第33話 球技大会でカッコイイ活躍を見せたいけど……
「おーい、席に着けー」
昼休みが終わり、ここからは
「今日はそろそろ始まる『球技大会』についていろいろと決めようと思う」
先生から出た『球技大会』という言葉にクラスが盛り上がりを見せる。
特に運動部の方々は期待に目を輝かせていた。きっと颯人も今、他クラスで他の運動部の男子と熱くなってんだろうな。うん、青春って感じ。
「それじゃあこのクラスの男女それぞれでリーダーを決めて、参加する競技を次に決めるのだが……、誰かリーダーに立候補するヤツはいないか?」
「はい! 私やります!!」
真っ先に立候補を名乗り出たのは、同じクラスの
スポーツ万能が度を越していて、陸上部に所属しているのだが、なんと100m走で一年生のとき全国大会に出場している。
陸上だけでなく体育の球技でも抜群のセンスを遺憾無く発揮している──球技大会のリーダーに最も相応しい女の子だ。周りも賛同している。
「よし、じゃあ女子のリーダーは堀田に決定だな。男子は誰がやるんだ?」
先生かそう聞くと、周りでリーダーの
「藤澤、お前がやれよ!?」
「は? やらねーよ!」
そして俺も隣の男子から飛び火を受ける。
我、(自称)天性の脇役キャラぞ? 父親がマジの『名脇役』ぞ? リーダーなんてやるわけないだろ!!
「えっ、ウタくんやらないの?」
くっ、久住さんまで……。
久住さんはおどけた表情を向けてきた。
「やらないよ、絶対」
もちろん俺はキッパリ「ノー」と答える。
たとえ久住さんに「リーダーのウタくんのカッコイイ活躍が見たい」と言われても、絶対にやるもんか。だってカッコイイ活躍なんか見せられないもん。
「ほらほら、久住さんも言ってるじゃねぇかよ!」
久住さんに便乗して隣の男子が更に煽ってきた。それでも俺は「やらない」と答えるが、どんどん押してくる。しかも周りが俺に視線を向けてきてるんだが……やめてくれぇ。
「いや、俺なんかより……」
このままでは俺がリーダーになってしまう。
それを避けるべく俺はこのクラスのリーダー決めの最適解を提示した。
「俺なんかより……、道重の方がいいと思うんだけど?」
「お、俺!?」
俺からの推薦に、道重は自分に指を差して驚いた。
更に俺は道重がリーダーに相応しい理由をプレゼンする。
「だって道重、バレー部のキャプテン候補だし。俺なんかより、ていうかこのクラスの誰よりも統率力もコミュ力高いし!!」
「いやいや、俺なんかが……」
道重はかなり謙虚な性格であるが故に、なかなか俺の押しに応えてくれない。
「それに藤澤くんなら……わかるだろ?」
苦笑いしながら道重は「察してくれよ?」と俺に伝える。
うん、完全に察したよ。お前が彼女の舞香にビシバシ言われ、グイグイ引っ張られてばかりだから、リーダーらしく誰かを引っ張る自信なんか無いってことを──。
だが、それでも俺は道重をリーダーにしてみせる!
「あぁ……。でも俺は道重がリーダーに相応しいと思う」
俺は最終手段を発動した。
「だって颯人言ってたぞ? お前のこと、リーダーらしくていつも頼りにしてるって」
さぁ、バレー部のチームメイトからの嬉しい押しからは逃げられまい。
俺は心の中で勝利を確信した。
「ゆ……雪村くんがそう言うなら……、仕方ないなぁ……」
すると道重は頬を掻きながら「自分がリーダーになる」と表明した。
えっ? 頬が赤く染まってますけど? 違うよな?? 舞香という彼女がいるんだぞ、お前には!!
〇
次は参加する競技を決める。
黒板には書かれた、参加する競技の名前の下に皆が名前を書いていく。
参加できる競技はソフトボール、サッカー、バスケ、バレー、卓球の五種類。
黒板の前に群がる生徒の中には、自分が部活で専門とする競技を選んで「カッコイイところを魅せる」と張り切る男子がいたり、仲の良い同士で同じ競技に固まる女子がいたり──。その中にセリシアが誘われたり……って、もう馴染んでるの!?
