第16話 お見通しよ♪

  学校中に『ウタと美唯みゆが付き合っている』というウワサが広まった日の夜、舞香は美唯とビデオ通話をしていた。

 この際だから補足しておこう。美唯は今、お風呂に入ってるなんてことはしていない。もちろん全裸姿ではなく、しっかり寝間着を身につけている。


『お疲れ様。舞香ちゃん』

「はぁぁ……、アンタのせいでホントに疲れたんですけど?」


 大きなため息を吐く舞香。続けて苦笑しながらこう言った。


「みんな知らないんだろうねぇ。今日の騒ぎが一部始終、アンタの思い通りだなんてね」

『ふふっ。そうなったのは舞香ちゃんのおかげだよ?』

「ははっ、それはどうも。ウタを含めて、あれだけの人がアンタの手の中で踊らされてたと思うと、やっぱ怖いわ。美唯は」

『ありがと♪』

「いや、褒めてないから」


 疲れきった表情で舞香は言った。



 〇



 時は金曜の夜、舞香がデートに行く前夜の美唯と電話していたときにさかのぼる。


『舞香ちゃんにお願いがあるんだけど?』

「ん? なに?」

『気が強くてかっこいい、男勝りな女の子の舞香ちゃんにしかお願いできないことなんだけど……』

「何それ?」

『ウタくんは周りの目が気になるって言ったよね? それを克服する方法を思いついたんだ』


 受話器越しに、不敵な笑い声が聞こえた。舞香は「嫌な予感がする」と、身構える。


「なっ、なに?」

『明日ショッピングモールについて行く舞香ちゃんには……、「私とウタくんが付き合っている」っていうウワサを広めて欲しいの』

「……は!?」

『それでね、周りの反応を確かめて欲しい。いや、ウタくんの「周りの誰かに殺されるかもしれない」という過度な心配を拭って欲しいなって』


 その説明だけでは納得がいかない舞香だったが、美唯のやろうとしている考えを聞くと、徐々に納得したのか、深く相槌あいづちを打つ。


『男勝りのかっこいい舞香ちゃんには、ウタくんのことを悪く言う人たちにガツンと言って欲しいなって』


 特にこの説明には、舞香は笑みを浮かべながら「なるほどね」と頷いた。


『どうかな?』

「要するにウタには、周りの目を気にしないようにさせればいいってわけね?」

『そうそう』

「まぁやり方はアンタにしては強引だけど、引き受けるわ」

『ふふっ、ありがと』


 そう言って舞香はすんなりと美唯の言葉に従った。



 〇



 だがそれが終わった今、舞香の中ではいろいろと消化不良であった。

 あのときは一方的に美唯の願いを聞いた舞香。だが相手が友達とはいえ、ギブアンドテイクが欲しいところ。舞香はお返しを求めて、こう聞いた。


「そうだ。アンタのためにあれだけ動いてあげたんだから、お礼に教えて欲しいことがあるんだけど」

『なに?』

「そこまでしてアンタ、何しようと企んでるの?」

「あっ、えっと……」


 そう聞くと美唯は言葉を詰まらせた。いつも見せる美唯の余裕な表情から焦りが滲み出ている。

 そんな美唯に追い討ちをかけるように、舞香はニヤリと笑って、核心をつく質問を投げかけた。




「もしかしてアンタ、好きなんでしょ? ──ウタのこと」




 すると美唯はパソコンがフリーズしたかのように固まった。

 見ると顔や首、耳まで真っ赤にしているのだ。


「ほ〜ん」


 図星だとわかった舞香は更に攻撃を仕掛ける。


「おかしいとは思ってたのよね。積極性のあるアンタが、誰かに恋愛のサポートを頼むだなんて」

『それは……学年一モテる颯人くんだし?』

「学年一モテるアンタがそれ言う? 片腹痛い話ね?」


 焦る美唯をどんどん追い込む舞香。その表情はもはや悪い魔女のようだ。


「どうせアンタのことだから、脳みそフル回転で回りくどいこと考えてるんだな〜とは思ってたよ」

『それは……』

「もしかしてアンタ、さすがにウタにアプローチしていることを隠して、颯人はやとくんをたぶらかしたりしてないでしょうね!?」


 今度は子どもを叱る親のような口調で美唯に攻撃。


『そんなことはしてない! ちゃんと颯人くんには説明したもん!!』

「……だろうね。それもお見通し。じゃないと颯人くん、ウタの役割の邪魔をしないはずだし」


 舞香は完全に分かりきっていた。

 颯人と美唯が過ごす初めての昼休みに、颯人が自身と美唯、ではなく親友のウタと美唯をさりげなくくっつけさせるような行動を取っていたことの真意を。


 バレーボールの月刊誌で──


ひいでた分析力と相手の状況把握力を駆使する未来の日本代表。コート上の"頭脳"』

『チームメイトとの完璧な伝達、チームワークで勝利を掴む!!』


 ──とまで言われていた颯人のことだ。『空気を読まなかった』のでは無く、『美唯とこっそり連携をとっていた』ことくらい、舞香はウタが相談しに来たときから勘づいていたのだ。


