『ハーレム主人公を羨む脇役』って設定ですよね?

第31話 鷺代セリシア

 期末テストが終わり、教室はテスト結果そっちのけで「もうすぐ夏休みだ!」という期待にムードが高まっていた。


 ちなみにテスト結果だが、俺はいつも通りの平均的な結果に終わり、久住さんは不動の学年一位。

 颯人と牧原についてだが……、どちらも数学が欠点濃厚。

 こうなった原因は間違いなく、数学が苦手な者同士が勉強会を頻繁に開いたことであろう。まぁ、二人の距離は縮まったみたいだけど……。


 ──って。


「久住さん、どうして颯人と勉強会しなかったの!?」


 ふと思いついて、久住さんに聞いてみた。

 恋のライバルが一方的に頑張っているのに、あの料理対決以来、久住さんは牧原のような積極性を見せないどころか、颯人に迫る牧原に焦りすら感じていないようだったのだ。


 もしかして久住さん、颯人に興味無くなっちゃったのかな……。そう思ったが──


「えー、だって私、テスト前は一人で勉強やりたいもん」

「へっ、へぇ……」


 さすが久住さん、真面目な人だから恋愛と勉強は切り離すんだな。

 けれど、どうも納得できない。


「いや、でも久住さんいいの? 牧原に颯人が──」

「大丈夫。そのくらいの遅れはすぐ取り戻せるから」


 久住さんは余裕の笑みを浮かべた。そして、こう続ける。


「だって私には、恋のキューピッドさんがついてるもの」


 おぉ、俺、頼られてる!? 嬉しさでつい口元が緩んだ。


「あっ、あぁ! 任せて!!」

「ふふっ、期待してるね♪」


 久住さんが俺を必要とし、俺の活躍に期待してるとわかり、気持ちが舞い上がった。

 もうすぐ夏休み。その間に颯人と久住さんをくっつけて、願わくば恋人同士にしてみせる!!


 そう決意した矢先に、またもやハプニングが起こるのであった。


 ガラッと教室の扉が開き、先生が一人の少女を連れて教室に入ってくる。


『すっげぇ、美人!』

『転入生かな?』

『この時期に? まさか(笑)』

『ていうかあの子、日本人じゃないよね!?』

『髪、すっごく綺麗!!』


 その少女の登場に、夏休みを期待するムードで気分上々の生徒たちが、更なる盛り上がりを見せた。

 それもそう。現れたのは、長い白髪に蒼い眼を持つ少女だ。

 目鼻立ちも体型も、モデル並みに整っており、欠点が見当たらない。おまけに目の涙袋にはホクロまである。

 まさに100点満点中、限界突破150点評価の超パーフェクト美少女の登場である。


「静粛に」


 先生の一言で教室が静かになると、その子の紹介をする。


「今日からこのクラスに入ることになった『鷺代さぎしろセリシア』さんだ」


 だが先生は彼女を『転入生』とは呼ばない。というのも──


「覚えてる者もいるとは思うが、彼女は一年ぶりに再びこの学校に戻ってくることになったから、彼女と仲が良かった者はまた仲良くしてあげてくれ」


 彼女は両親の仕事の都合で祖国のフィンランドの高校に一年間通っていたのだ。

 つまり去年の四月から七月まではこの学校にいたということ。


『えっ? そうなの?』

『あんな人、いたっけ??』


 けれど皆、彼女のことを知らない様子。中には『あれほどの美少女、一目見れば一生忘れない自信がある』と、大袈裟なことを言う男子もいたが、確かにそれは言えてる。


 一目見るだけで脳にすぐ焼き付く程の美しさを持つのに、何故か誰にも覚えてもらっていない謎の少女──だが俺は、彼女が何者か知っている。


「……ぐへへ」


 ふと、セリシアと目が合った。俺はすっと素早く目を逸らすが、チラリと見返すと彼女は奇妙なニヤケ顔を浮かべていた。

 しかも「ぐへへ」って言ったし、怖っ!


