第3話 「楽しみにしてる」
夜11時の風呂上がり、自分の部屋に置いてある携帯電話の画面が光っているのが見えた。
「あっ、
さっきの報告への返信かな?
『報告ありがと!』
『うん、任せて〜』
はぁぁ……、これだけか。そりゃ、これだけだよな。
だって俺はあくまで、
そう思い、少し落胆していると──。
『あっ、もちろん颯人くんと私が話すとき、藤澤くんもいるよね?』
えっ? 何このありがたいような、申し訳ないような質問。
久住さんからのメッセージに困惑しながらも俺は『一応』とだけ返信すると、即座にメッセージが返ってきた。
『了解!』
『それじゃあ、楽しみにしてるね?』
ん? 恋のキューピッド(自称)としての活躍に期待してるってことだよな?
「よし、頑張ろ」
俺はベッドの上で横になり、彼女と颯人の二人を近づける優秀な潤滑油として働くための工夫を考えた。
〇
「ふぁぁぁぁ…………」
「どした? 寝不足?」
翌朝、学校へ続く坂道で俺の大きな欠伸を見て颯人がそう聞いた。
俺は眠気混じりの声で「あぁ」と返事したが、颯人が寝不足である理由を聞いて来ないので、伏せることにした。
理由を黙っておけば、暗躍者として働けるしね。
「ふぁぁぁぁ……」
「って、お前も寝不足かよ」
すると俺よりも大きな欠伸をする颯人。
「ん? あぁ……」
颯人が寝不足になるのはとりわけ珍しいことではないが、今日は珍しいことが起こった。
「ちょっとな?」
これだよ、これ。この濁った答え。
基本、颯人は隠し事をしないし、例えば寝不足になった理由は、聞かれたら正直に答えてくれる。
まぁ聞いたところで、理由のほとんどがバレーについてのことなんだけど。
「何か誤魔化してるだろ?」
「いや」
「ホントか?」
「ホ、ホントダヨー……」
「だったら、俺から目を離すのやめないか?」
「うっ……」
颯人はばつの悪い顔をして、打ち明けてくれた。
「俺昨日、久住さんとLINEで話したんだ」
あまりにも衝撃的で不可解な真実を──。
「は?」
あれ? なんで?
「なんでお前と久住さんが!?」
「なに驚いてるんだよ? 久住さんが俺のこと気になるって言ったのお前だろ?」
「そうじゃなくて。なんで久住さん、お前とLINEできたの!?」
まだ俺、久住さんに颯人のLINE教えてないのに。今日、「直接聞いたら?」って言ったのに。
疑問を抱く中、颯人は「あぁー」と、何か思い出したかのような声を上げ、こう続けた。
「俺のLINEだったら、友達からもらったってさ」
「なっ……」
「なんかウチのバレー部のマネージャーとコネがあって、その子に教えてもらったってさ」
「なん、だと……」
これを聞いてひどくショックを受け、また深く考えてしまった。
もしかして久住さん、俺が颯人のLINE教えないから見限ったのかな。
裏で「使えないやつ」って思われたかな……。
「くっそぉ……」
「ウタ!?」
「俺が久住さんに教えようと思ったのに。久住さんに直接、颯人のLINEを聞かせようと思ったのに……」
「……なんか、ごめん」
「俺、お前と久住さんの、恋のキューピッドなのに……」
「こ、これから頑張れ? な?」
苦笑いしながら、俺を優しく慰めてくれた颯人。
けれどそれも束の間。俺は「それで?」と聞いて、話を戻す。
「どうだったの? 昨日」
「あぁ、今日の昼休み、お前らの教室に来てってさ」
「なるほど。それで? 久住さんと話してみてどうだった?」
好奇心が漏れて、つい声を弾ませた俺。
「あぁ、久住さんね」
それに対して颯人は、風が吹き抜けるほど爽やかなニヤケ顔を見せた。
「なんか、『夢見る少女』って感じで可愛かった」
くそっ、このヤロー! 嬉しそうに笑いやがって!
颯人と久住さんがいい感じになっているのはキューピッドとしては喜ばしいはずなのに、どうも素直に喜べず、むしろ羨ましいと少し嫉妬を抱いてしまった。
「あぁ、夢見るってのは、考えがロマンチックって感じ。なんか話聞いてて、楽しかった」
うわぁぁぁ! そんなイケメンスマイルで「楽しかった」なんて言うなぁぁぁぁぁ…………。
そう心で叫びながら、俺は「そっか〜」と平然を装いながら相槌を打った。
「それじゃ、また昼休みな?」
「あっ、あぁ」
颯人の教室の前に着いたので、俺たちはここで別れの挨拶を軽く交わした。
颯人が教室に入っていくのを見送る俺。すると彼は「あっ、そうだ」と言って、俺の方を振り向いた。
「今日の昼休み、楽しみにしてるぞ?」
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