「ほら、観念なさい」

『んんん………………』


 美唯は両頬を抑え、携帯電話から目を背ける。頭からは湯気が立ち込めていて──どうやら天才的な思考回路がショートしたようだ。松岡舞香まつおかまいか、恐るべし。


「どんだけ頭が良かろうが、長いこと一緒にいる私は誤魔化せないないのよ?」

『……参りました』

「まぁ、面白いからウタには黙っておいてあげる。その代わりアンタがそんな回りくどいやり方をした理由を教えて?」


 興味津々そうに声を弾ませながら舞香は聞く。


『それは……内緒』


 しかしこの質問に、美唯は口を割らない。


「……あっそ。まぁいいわ。謎解きは出来たし、アンタの狙いがわかったしそれで充分」


 すると舞香はこれ以上の詮索をやめ──


「あっ、そうだ美唯」


 顔をニヤつかせながら、別の話題にシフトさせた。


「この前のデートいい感じだったね?」

『んっ……んんっ…………』


 一昨日のデートのことを思い出した美唯はさっきよりも顔を真っ赤にして唸り始めた。


「見てたよ? 暗闇の中、さりげなく手を重ねてみたり……」

『んんんっ……』

「あそこまで距離を詰めて歩いてみたりとか、もうあれは恋人同士ね〜」

『いやぁぁ…………』

「あはははっ! 嫌なら最初からやるなって話よ!」

『そ、そうじゃなくて……』

「っはは。美唯、照れるとホント可愛い♪」


 画面越しで興奮のあまりに悶える美唯を見て、舞香はかなりご満悦の様子。

 さすがにこれ以上は美唯が可哀想だな。そう思った舞香は話を切って、あの話題を持ってくる。


「そういえばアンタを助けに行った時のウタ、ちょっとかっこよかったね」


 優しい声でそう言うと、美唯は黙ってコクリと頷いた。


「さすがのアンタも想定外だったでしょ? あんなトラブルに巻き込まれたのはもちろん、あれだけ私が『チキン野郎』って言ってたウタが勇気を振り絞って助けに来てくれたこと」

『……うん』

「どう? キュンとしたんじゃない??」


 またからかうように聞くと、今度は首を激しく横に振った。


「っはは。まぁアイツ、たまにはあぁいうところあるんだよ。頼りないところはあるけど、ピンチのときにはなんとかしてくれる」

『……うん』

「私も、アイツには救われたのよね」

『えっ? 何があったの!?』


 今度は美唯が好奇心旺盛になる。しかし──


「内緒。隠し事する美唯には教えませーん」


 舞香も口を割らない。


『むぅぅ……、ケチ』

「いやいや、アンタには一番言われたくないから」

『もう、舞香ちゃん酷いよ。っははは……』

「アンタのほうが酷いっての。っはははは!!」


 その後二人は笑い合い、舞香が「はぁぁ〜〜」と、笑い声を吐き飛ばすように声を上げると、こう続けた。


「アンタが何考えてるかわかんないけど、とりあえずアンタのひねくれた恋は応援してあげる♪」

『何その言い方……』

「だって事実じゃん? てことだから、まぁ頑張って」

『うん、ありがと』

「あっ、上手くいったら私たちとダブルデートでもしよ?」

『えっ? いいの!?』

「まぁね。でもアンタの弄れたやり方じゃ、それがいつになるかわからないけどね〜」

『むぅぅ……』

「っはは! そんじゃ、おやすみ」

『うん。おやすみなさい』




【後書き】


どうでしたか? 舞香ちゃんに圧倒されて照れっぱなしの久住さんは?笑

一つ大きな秘密が残った中、いろいろと答えは出ましたが、これからもウタくんは相変わらず、久住さんやいろんな人に振り回されていきますので〜。

次回は新キャラの登場とともに新展開に突入して、さらに恋のキューピッドが忙しくなります(笑)


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