「ウタくん、お知り合い?」

「あっ、うん。まぁね……」


 久住さんに問われ、俺は咄嗟に濁した答えを返す。

 もちろん久住さんから頭に浮かんだ「?」は消えない。後で改めて説明するとしよう。


「それじゃあ……、あそこの空席に……」


 先生に席を案内され、セリシアは無言でその席に歩いて行った。

 髪が白いのもあり、歩く姿から本物の『百合の花』を連想させたのか、生徒一同は彼女の姿をまじまじと見つめていた。


「それじゃあ、今から『球技大会』と夏休みに始まる『林間学校』について連絡をするぞー」



 〇



 昼休み、俺はいつも通り久住さんと颯人と昼食を共にしようとした。


 四限が移動教室であったため、俺は久住さんと颯人が待つ教室に戻るが、その道中に携帯電話の通知を確認すると──


『昼休み、屋上に来てくれないか?』


 なんと、セリシアからLINEが来ていた。


「……マジかよ」


 俺は肩を落とすも、彼女の頼みを聞くことに。

 久住さんにLINEで『用事が出来た』と伝えて、俺は彼女の待つ屋上へ向かった。


 セリシア……、屋上……。うっ、頭が……。



「待ってたよ。藤澤クン」


 屋上へ向かうと、セリシアが待っていた。

 風でなびく白い髪は、太陽の光で清々しく光っていて、彼女の立ち姿一つで高級な芸術品が完成していた。


「覚えてるかな、私のことは」

「あぁ覚えてる。てか、墓場まで持っていけるくらい」

「ははっ、嬉しいことを言ってくれるね」

「いや、だって……」


「まぁそうだろう。なんせ君は、私からあれほど熱烈なプロポーズを受けたのだから♡」


 セリシアはそう言うと、俺に迫ってきた。

 俺は後ろに下がるが、背中に壁が触れると彼女は俺を逃すまいと右手で壁ドン。チェックメイトだ。


「でも君は、私の願いを即座に、キッパリ! はぁはぁ……断った!」

「ちょっ、やめ……」

「だが私はまだ諦めてないぞ?」

「ちょっ、股に足! 当たってる!!」

「さぁ、今度こそ私の願いを聞いてもらうぞ??」


 鷺代セリシア──彼女とは中学が同じで、中学の頃には『学年一の美少女』と称されていた。

 そして彼女は、中学の頃の俺にプロポーズしたのだ。実に衝撃的だった、色んな意味で……。


 セリシアは頬を桃色に染めて、とんでもない言葉を放った。



「藤澤クン、私のセフレになってくれ!!」



 これは中学の頃、俺にプロポーズした時の言葉と同じである。

 当時は『学年一の美少女』と言われた彼女に告白されるってだけでも驚きなのに、あんなことを口走るものだから、彼女が諦めて去った後に腰を抜かしたものだ。

 もはやトラウマ認定寸前の黒いエピソードである。


「お断りします!!」


 もちろん俺は、中学の頃のようにキッパリ断った。だって「セフレになってください!」だぞ!? あまりにも刺激的すぎるし……、俺には早すぎる!!


「くっ……、やはり君は私の溢れんばかりの性欲を満たしてくれないんだな」

「当たり前だ。そもそも中学の頃といい今といい、そんな願いを聞くわけないだろ!! ていうか、何で俺なんだよ!?」


 平々凡々な見た目の俺に惹かれた理由がさっぱり分からない。それ故に抱いた大きな疑問を、彼女はこんな言葉で片付けた。


「だって藤澤クンのことを考えると……、何故かムラムラしてしまうんだ!!」


 もうダメだ。恋愛感情以上に危険なモノを感じてるみたいだし、しかも原因不明。

 どうやら単に、運が悪かったみたいだ。


「だが、それでも君が頼みを聞かないならば仕方ない」


 俺の事を諦めたのか、セリシアは俺からスっと離れた。

 俺は「はぁ……」と一息つくと、また腰を抜かしてしまった。


「藤澤クン、君に話したいことがあるんだ」


 セリシアはそんな俺の隣にちょこんと体育座りをして、さっきとは違った『何か悩みを抱く顔』をしていた。


「ん? なに?」


 まあ「性欲が〜」とか変なことを言うんだろうな……。そう思いながら耳を傾けるが、彼女から放たれたのは意外な言葉であった。


「私……、『本物の恋』を知ったみたいなんだ」

「本物の……恋?」

「あぁ、以前の私にはそれが分からなかった。正直、君に抱いていたモノが恋心かもしれないと思ったこともあったんだ」


 うん、違う。間違いない。ていうかアレを恋心って呼んだら、潔白な恋のイメージが台無しだ。


「もしかしてセリシア、好きな人いるの?」

「…………」


 俺がそう聞くと、さっきとは違って雪のように白い顔を真っ赤にして口元をうずめた。

 目はうるうるとしており、牧原みたいに『恋する乙女』の表情をしている。


「……私」


 そしてセリシアはボソッと、また驚愕的な事実を吐いた。


「……君の友達の雪村くんが、好きなんだ」


「……マジか」


 ……まただ。また俺の前に、『友人のことが好きなヒロイン』が現れてしまったみたいだ。


 ここで改めて知らされる──やっぱり俺は、イケメンの友人キャラなんだな……。

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