第13話 可愛い女の子と一時間一緒にいたら、三時間くらい経ったように思える

 拝啓、松岡舞香まつおかまいか先生。


 お元気ですか? まぁ昨日に電話したばかりだし、愚問でしたね。


「これから、デートしない?」


 さて、早速本題に入ります。

 俺、藤澤雅樂ふじさわうた……初めて女の子からデートのお誘いを受けました。

 ただ単に女の子とお出かけするのではなく、『デート』です。恋人同士でやったり、好きな人を誘う、あの『デート』です。


「…………」


 先生……。


「どう、かな?」


 …………助けてください!!!



 久住くすみさんの突然の誘いに困惑し、一瞬何があったか分からなかった。


「あの、久住さん? 本気で言ってる?」

「ん?」


 冷静さを少し取り戻してから、こう聞いてみる。

 するとオドオドする俺に対して、久住さんはキョトンと首を傾げる。表情にあざとさは垣間見えず、純粋に疑問を抱いた時に見せる顔だ。


 ていうか、久住さんは何を考えてるんだ?

 俺はIQ160の彼女に負けないくらいの速さで脳を回してみた。


 ………………あっ、わかった!


「もしかして久住さん、今からデートの練習しようとか考えてる?」


 久住さんの考えはこれだ、間違いない。

 久住さんのことだ。きっと颯人はやととのデートの予行練習を、俺を練習台にしてやってみるつもりだろうな。


 いやぁ……。頭のいい人の思考が読めると、こんなにも全能感が得られるのか──。


「いや、違うけど?」

「………………へ?」


 盛大に予想を外し、素っ頓狂な声が出た。

 それと同時に、一気に羞恥心が込み上げてきて……穴があったら今すぐに頭からダイブしたい気分だ。


「でも、そういうのもありかぁ……」

「じゃあ、どうして俺とデートに!?」

「まぁデートというか、せっかくだしここでウタくんと遊びたいなぁって。今日、ついてきてくれたお礼に」

「それ、デートって言っちゃうかなぁ……」

「えっ、違うの?」

「いや、違わなくは無い……と思うけど……」


 ていうか、デートって何だっけ? 定義が分からなくなってきたや。


「ねぇ、デートしてくれる?」


 でもデートの定義を今考えたとて、今から『久住さんと二人きりになる』という事実は変わらないんだよな。


「私、こういうの初めてだから、ウタくんが良ければやってみたいなぁ」


 それに、こんなにも美少女がアプローチをかけてくるのに。こんな機会なんて一度も訪れそうもない大チャンスなのに、断るなんて罰当たりだ!


「……わかった。今日だけだからね?」


 ということで俺は、久住さんの誘いを受けることにした。

 照れ隠しだろうか、俺には似つかわしくないツンデレヒロイン口調になったのはスルーでお願い致します。


「やった♪」

「でもその前に、お昼でも食べない?」

「いいよ〜。その後は映画ね?」

「えっ?」

「その後はショッピングに付き合ってもらって〜、それで次はボウリングもやってみたいなぁ〜」


 この後の予定をポンポン出す久住さん。出されたプランがもはや恋人同士のデートプランなんですが……。


「ほらウタくん、早く行こ?」

「ちょっ、久住さん!?」


 待って! 腕! 腕! 掴まれてる!! 近い近い近い!!


 久住さんのあまりにも積極的なアプローチに焦る俺に構わず、久住さんは強引に引っ張った。

 そしてそのまま久住さんに、近くのカフェまで連れて行かれた。


 これほどまで幸運なことが起こるとは──。

 俺、本当にそろそろ死ぬんじゃない? 誰かに殺されるんじゃない?



 〇



『可愛い女の子と一時間一緒にいると、一分しか経っていないように思える』


 IQ160超えの天才科学者、アルベルト=アインシュタイン先生が、『相対性理論』の『相対性』について説明するときに用いた一例だ。


 俺は今、久住さんと映画館にいる。

 暗い密室で久住さんと、いつもの教室での距離以上に近い隣同士の状態が一時間続いている。


 ですが先生、どうしてでしょう?

 映画が始まって一時間経ったはずなのに、俺の中では三時間くらい経過した気分なんですけど??


(やばいやばいやばいやばいやばいやばい………………)


 今、極度に緊張している。血が勢いよく昇ってきて、吐血するんじゃないかと思うほど心臓が激しく鼓動している状態だ。


「ほわぁぁ…………」


 だって今、映画に夢中になっている久住さんが俺の手に、手を重ねているのだから。

 柔らかな手の感触にドキドキさせられっぱなしの俺。身体から火が出そうなほど熱くなっている。


「ちょっ、トイレ!」


 この状況に耐えきれなくなった俺は、逃げるようにシアタールームを出てトイレに直行した。

 久住さんに悪いことしたかな?

 そう思い後ろを振り向くと、俺を「お可愛いことね」とクスリと笑っていた。



「あぁ〜、すっごいドキドキしたぁ〜」


 上映終了後、恋愛映画のラストにかなりご満悦の久住さん。


「ウタくんも、ドキドキした?」


 そう聞かれ、俺はコクリと頷いた。

 俺なんか、久住さん以上にドキドキしたよ? 誰のせいとは言わないけどね。


「あっ、私も御手洗行ってくるね?」

「あっ、うん」


 久住さんがそう言ってトイレに向かうので、俺は近くの椅子で彼女を待つことにした。

 その間、次に向けて気持ちを整えつつ、舞香に教えてもらった極意を活かせるようにシミュレーションでもしようかな。


 そう思い、シミュレーションする。でもまぁ久住さんがトイレに行ってる間だし、完璧なシミュレーションは不可能だろうな。


 そう思ったが、久住さんが戻ってくるまでにシミュレーションが完了した。


「……遅いなぁ」


 というのも彼女、トイレに行ってから15分以上待っても戻ってこなかったのだ……。

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