第26話「女の子を家に呼ぶ」って言っただけなのに
俺の家で勉強会を開こう。
久住さんのこの提案に皆が即賛成した結果、俺は土曜日、初めて女の子を家に招くことになった。
もちろんこのことは家族に報告せねばならず……。
そして夜にいざ、この一大ニュースを家族四人の集まる中で話してみると──
「えぇっ!? あのウタがついに!!?」
まずは姉が目を見開いて驚いた。
俺の姉──
普段はなんと、今をときめくカリスマモデルとして活動しているハイパー美少女。
今日も大人っぽい香水の匂いが鼻につく。
「おぉ、ウタが女の子を──」
「へぇー、どんな子?」
続いて母がニヤリと笑って、興味津々な様子で聞いてくる。
俺の母──
なんせあの宝塚のトップスターにまで登り詰めた、超がつくほど有名な女優なのだから。
そして今や世界で活躍するミュージカルの女優として働いている。もう『凄い』なんて100回言っても足りないくらいだ。
「ねぇ、どんな子なの?」
「えっ、えっと……」
母に迫られ、俺は何も恥じることなく「クラスメイトの女の子」と「中学からの後輩」と素直に答えた。
これ以上は触れないでくれよ? そう思ったのだが……
「ウタ。それって、まさか──」
「もしかして……、ウタの好きな子??」
「ちっ、違うって!!」
……まぁ、咄嗟にこう答えるんだけどね。
「うっそだぁー! だって耳、赤いぞ??」
「うっ……」
琴ねぇのこの指摘には何も言えず。「ねぇねぇ」と、しつこく迫ってくる姉に負けじと、俺は必死に口を
「ふふっ、そのへんにしてあげなさい。琴奏」
「ちぇ~」
ふぅ、母さんのおかげで助かった。
昔から俺は琴ねぇに揶揄われてばかりで、それを母さんが止めるのがいつも通りの藤澤家のやり取りである。
「でも、めでたいなぁ。母さん、今日は赤飯──」
「ねぇねぇママ! 今から焼肉でも行かない??」
「そうね。今日はウタの初めてをお祝いしなきゃ♪」
おいおい、嘘だろ。
俺がただ『女の子を家に招く』と言っただけなのに、琴ねぇのいきなりの提案のせいで、まるで誕生日を祝われたかのようなボリュームにまで発展した。
「えっ、祝い事と言えば赤飯じゃ──」
「焼肉、焼肉ぅ〜♪」
「さぁさぁ、行くわよウタ。今日は黒毛和牛でも近江牛でも、何でも食べさせてあげるから」
「あはは……、それはどうも」
軽すぎる姉のフットワークと、羽振りが良すぎる母親。これが藤澤家である。
「いやいや母さん、焼肉ならこの前の日曜日に──」
「あなた、車出して」
「パパ、早くぅ〜」
「あっ、はい」
そしてあまり触れなかったが、さっきまで母と娘に無視され続けていたのが、ウチの父である。
俺の父──
ただそのキャラが板についたらしく、テレビでは『名脇役』と言われているから決して無名ではない。
まぁ、『名前だけ聞いてもピンと来ない』『顔を見ればわかる』ってのが世間のイメージなんだけどね。
「いや、でも贅沢すぎるのは良くないぞ? 母さん」
でも、家族内で脇役になってどうするんだ大黒柱!
ここは父親らしく威厳を! ……と言いたいところだが──
「は? そんなの琴奏とウタが行きたいって言ってるからいいでしょ?」
「……はい」
母さんが蛇の如く睨みつけてくるから、どうも頭が上がらないみたいだ。
てか俺、焼肉食べに行きたいって一言も言ってないけどね!?
〇
そして勉強会当日の12時。
起床して一階のリビングに降りたが、家族は誰もいない。
土曜日にも関わらず、みんなでお仕事。いやはや、有名な芸能人は違いますな。
『晩ご飯は適当に作っておいてね~』
LINEには今日、日本を
料理を作るのはいつも琴ねぇの仕事だが、今日は帰りが遅くなるとのこと。これが母が多忙になってからの藤澤家の生活である。
「さて、俺も行くか」
俺は昼食を軽く済ませ、白のパーカーと黒のジーパンに着替えて外を出た。
今から駅で待つ久住さん達を迎えに行くのだ。
それにしても、羨ましいな颯人は。
きっと俺の向かう駅で、イケメンが両手に華を抱えた輝かしい光景が待ってるんだろうな。
そう思っていたのだが、予想の斜め上の光景が俺を待ち受けていた。
「おぉ、ウタ。おはよ〜」
「おは──って、何やってんの……」
見ると久住さんと牧原が、颯人を挟んで火花を散らしあっている。
それはいいんだ。イケメンを取り合うヒロインの戦いらしくていいんだ。
ただ……
「颯人、両手に持ってるそれ、なに?」
どうして両手に華じゃなくて、スーパーの袋持ってるんだ……。
こんなの、イケメン役のやることじゃない!
「あぁ、これ? さっき三人でスーパーに行ってたんだ」
けれど颯人はお得意の爽やかスマイル。
きっと颯人は優しいから、久住さんと牧原の荷物を持ってくれたんだな。こりゃ失礼しました。
「それにしても、なんでスーパー?」
「ほら? ウタの家族、今日も夜遅いし、ウタが今日も晩ご飯作るんだろ? だからウタの家で晩ご飯作ろう!って久住さんが提案したら……」
そう言って、颯人は久住さんを見て頬を膨らます牧原に目をやった。
「なんか牧原が、『料理対決やりたい!』って言い出してさ」
颯人は苦笑いしてそう言った。
「わ、私、絶対に負けませんから!」
「ふふっ、楽しみにしてるね♪」
戦いを仕掛けられたと強く思い込む牧原に対して、久住さんは余裕の笑顔。
牧原、声震えてるけど大丈夫かよ??
「おい颯人、牧原にそんなことさせて大丈夫なのかよ?」
俺は牧原を見て、堪らず小声でそう聞いた。
「まぁ、大丈夫だろ?」
すると颯人は何の保証も無いのに笑顔で返す。
ほんとこの後、どうなっちゃうの? 嫌な予感しかしないんだけど……。
【あとがき】
今日はもう一話投稿する予定です!!
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