第12話 デートじゃないですよね??
『さっきはありがとうね?』
「あぁ、ウタのこと?」
『私ただ、ウタくんと二人でプレゼント買いに行こうって誘っただけなんだけどなぁ』
「美唯にとっては大したことじゃ無いと思うけど、ウタは『アンタと二人きり』ってだけで躊躇うのよ」
『それってやっぱり、周りの目が気になるから?』
「そんなところね。あのバカ、アンタと二人きりになってることを憎む誰かに殺される~とか言ってるし」
舞香の呆れたと言わんばかりの声に対して、美唯は苦笑する。
「いい? 『
『ひどい言い様だね……』
「ひどいも何もないわ。それが事実だから、ちゃんと考慮するようにってこと」
『ウタくんはチキン野郎。周りの目が気になる……かぁ……』
「そう。だからもしなんかトラブルがあったら私に連絡してちょうだい。すぐ駆けつけられるよう、明日アンタたちが行くショッピングモールにいといてあげるから」
『また私のこと心配して?』
「当たり前でしょ。アンタ結構トラブルに巻き込まれやすいし、それに相手がウタじゃ、不安でしかないわ」
舞香の過保護っぷりに美唯はふふっと笑い、「だったらさ──」と言ってこう続けた。
『舞香ちゃんにお願いがあるんだけど?』
「ん? なに?」
『気が強くてかっこいい、男勝りな女の子の舞香ちゃんにしかお願いできないことなんだけど……』
〇
はぁぁぁ、やべぇ。緊張してきたぁ……。
待ち合せの駅前で、俺は舞香の言われたとおり集合時間である10時の、10分前から待っていた。
気持ちを落ち着かせるために、俺は腕を組みながらベンチに座るが──全く落ち着かない!
「はやく来ないかなぁ、はやく来ないかなぁ……」
そうしたら、すぐ楽になれるかな。などと考えてみるが、果たしてどうだろうか──
「お待たせ~」
しばらくすると、久住さんが待ち合せ時間よりも少し早めにやってきた。
──あっ、やばい。これ耐えられないわ。
彼女の滅多にお目にかかれない私服姿に、俺は今にも心が奪われそうだ。
白い花柄のチュールトップスの上にピンクのワンピース。顔には少し化粧が施されていて、唇には綺麗な白桃色のリップが塗られている。
「ウタくん?」
だが、ここでぼーっとしてる場合じゃない。舞香から学んだことをここで活かさなければ! まずは──
「あっ、えーっと……、私服、初めて見るなぁと思って……」
「……どうかな?」
「に、似合ってるよ。すごく」
恥ずかしさのあまり、俺は頬を掻く。すると「ありがと♪」と、甘い笑みを浮かべながら言うものだから、恥ずかしすぎて目を合わせることすらできない。
てか、ここまでオシャレをした美少女と俺が今から二人でショッピングモールに行くんだぞ?
もし同じクラスのヤツにでも見られたら、「付き合ってる」って誤解され噂になって、それで殺されて──いや、こんな幸せを味わってから死ぬのも悪くないか。
「ほら、はやく行こ?」
「あっ、はい!」
一人で考え事に
てか今、めちゃくちゃ距離近かったよな? あと嗅いだことない、癒やし効果のありそうな甘い匂いがしたし!
さっきのことに興奮が抑えられない俺。けれど今のはほんの数秒のこと。
ショッピングモール行きのバスの座席に二人で座ってからは、肌が密着するほどの距離の近さに興奮して、悶え死ぬのではないかとさえ感じてしまった。
「…………」
「まずはどこ行く?」
バスに降りてから、さっきの距離の近くが忘れられず固まる俺。対して久住さんはルンルンと、かなりの上機嫌。
ていうかこれはデートじゃないし、久住さんの興味とルンルン気分は全部、ショッピングモールに向いてるだけだよな?
そう分かっているはずなのに、どうしても『久住さんと二人きり』=『デート』という関係が切り離せないでいた。
「ウタくん、もしかして緊張してる?」
「うん、ちょっとね」
「そんなに緊張しなくてもいいのに〜」
すると久住さんはそんな俺に、歳上のお姉さんが見せるような余裕の笑みを浮かべながらどストレートな正論をぶつけてきた。
「だって私たち、デートしに来たわけじゃないし?」
あっ、そうですね。はい。
自分でも分かっていた事実が久住さんの口から放たれ、ようやくさっきの間違った等式の
だけど何故だろう。一気に悲しくなってきたんですが……。
「そういえば颯人くんって、何が欲しいんだろう?」
モール館内に入り、ここでようやく本題に入る。
言われてみれば颯人って何か欲しいものあったっけ──。
『そういえばテーピング切らしてるから、そろそろ買わなきゃだな』
テーピングが誕生日プレゼントってしょぼいな。自分で買いに行ってどうぞ、って話だ。
『シューズ! バレーの!! 1万3000円くらいの黒いやつ!!』
高い高い! さすがに俺たちには無理だ!!
『そういえば、そろそろ財布買い換えなきゃなぁ……』
おっ、これだ!!
「久住さん、財布見に行かない?」
「財布?」
「そう! 颯人がそろそろ買い換えなきゃって言ってたの思い出したんだ!」
俺がそう言うと久住さんはすぐに納得し、そのまま俺たちは財布を買いに、有名な衣料品ブランドを巡った。
実のところ誰かのために財布を選んであげるなんてやったことがなく、相手が颯人だから選ぶのにかなり時間がかかるかなと思ったが──
「これにしよ!」
「あぁ、これしかありえないね!」
なんとお互いが同じ財布に一目惚れして即決。それまでの時間、わずか10分も経っていない。
「でも、他も見てみない?」
けれど久住さんがそう提案するので、俺は乗ることにしたが、他の店を3つほど回ってみても「あの財布しかない」という意思は互いに揺るがず、結局最初の店に戻って、5000円ほどの黒い財布を購入する事に。
「なんか、あっさり決まっちゃったね」
「そうだね〜」
時間はまだ12時を過ぎていない。でもこれで目的は果たせた。
だからちょっと早いけどお開きかな?短い間だったがデートっぽい感じが味わえたから
「ちょっと早いけど、帰ろっか?」
そう言って一人、出口に向かおうとしたとき──。
「ねぇ、ウタくん」
俺の服の袖下を掴んで、久住さんが甘い声で俺を止めた。
いや、まさか──。この瞬間にドキッとした俺に、彼女は言った。
「これから、デートしない?」
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