホントに身体って正直だよなぁ!!」
身体は正直、か……。
平林は笑いながらそう言うが、俺はそうとは思わない。だって心の中での『久住さんと颯人をくっつけたい』という思いが自分の本音だと強く信じているのだから──。
「まぁまぁ、風呂の時間にじっくり聞かせろよな? お前のコイバナ!!」
「そう言うキミも聞かせてくれるんだよね? コイバナ」
「は!? 何言ってんだよ、
「いるんでしょ? 好きな人」
「いや、居ねぇから!!」
隣で歩く道重に迫られ、平林は頬を僅かに赤く染めた。
「そう言うキミこそ、身体は正直なんだね」
「ぐぬぬ……」
確かに、道重の言う通りだな……って、どっちだよ、俺!!
「まぁいいじゃないか。やろうよ、コイバナ。俺も包み隠さず話すから」
「「いや、お前のは要らん」」
どうやら俺と平林で考えが一致したみたいだ──道重と舞香の惚気話なんて要らねぇ!って。
「えーっ、俺と颯人くんのコイバナなのにぃ……」
「「もっと要らん!!」」
〇
カレー作りが終わった後、俺たちは宿に入り、班ごとに分かれた部屋へ移動した。
風呂に入るまで、時間があるということなので……、堀田さんがカバンからトランプを取りだした。
「ねねっ! ババ抜きやらない!?」
「おっ、いいね! やろうぜ!!」
「くくくっ……、言ったね? 平林??」
「な、なんだよ……」
堀田さんの誘いに平林が真っ先に乗ると、何やら怪しげな笑みを浮かべた。
「負けた人が罰ゲームを受けてもらうけど……やる? もちろん全員参加で」
……やはりこうなるのか。
「いいねぇ〜、やろ〜」
「キツい罰ゲームは勘弁だけど、時間つぶしには持ってこいだからね」
そして一人の無茶な誘いに、次々と乗り──
「藤澤くんとセリシアもやらない? 罰ゲームつきババ抜き!!」
名乗りを上げない者たちも誘われるのが定番の流れである。
「あぁ、参加させてもらうよ」
「じゃあ、俺も……」
まぁせっかくだしここは『林間学校を楽しむ』というわけで参加するとしよう。罰ゲームさえ受けなければいい問題だし。
「そういえば、なんとなくだけど藤澤くんってババ抜き強そうだよね?」
おっ? 堀田さん、分かってるじゃないか??
そう。俺はババ抜きで負けない自信があるのだ。というのも?
「まぁモブキャラたるもの、表情は変わらないからね?」
「ごめん、意味わかんない!」
「うっ……」
「そんなことより……、どうする? 平林ぃ〜??」
平林以外のメンツが揃うと、堀田さんはムフっと笑いながら平林に迫る。
「ほーん、じゃあやってやろうじゃねぇか!」
平林は半袖を肩の位置まで捲り、気合いを入れて罰ゲームつきババ抜きに挑む姿勢を見せた。
「勝てばいいんだろ? 勝てば!?」
「そうそう、勝てばいいの♪」
ここで一級フラグ建築士の平林が敗北のフラグを即座に立てて、ゲームが開始された。
ゲームが始まる前に『自分が勝てる』と過信するやつは大抵負ける、というのがこの世のセオリーなのだ……。
…………………………………………
……………………………………
………………………………
…………………………
「ふん、じゃあな? 藤澤」
「あっ」
手持ちにあるジョーカーとハートのキングのうち、平林にハートのキングを引かれてしまった。
「よっしゃ、ゴール!!」
「嘘だろぉぉぉぉぉ!!!!!!!!」
くそっ! 一級フラグ建築士がフラグを回避しやがった!!
「おいおいどうした? さっきの『モブキャラがなんちゃら』っていう謎の自信は??」
「くっ……」
ちくしょう! フラグ建築士って俺のことじゃねぇか!!
謎の自信って、出すものじゃないな。
「やっぱり藤澤の身体は正直なんだな!」
「確かに! 藤澤くんめちゃくちゃ表情変わってたの、超ウケる!!」
平林の言葉に同意し、堀田さんが俺を見て大いに笑った。
「てことで、罰ゲームは藤澤くんにけってーい!!」
結局ババ抜きは俺と平林以外が即座に上がり、俺と平林の激闘の末に俺が敗北。俺が罰ゲームを受けることになってしまった。
「で? 罰ゲームって何するの??」
「そんなの、コイバナを話すより他ないでしょ??」
「うげっ、マジかよ……」
「ん? キツい?? なら初恋の思い出くらいならいいでしょ!?」
「まぁ、それなら……」
「よし、決まり!!」
かくして俺は、初恋の思い出を皆の前で披露することになった。
今のコイバナが話題となると、みんなで俺に「久住さんとは最近どうですか!?」などの質問を飛ばしてくるだろうからマジで勘弁だが、過去の恋を話すくらいは軽傷で済みそうだ。恥ずかしいのに変わりはないけどね。
「それではMHPの藤澤選手!」
「なんだよ、MHPって……」
「モースト敗北プレイヤーの略!!」
「敗北だけは日本語なんだ……」
「まぁいいじゃん! それより……初恋はいつですか??」
マイクを突き出すように手をグーにして近づく堀田さんに答えをせがまれ、俺は頬を掻きながら答える。
「えっと……、小3のときに……」
「もしかして、その時に知り合った颯人くんが!?」
「んなわけあるか!!」
ここで道重が俺を恋敵(?)と勝手に勘違いし、突然の乱入。愛する舞香のために、彼には病院でそのホモ気質を診てもらってほしいものだ。
「ほぉほぉ……、で? 相手は??」
「えっと……、隣の席の眼鏡をかけた女の子で、その子、読書が好きでさ。その子のおかげで俺も読書に興味を持つようになって……、って言っても今は後輩に影響されてラブコメのラノベばっか読んでるんだけどね──」
何故だろうか、さっきまで恥ずかしくて話すことに躊躇っていたのに、話し始めると口が止まらない。おまけに気持ちが熱くなってくる。
今から七年も前の終わった話だからだろうか、きっと話すのが楽なのだろう。隣でチラリと俺を見つめるセリシアが気になって仕方なかったんだけどな。
「へぇー……」
「って、興味無し!?」
俺の初恋の思い出は、どうやら堀田さんの心に刺さらなかったようだ。なんか悔しい……。
「だって藤澤くん、恥ずかしがることなくペラペラ喋るからちっとも面白くないもん! ……ってことで次、平林ね?」
「は? なんで!!?」
突然繰り出された堀田さんのフリに、平林は頬を紅潮させてひどく動揺した。
コイツは堀田さんの望む『恥ずかしがりながら話す姿』が面白いくらい見られそうだ……と思ったが──。
「あっ、そろそろ時間だよ?」
道重が時計を見て、風呂の時間が近いことを知らせた。
「ちぇっ、つまんねぇの!」
「……はぁ」
その知らせに堀田さんはあからさまにうんざりした表情を見せる一方で、平林はホッと胸を撫で下ろした。どうやら余程、この場で話したくなかったのだろうな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます