第15話 ウワサ話と、カッコイイ舞香
「おはよう♪ ウタくん、雪村くん」
月曜日、校舎の玄関にて
後ろに手を組んで、何かを隠している仕草を見せる久住さん。あぁ、なるほどねぇ〜。
「お、俺、やること思い出したし先に行くわ!」
「おう、じゃあな」
よしよし、いいぞ俺。
きっと今から誕生日プレゼントを渡すのだろう。
つまり、あのタイミングで二人きりにさせるのがベスト。ということで『恋のキューピッド』かつ『モブ』の俺は適当な理由をつけて二人を置いて走った。
さて、後は教室でラノベの続きでも読むか。そう思っていたが──
『なぁ聞いた?』
『あれだろ? 藤澤のことだろ?』
教室に近づくと、何故か俺に関する噂で盛り上がっていた。
何事かと思い、教室に顔を出さずに耳だけ傾けると、衝撃的なことが耳に入った。
『藤澤と久住さん、付き合っているらしい
って話だろ?』
『えっ? マジで!?』
『あの二人が!??』
やばいやばいやばいやばい……完全にやっちまった!!
薄々こうなるかもしれないことは、デートのときから恐れていた。
だけどあれだけ大きな商業施設にいて、こんなことが起こりうる確率は極めて少ないと思っていたのに……。どうやら俺の運の悪さは神がかっていたみたいだ。
そんなことよりどうしよう?
久住さんや颯人の耳にこのことが入れば──
『へぇ〜、じゃあいっそ本当に付き合う? デートした仲だし?』
『おぉ、いいじゃん! 応援するぜ!!』
いかん! こうなったら颯人と久住さんを結ぶ使命がクリアできなくなる!
それにもし、本当に久住さんと付き合うことになっちゃったら……俺を憎む誰かに殺される!!
「やばいやばいやばいやばいやばいやばい………………」
「あっ、藤澤じゃん!」
「ひっ!!!!!!!」
教室の前で怯えているところをクラスメイトに見つかり、俺はその男に肩を組まれて強引に教室に入れられた。
「みんなー! ウワサのハイパーリア充野郎が来たぞー!!」
だが皆は俺に殺意ではなく、羨望の眼差しを向けていた。大袈裟かもしれないが、ヒーローになった気分で心地良い。
ていうか『ハイパーリア充野郎』って誰だよ。
「すげぇよ藤澤。あの久住さんと付き合ってるなんて神だろ!!」
「いいなぁ、俺も久住さんと隣の席だったら良かったなぁ〜」
「あはは……どうも……」
───って、
「ちょっ、待て待て! 俺、久住さんと付き合ってないから!」
いかんいかん。つい上機嫌になってノリに乗ってしまった。
俺は全力で久住さんとの交際を否定するが──
「なんだよぉ〜、照れんなって!」
「そうだそうだ!」
周りは誰も信じてくれず、男子たちは俺をからかうのをやめなかった。
「いやいや、マジで付き合ってないから!!」
それでも俺は頑なに否定し続ける。
「でも藤澤くんと久住さんがショッピングモールで腕組んで歩いてる姿を見たって聞いたよ?」
だがクラスの女子が放った言葉で完全にチェックメイト。付き合っていないとはいえ、彼女の言葉は事実。それにその言葉に返す
「えっと、それは、その……」
「おいおい、それ完全に付き合ってるやつじゃん!!」
「ヒューヒュー!!」
「いやいや……」
周りの男子たちは俺を煽る。別にそれはいいんだ。いや、誤解されたままなのは良くないけど。
『アイツと久住さんが? ふざけんなよ』
『ホント。隣の席だからって調子乗んなって話』
ただ問題は、俺のことを悪く言うヤツらの
その視線を向けるのは、いわゆるカーストのトップってところ。脇役的存在の俺が出しゃばっているのを良しと思わない集団だ。
やっぱこうなるよな。と、肩を落とした俺はその視線から遠ざかってさっきの女子に質問した。
「てかそれ、誰から聞いたんだよ?」
逃げる策は一つ。ウワサの素を説得して、ウソだと
そう思い聞いてみると、驚くべき答えが返ってきた。
「確か舞香……松岡さんが言ってたよね?」
「そうそう。舞香が言ってた!」
「……ほぉ」
なるほどね。いやぁ、ウワサの素が身近な人間だったとはね。
このことを聞いて、思わず笑みが零れた。
『あっ、舞香おはよう』
「しっ!」
ここで、教室の前で誰かが舞香に話しかける声が聞こえた。
それに驚いた舞香が教室から逃げていくのが見えた。
ははーん、さては焦る俺を見て楽しんでたな? 許さん!!