「ねぇ、ウタくんはどうするの?」
「うーん……」
対する俺と久住さんは、参加する競技を決められずにずっと椅子に座っていた。
「そういやウタくんって、バレー得意じゃなかったっけ?」
「まぁ、小学校と中学校でやってたくらいで……」
──あれ? 久住さんに俺がバレーやってたことって話したっけ?
「舞香ちゃんから聞いたよ? ポジションは『セッター』で、スパイカーにボールをフワッと上げて送るんでしょ?」
なんだ、舞香から聞かされてたのか。
疑問が晴れて、俺は「そうだよ」と快く答えた。
「ねぇ久住さん、卓球やらない?」
「うん、いいよ♪」
すると久住さんはクラスの女子に声をかけられて卓球に参加することに。
さてさて、俺はどうしようか──。
リーダーとしてのカッコイイ活躍は見せられないけど、球技大会本番では久住さんにカッコイイところを魅せたいんだよな……などと男の願望を膨らませる。
とはいえ俺は堀田さんのようなセンスは絶望的に無いから、たぶんバレー以外のことをやれば久住さんはおろか、みんなの笑い者になってしまう。
だがバレーをやるにしても、ポジション的にというか、俺らしいというか、傍からは間違いなく地味に映ってしまう。
バレーをやるべきか、他の競技に参加するべきか──悩んでいる間に、どんどん黒板に名前が埋まっていく。
「藤澤くん!!」
そんなとき、道重が俺に声をかけてきた。しかもプロポーズをするかの如く、頭を下げて手を差し伸べている。
「頼む! どうしてもバレーに参加して欲しいんだ!!」
「ちょっ、えっ? とりあえず、頭上げて!」
突然のことであたふたする俺。対する道重は頑なに頭を上げない。
「どうしても、君の力が必要なんだ!!」
「はうっ!!!!」
あまりにも嬉しすぎるその言葉が、脳に響いた。
まさかこんな地味な俺に頭を下げてまで「必要だ!」と言ってくれる人がいるなんて……!!
「わ、わかった! 俺、やるよ!!」
俺は道重の手を取って、熱烈なプロポーズに「イエス」と答えた。
「ところで道重、やけに本気というか……必死そうだな?」
もちろんリーダーだからそうなるんだろうな──と、内心で思いながらもそう聞いてみた。
すると答えは、あまりにも予想から外れていた。
「あぁ。俺、どうしても雪村くんのチームに勝ちたいんだ」
「おぉ、そうか!」
「そうさ。だって雪村くん……、勝ったら俺と放課後にクレープ食べに行ってくれるって約束してくれたんだ!!」
うわっ、なんだそれ! 可愛い……のか!?
てっきり「ライバルに勝ちたい」的な熱い理由かと思ったじゃねぇか!
「だから俺、今回はガチで勝ちに行くよ」
道重がそう言うと、後ろからバレーのチームメイトと思しき高身長イケメン陽キャ四人が強者感を漂わせて現れた。
左から体力テスト学年一位、バドミントン部のエース、野球部のピッチャーにサッカー部一番人気の爽やかイケメン。
「サッカー行けよ! 野球には参加しないのかよ!!」とツッコミたい人が中にはいるが、それよりもツッコミたいことがあった。
「お前、どうやって集めたんだよ……」
そう聞くと左から「誘われたから」「バドが無かったから」「ソフトボールなんかやらねぇ」「飯奢ってくれるって言われたから」と、様々な理由が返ってきた。一人、餌付けされてる!?
「……とまぁ、そんな感じだから。藤澤くん、頑張ろうね!」
「あっ、うん……」
俺は高身長イケメンたちに囲まれて萎縮した。
なんだか陽キャ軍団に紛れ込んだ余り物の陰キャみたいだな、俺。
「頑張ろぜ」
「期待してるぞ、元バレー部」
「うん、わかった。わかったから皆さん、背中を叩かないで! 痛い痛い!!」
こうして、かなり補強されたメンツで挑む球技大会本番──そこでは予想だにしないハプニングが俺を待ち受けているのであった。
まさか俺が、久住さんとあんなことになってしまうだなんて──。
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