第25話 『ヒロインのバトルステージ準備係』って設定みたいです

藤澤ふじさわ


 七限目の数学の時間。先生に名前を呼ばれ、重い足取りで教壇前に向かう。

 今日は中間テストの結果が返ってくる日だ。


 結果は平均点と大差なし。全科目、そんな感じだ。


堀田ほった

「はーい!」

「今回はよく頑張ったな」

「えへへ、ありがとうございます!」


 テスト返しの際、たまに先生が生徒を褒めることがある。

 たいていは良い点を取ったときにそうなるのだが、こういうパターンもある。


「それにしても、すごい伸びだな」


 先生がそう言うと、クラスメイトの堀田さんは胸を張ってドヤ顔を先生に向けた。


「ふっふっふっ。去年の赤点ギリギリの私とは違うのですよ〜」


 今みたいに、テストの点数が低かった生徒が、今までと違ってかなりの高得点を叩き出すと、先生が褒めることが多々ある。

 しかもその褒める度合いは前者以上だ。


 俺は思う──人は誰かの成長や、その誰かが大きな成果を残す姿に大きく心を動かされるのだ、と。

 そしてその誰かもまた、自分の成長に大きく心を動かされる。


 きっと『成長』って言葉が、人の心を動かすカギなんだろうな。


「ねぇ、ウタくん」


 隣の席の少女が、甘い声をかけてきた。

 きっとテスト結果を聞き出そうとしているのだろう。テスト返しではよくあることだ。


「どうだった? テスト」

「あぁ……、普通。平均点と一緒くらいだった」


 俺がそう答えると、久住くすみさんは「へぇ〜」とだけ返す。面白みの無い点数だから、返す言葉が見つからないのだろう。話題にするには弱いんだよな。


「久住さんは?」


 ということで俺は、話題を久住さんのテスト結果に移す。

 学年トップの成績をキープし続ける久住さんのテスト結果だ。きっと今回も満点近くの点を取っているのだろう。


「えーっと。こんな感じだったよ?」


 久住さんは何の躊躇いも無く数学のテスト結果を手渡してきた。

 さすが久住さん。人に見せても恥ずかしくないくらいの高得点なんだろうな──。


「って、何これ!?」


 久住さんのテスト結果は100点満点。それは想定内だ。

 だが俺は解答用紙に書かれた想定外すぎる解答たちに、目が飛び出るほど驚いた。


 なんと久住さんの解答が全部、"英語"で書かれていたのだ。

 こんなの先生泣かせにも程があるだろ!しかも数学の先生のものとは違う筆跡で『Perfect!!』って書かれている。

 この筆跡──まさか久住さんのテストの採点に、英語の先生まで参加したとは……。


「久住さん、どどっ、どうして……」

「あぁ、これ?」

「そう。なんで全部英語!?」

「あぁ〜……、昔の外国の論文の書き方に憧れて、つい書きたくなっちゃった♪」


 とろけるような柔らかい笑顔で久住さんは答えた。

 つい書きたくなっちゃった、か……、怖すぎるよ、久住さん。



 〇



『キーンコーンカーンコーン』


「それじゃこれで終礼は以上。今回の点数が良くなかった者は、次のテストにしっかり備えるように」


 放課後の始まりを告げるチャイムが鳴り、先生は忠告を残して教室を出た。

 今日は颯人はやとの部活が無い日だから、久住さんと一緒に颯人を教室で待つことに。

 俺たち二人は並んで教室を出た──そのときだ。


「ウタくんせんぱぁぁぁぁぁぁぁぁい!!」

「ちょっ、牧原まきはら!?」


 突然、俺たちの教室の前で待ち伏せしていた牧原が泣きながら俺に飛びついてきた。


『なんだ? 久住さんの次は一年生か?』

『くぅ〜、羨ましいやつだなぁ』

『しかもあの子すげぇな! 愛人が近くで見てるというのに(笑)』


 あーもう。やっぱりこうなる!!

 牧原に抱きつかれる俺を見て、周りの男たちがヒソヒソとウワサしている。

 てか、愛人って誰だよ。久住さんはただのクラスメイトだからな!


「お待たせ、ウタ〜」


 ここで颯人が教室から出てくると──


「……。あっ、ここっ、こんにちは! 颯人先輩!!」


 牧原は即座に俺から離れ、涙を拭いて颯人に挨拶。

 数秒前のことに気づいていないのか、颯人は「おっす」と普通に挨拶を交わした。


「ところで牧原、俺に何の用だったんだ?」

「颯人先輩、聞いてくださいよ〜!!」


 俺の質問そっちのけで、牧原はさっきのような助けを求める表情を颯人に向けた。無視かよ!


「おっ、どうした?」

「テスト結果が、もう散々で……」

「あぁー、俺もちょっと今回はヤバかったんだよなぁ……」

「おっ、仲間ですね?」

「おっ、そうだな! イエーイ!」

「イエーイ!!」


 牧原と颯人はバ……成績の悪かった者同士で意気投合してハイタッチ。

 見ると牧原は以前と違って颯人に対して極度に緊張しなくなったような気がする。顔は赤くなってるみたいだけど。


「ふふっ。二人とも仲がよろしいのですねぇ♪」


 背後で久住さんがニッコリ笑って牧原と颯人の姿を眺めている。怖いよ? 嫉妬かな?


「あっ、もしかして久住先輩、いてるんですかぁ??」


 そんな久住さんを煽るように、牧原はニヤリと笑って言った。牧原、ホントにどうしちゃったの??


「いいえ〜」

「へぇ、そうですかぁぁ」


 あっ、やばい。これ修羅場に発展するやつだ。


「と、とりあえず帰らない??」


 俺は戦火を散らしそうな二人の間に入ってそう言った。

 けれど二人は一切動かない。困ったものだ。


「そうだ雪村くん!」


 ここで颯人へのアプローチ対決が始まろうとしているのか、久住さんが先手を打った。


「今度、一緒にお勉強しない?」

「おっ、いいね! 久住さん頭良いから勉強教えてもらおうかな〜」


 久住さんはお得意の頭の良さをここで上手く利用する。

 その姿を見て、牧原は悔しそうに唇を噛み締めるが──


「だったら颯人先輩、私ともお勉強して欲しいです!!」


 牧原は颯人の腕にしがみついた。さっきより顔が真っ赤だけど、大丈夫か?


「おぉ、牧原もか?」

「はい! 二年生の颯人先輩に、私の勉強を教えて欲しいんです!!」


 なるほど、そう来たか。

 牧原は自分の成績の悪さを利用して、少なくとも自分より勉強ができるであろう颯人に勉強を教えて欲しいと頼んだ。


「ふーん。じゃあ──」


 今度は久住さんのターン。

 どんなアプローチを颯人にかけてくるか?

 期待していた俺だが、久住さんは意外な提案を持ちかけてきた。


「みんなでお勉強会でも開きませんか?」


 なんと、折衷案。『久住さんが颯人に勉強を教える』ことと『牧原が颯人に勉強を教わる』ことを合わせたのだ。


 なんて平和的解決なんだろうか。


「ふーん、いいですよ??」


 けれど何故だろう。牧原は久住さんに挑戦的な視線を送った。

 まさか牧原、宣戦布告されたと思ってる?もしかして久住さん、『どっちが颯人にアプローチできるか』という勝負を暗に申し込んだのか?


 だとすれば、これは颯人を取り合う美少女二人の熾烈な戦いに発展する。


「ふふっ、決まりだね♪ じゃあ場所は……」


 戦いのリングはどこになるのだろうか──。

 そう思っていると、久住さんは満面の笑みでこう答えた。


「ウタくんの家で♡」


 久住さんが放った言葉に、俺は度肝を抜かれた。


「ちょっ、待って! さすがにいきなりすぎるんだけど!?」


 俺、女の子を家にあげたことないのに!!

 突然の提案に慌てふためく俺。それなのに……


「おっ、いいじゃん! ウタの家広いからなぁ〜」


 颯人。後押しするのヤメレ!!


「あっ、私も賛成です! ウタくん先輩も一緒に勉強しましょ♪」


 とか言っているが、三人が戦いに無関係の俺を置いてきぼりにする未来しか見えないんだよなぁ。


「ねぇウタくん、ダメ?」


 うっ……、そんな上目遣いでお願いされると……。


「……あぁ、わかった。いいよ。大丈夫」


 俺は久住さんの可愛さを前に、いとも簡単に折れてしまった。

 苦笑しながらOKサインを片手で作ると、久住さんは嬉しそうに笑って「ありがと♪」と返した。


 こうして俺は『ヒロインのバトルステージ準備係』という設定をされたみたいで、俺は久住さんと牧原の、颯人を懸けた戦いを見届けることになったようだ。





【後書き】


今回から第二章の後半戦がスタート!

久住さんと結羽が颯人を懸けて戦うことに!?


……えっ、なんで!?


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