第6話 昼休み、来る!~雑談編~

 さて、気を取り直そう。俺は弁当箱をカバンにしまって、また二人を見つめ直す。


「それでさ~」

「うんうん」


 すると二人は良い感じの雰囲気を醸し出している。

 楽しそうに話す颯人はやとに、クスクス笑う久住くすみさん。ついニヤケ顔が漏れるほど優しくて甘い世界を俺は静かに見守った。


 さぁ、どんな話をしてるのかな?


「はいこれ」

「うそぉ~超可愛い!!」


「だろ? 小学校の頃のウタ~」


 ちょっ、なにしてんの!? この颯人バカ!!!


「おい! なに見せてんだよ!!」


 俺は急いで颯人はやとから携帯電話を取り上げ、画面を閉じた。


「てか、なんで小学校の頃の俺の話に!?」

「なんか久住さんが俺とお前の関係を聞いてきて……」

「そこから雪村くんが小学校の頃の昔話をしてくれたんですよ~」

「いや、だからって俺の写真まで……」

「いいじゃん。俺も恥ずかしいけど自分のガキの頃の写真も見せたし」


 違う、そういうことじゃない! 俺は心の中で叫んだ。


「うん。雪村くん、昔からクールでかっこよかったよ?」

「おっ、マジ? それはサンキューな」

「でも……」


 久住さんはニコニコしながら、ロックのかかっていない無防備な颯人の携帯電話を開き、俺の写真を見せながら言った。


「ウタくんのほうが、小さくて可愛い♡」



 うっっっっっっっっっっっっっっっ。

 まるで仔犬を見つめるようなうっとりとした目と甘い甘い笑顔。それらを目の当たりにして、心臓が大きく脈をうつ。本気で惚れてたら、危うく死んでたかもしれない。


(どうして颯人は俺の株を上げるんだ!?)


 あまりにも行動が場違いすぎて、「ありがとう」を言えないもどかしさを抱きながら──


(久住さんこそ。どうして他人モブの株上げに耳を傾けるんだ? 颯人に興味があるなら、颯人自身のことを聞いてくれよ。颯人自身の話を引き出してくれよ)


 俺は久住さんの行動の不可解さを前に、顔をしかめる。

 久住さんに俺のことを知ってもらえているのは嬉しいが、仕事が捗らないことに少しもどかしさを感じていたのだ。


 こうなったら、俺が颯人の株を上げてやるしかない。

 俺は颯人を一番輝かせる話題かつ、颯人が乗り出したら止まらない話題を発動した。


「そっ、そういえば久住さんって、部活はなにやってたの?」

「あ~。今はなにもやってないけど、中学のときは吹奏楽やってたよ」

「へぇ、吹奏楽かぁ」

「ウタくんは?」

「俺も中学までは颯人と同じバレー部だったんだ」

「そうそう。俺が小学校のときに誘ったんだ」

「でも俺、全然下手くそだけどね?」

「そんなことは──」

「でもでも!!」


 これ以上モブの評価をヨイショさせるものか、その一心で俺は即座に颯人を黙らせるように話に割り込み──


「颯人は、超すごいんだ!!!」


 そして溢れ出んばかりの「友達を自慢したい欲」を吐き出した。


「小学校の頃から大きいし強いし! 俺、憧れてたんだ」

「ウタ……」

「まぁ、頭の中もバレー一色いっしょくで、三度の飯よりも勉強よりもバレーが好きなバレー馬鹿だけどね」


 早速気恥ずかしい思いに駆られて、つい照れ隠しに少しバカにする俺。


「ははっ、そいつは否定できないや」


 それでも颯人は爽やかな笑顔を見せてくれた。

 それを見て安心した俺は更に「颯人SUGEEEすげー自慢」を繰り出す。


「でもバレーは学校で、いや、県で一番強いんだ! スパイクとか超速いし強いし、サーブなんて見たら久住さん、もう惚れるかもよ!」

「そんなに凄いの?」

「もうね、男の俺が惚れるくらい凄い!!」


 よしよし、久住さんの興味が颯人に向き始めている。

 それでも俺はどんどん畳み掛けようとした。


「しかも颯人、高校生の日本代表にも選ばれて──」


『キーンコーンカーンコーン』


 だが、ここでタイムアップ。

 チャイムの音を聞いて、颯人は「じゃあな」と手を振り教室を後にした。


「……はぁ」


 俺は元の席に戻って、手で顔を扇いだ。あそこまで友達のことを話すのにヒートアップしたのは初めてだ。


「ウタくん」

「はい?」


 名前を呼ばれて振り向くと、久住さんは満足げな様子を見せていた。


「今日はありがとうね!」

「あっ、うん……って言っても俺、大したことしてないけどね」


 ホント、誰かさんのせいというか、おかげというか……。


「ううん。ウタくんがいてくれて良かったよ♪」


 でもまぁ、久住さんが俺にそう言ってくれてるし、次に頑張るとしよう。


「そっか。それは良かった!」


 俺は笑って彼女に言うと、彼女も神々しい笑顔を返してくれた。



 さて、次はどうしようかな。

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