「待ちやがれ!!」
俺は急いで、逃げる舞香の後を追った。
たとえ運動神経が優れた舞香とはいえ、中学の時に運動部だった男子の俺が追いつけないわけがなく──。
「捕まえた!」
「うぉあ!?」
俺は舞香の手首をがっと掴んだ。
『おっ、どうしたんだ?藤澤のやつ』
『あれ? 舞香じゃない??』
てか、なんで後ろにクラスのやつがついてきてるの? でも、まぁいいや。
「俺と久住さんのウワサ広めたの、舞香だってな?」
「あっ、いや、それは……」
「正直に言わねぇと、この場でお前に壁ドォォォン!を──」
「それやったら、はっ倒すよ?」
「あっ、はい。すみません」
俺は彼女のドスの効いた声に怯えて、即座に謝った。
たとえ相手が親しいヤツだからとはいえ、あくまでも男勝りの舞香だ。下手したら身も心もみんなの前でボコボコにされそう……。
「それに私はあくまで『ウタと久住さんっぽい二人が腕組んで歩いてる姿を見た』って言っただけ。それに尾びれがついて、このザマになったってわけよ?」
舞香は「自分は悪くない」と誇張する。
まぁ実際に悪いわけじゃないんだけど、なんかスッキリしないんだよな。
そう思ったが──
『えっ? そうなの?』
『あっ、うん。実は……』
なんと周りの人たちは舞香の言葉に納得したのだ。
更にはさっき俺を煽っていたクラスメイトの男子たちはこんなことを言い出した。
「でもまぁ松岡さんが見間違えたってこともあるだろうしな?」
「そうだな。さすがに久住さんは間違えないとして……藤澤は……」
おい、なに笑ってんだよ。
「ほら? 藤澤って結構、ありきたりな見た目してね? 量産されてるっていうか?」
は? 俺って工場で作られた何かですか?
「そうそう。そういやこの前、藤澤っぽいヤツ見て声掛けたら、全然知らねぇ人だったわ!」
「あっ、俺もそれある!」
「あははははははは!!!!!」
男子たちの『俺と誰かさんを間違えました』エピソードに、周りの人たちに笑いが起こった。
『なーんだ。じゃあ舞香も見間違えたんじゃない?』
『きっとそうだよ。それに久住さん、何考えてるか分からないところあるけど、モテるし?』
『たぶん舞香が見たのは、藤澤くんに似た久住さんの彼氏さんでしょ』
そして、あまりにも強引な感じではあるが『俺と久住さんが付き合っている』というウワサが誤解に終わったみたいだ。
「ねぇ、ウタ」
「はい?」
すると舞香は口角を上げてこう聞いてきた。
「どうだった? 誰かと付き合っているってウワサされた感想は?」
「何言ってんの?」
「別にアンタのこと、悪く言う人なんて全然いなかったでしょ?」
「……まぁ、確かに」
俺はコクリと頷いた。
言われてみれば周りは俺に、羨望の眼差しを向けたり、祝福したり、応援してるような気がしたっけな。
「ウタ、これでわかったでしょ? 誰かの恋を悪く思う人なんて、そうそういないってこと」
舞香はビシッと人差し指を突き出して言った。
「そうだぞ。まぁちょっと羨ましいなぁ……とは思ったけど?」
「正直俺、ウソで安心した。けど、ホントでも藤澤のこと応援するよ!」
「私も!」「私も!!」「俺も!」
舞香に続いて、クラスメイトたちが俺に暖かい言葉をかけてくれた。やべぇ、泣きそう。
「ウタ」
「はい」
「誰も……とは言わないけど、ウタの恋路を悪く思うヤツなんかいない」
「舞香……」
「だから、ウタ。もし好きな人が出来たら──」
舞香は言った。
「周りの目じゃなくて、その子だけを見つめなさい」
見たことないくらいイカしたドヤ顔で。
やべぇ、ホントかっこいい。
俺は思った。最高の友達を持って良かったなぁ……。っておい、舞香の言葉に感化されてイチャイチャしてんじゃねぇよ。見えてるからな? 爆発しろ。
「それに私、嫌いなんだよね」
今度はさっきまでの表情と一変。舞香の表情に怒りの色が見えた。
「えっ? なにが?」
「誰かの恋路にネチネチネチネチ言って、妬むだけのかっこ悪いやつ!!」
『ひえっ!!!』
舞香の怒鳴り声に、誰かが怯える声が聞こえた。
『おっ、おい。行くぞ』
見ると、さっき俺に刺々しい視線を向けていたヤツらだ。彼らは萎縮した状態で教室に戻って行った。カーストのトップ相手に……舞香、怖っ。
『キーンコーンカーンコーン』
「てことだから、はい。解散」
チャイムの音と、舞香が手で『パン!』と鳴らす音を聞いて、皆が教室へ戻って行った。
「あっ、ありがとう。舞香」
俺は一つ礼を言って教室へ戻る。すると舞香はぷいっとそっぽを向いて教室へ戻って行った。
好きな人ができたら、その子のことだけを見つめろ……か。
「あれ? ウタじゃん」
ここで久住さんと颯人が遅れて登場。さっきのことを何一つ知らないみたいだ。
「どうしたんだ?」
「いや、なんもないよ」
「そっか。じゃあ俺、こっちだし。じゃあな」
「おっ、おう」
「あっ、久住さん。誕生日プレゼントありがとうな!!」
「うん♪」
おっ、どうやら二人の距離が縮まったみたいだ。
「良かったね久住さん。誕生日プレゼント渡せて」
「うん!」
思わず笑顔でそう言うと、彼女もとろけるような笑顔を向けてくれた。
やっぱ今日も可愛いな、久住さんは。
【後書き】
次回で一区切りつきます! いわゆる『一章の終わり』ってやつです。
久住さんが何を考えているのか? ちょっとだけ明らかに???
「面白い!!」「すこ!!」と思った読者様にお願いです。
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