第4話 久住美唯
「それじゃあ先月に受けた模試の結果を返すぞー」
窓の外に目をやりながら、俺は頬杖をついて頭をフルに回転させていた。
恋のキューピッドとして、二人をくっつけるための作戦を考えているのである。
ちなみに俺の狙いは、親友の超モテる美少年の
「久住」
俺みたいな凡人には、そのくらいの立ち位置がお似合いだ。久住さんと俺が仮にくっつきでもすれば、久住さんを狙う過激な人たちに暗殺されるかもしれないからな。
「藤澤」
さぁて、どうしようものか。
「藤澤ー」
まずは話すときの位置関係から考えないとな。
俺が真ん中に座って話を仕切るべきか? それとも久住さんを真ん中に置いて、彼女を中心にすれば……って、いいじゃん!
そしたら必然的に颯人が隣に座ることに──
「ねぇ、ウタくん」
「あっ、はい!」
ん? 何事だ?
久住さんに声をかけられ、俺は状況確認のために辺りを見渡した。
すると先生が教壇からこちらを睨みつけているのが見えて、背筋が震えた。
「おい藤澤。何をボーッとしてんだ」
「すっ、すみません!」
そう言って俺は席を立ち、先生から紙を受け取った。
見れば、先月の模試の結果だ。
国語も数学も英語も全国偏差値は50台。平々凡々とした成績に、俺は改めて自分のキャラを認識した。
…………あれ?
ついさっきのシーンに違和感を覚えた俺は、そのシーンに戻るように、逆向きに歩いて席に戻った。
「あの、久住さん?」
「どうしたの? まるで逆再生みたいな動きして」
「ちょっと確認したいのですが……」
こういうのは自然とスルーしたほうがいいよな。そう思いながらも、つい気になった俺は違和感の正体を確かめた。
「さっき俺のこと、『ウタくん』って呼ばなかった?」
ボーッとしてたから聞き間違いかも。もしそうだったら、久住さんと距離を置くことに──。
「ん? 気のせいじゃない?」
よし、決定。
俺は久住さんから離れるために机を窓際の壁にくっつけた。
「うそうそ、冗談だよ?」
くそっ、からかわれた。
余裕のある笑顔を向ける久住さんに対して、俺は苦笑しながら机を元の場所に戻した。
「あれ? 確かもうちょい手前だったと思うけど?」
「えっ? そうっすか?」
久住さんの言葉に首を傾げながらも、「近くに来てもいいよ」と言われた気がして嬉しくなった俺は勘違いを貫いて机を久住さんの方に近づけた。
「えっ、すごっ!」
そのときにチラリと見えた彼女の模試の結果に、俺は声を上げた。
「ふふっ、ありがと」
彼女のほんわかとした微笑みを見て、俺は思い出した。
学業成績は入学時から学年トップで全国偏差値は70超え。ちなみに今回の数学では偏差値が80にまで達していた。
というのも彼女、頭脳指数が160(東大生平均は120)を超えてるだとか超えてないだとかでかなり有名になっていたのだ。
その頭脳力の強さで、近寄るモブ男子と上手く距離を離したり、狙った男をどんな手段を使ってでもオトす!! ……なんてことが女子の中で噂になっているらしく、恐れられていたり、気味悪がられたりしているらしい。
まぁ、俺たち男子にとってはどうでもいい話だ。
「……どうしたの? 私のこと、じっと見つめて」
「あっ、いや! 違う!!」
久住さんのことを思い出していたら、つい見入ってしまった。
この状況をどう切り抜けようか、そう考えていると、彼女がきょとんした顔で口を開いた。
『キーンコーンカーンコーン』
そこで学校のチャイムが教室に鳴り響く。二人の時間はここまでだ、と告げるように。
「あっ、そろそろ教室移動しなきゃ。じゃあまた後で、今日の昼休みの作戦会議しよ?」
「あっ、うん」
久住さんが小さく手を振るので、俺も過激な人たちにバレないように手を小さく挙げた。
さて、美少女様と密かに軽い挨拶をできた喜びを噛み締めて授業に臨もう。
俺は一限目の数学の準備を机の上に広げ、携帯電話の画面を開いた。
「ん? 久住さんからLINE?」
するとメッセージを受信しているのが見えた。わずか一分前に受信。何事だ?
俺は画面に目を凝らしてLINEを開く。
(……マジで!?)
彼女からのメッセージに、心が舞い上がる俺。だけど、そんなのはほんのちょっとだけ。
(……だよな)
次に送られたメッセージに、俺は少しガッカリして携帯電話の画面を閉じた。
『さっきの、ちょっとドキドキしちゃった』
『でも相手が雪村くんだったらなぁ〜、なんてね(笑)』
『それじゃあ昼休み、楽しみにしてるね?』
【後書き】
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