強欲の王マモン

第1話 花火大会

「それではお父様、行って参ります」

「ああ、気を付けて行って来なさい。勇者殿、アポロメア殿、娘を頼んだ」

「ああ」

「任せて下さい」


「では行きます……【瞬間移動テレポーテーション】」


レヴェッカは俺と師匠の手を握りながら、呪文を唱える。

目の前の景色が一瞬で変わった。


「で、でけぇ……いつの間にこんなの作ったんだよ……」


ブリュナンデ王国の城よりもデカい、もはや高層ビルだ。それに何だ……ド派手なまでの装飾は……所々で金箔が貼られているぞ。


「さて、行こうか勇者君。あれ、どうしたんだ姉さん?」


デカい斧を担いだ師匠が我先にと先陣を切るが、その足が止まった。

レヴェッカが目を瞑り、眉間を指で抑えながら突っ立っていたからだ。


「よし、中に人間はいないようです。そのまま爆破しますか」

「はい? 今何とおっしゃいましたか?」


彼女は俺の言葉を無視し――


「【爆発花火エクリクスィ・ルディ】」


城に向かって何だか凄そうな魔法を放った。


「ちょ、ええ!? いきなりかよ!」


彼女の手から放たれた、小さな火種は城に向かう。

だが、城に到達する寸前ーー弾き返されてしまった。


火種はそのままスピードを上げながらこちらに向かい、俺たちの頭上を越え、そして大爆発を起こした。


ドドドドドドドド……


「やばいやばい、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!」

「私の側から離れないで下さい。本当に死にますよ?」


俺は言われた通り、彼女にしがみ付いた。

彼女の作った半円の防御シェルターは、その爆発から俺たちを守ってくれた。


それにしても何が起こったんだ? ……なぜ城の前で弾き返されたんだ?


爆風に包まれる中、城の方を見つめる。

何か……何か黒い人影が壁にしがみ付いているぞ?


はそのまま城を蹴り、こちらに向かって突進して来た。


「レヴェッカ、マズい、何かこっちに来るぞ?」

「どけ、俺が行く」


師匠はシェルターから飛び出し、に対応する。

目にも留まらぬ速さで向かってくる相手に向けて、タイミングを合わせて斧を振り下ろす。


「君誰や?」

「お久しぶりです。マモン王」


師匠が放ち、地面に突き刺さった斧の上に、そいつが二本足で直立していた。

全身が黒い羽毛で覆われた、カラスの頭部をした人型の化け物だ。


こいつが……強欲の王『マモン』。


「ああ、そうか。君アポロメアか。何で人間の格好してるんや?」

「アンタを殺すためだよ」


師匠はその男に口から火を放った。

ソイツはその炎をモロに食らう。


「君がボクに勝てるわけないやろ?」


マモンは炎を食らいながら、師匠の頭に蹴りを入れた。

目にも留まらぬ速さで、師匠は飛んで行った。


「ほんで、君らは誰や? あの派手な花火は君の仕業か?」

「だとしたら、どうしますか?」


レヴェッカは臆することなく、マモンに返答する。

もやは俺は蚊帳の外だった。二人の間に火花が散っている。


「危ないやろ! 城が壊れたらどうする!?」

「チカチカして目障りだったので」

「はぁ? ふざけてんの君」

「ふざけているのはあなたの顔です。【爆発花火エクリクスィ・ルディ】」


再び彼女はあの火種を放った――今度はほぼゼロ距離で。

だが、マモンが拳を突き上げると、その弾丸は軌道を変え上空に打ち上がった。

彼女の花火は、空で大爆発を起こす。

まさかあの一瞬で、拳で弾き上げたのか?


「ええなぁ、それ欲しいわ」

「もう一発、欲しいですか?」


レベルが違いすぎる。

これが魔王なのか……


師匠の動きに慣れた俺でも、全く見えなかった。

こんなヤツがあと六人もいるなんて……


「【爆発花火エクリクスィ・ルディ】」

「何度やっても同じやって……あ、あれ? 体が動かん」


彼女の氷結魔法だ。マモンの体を完全に固定した。これなら――

っていうか、ゼロ距離の俺たちもマズくね?


轟音と爆風が来ることを想定し、目を瞑り耳を塞ぎながらその場にしゃがみ込んだ。

いくら彼女の防御シェルターがあるとはいえ、この距離じゃ――


あれ? 爆発しないぞ。


「何が起きたって顔してるやろ? アレはボクが食ったで」


カラスの頭は、そう言ってくちばしを開ける。

口の中から灰色の煙がモクモクと出て来た。


「【爆発花火エクリクスィ・ルディ】……あれ?」

はもうボクが貰ったもろた


彼女の魔法が発動しない。ま、まさか――


「【爆発花火エクリクスィ・ルディ】」


今度はマモンがその魔法を繰り出した。

その火種は、彼女のシェルターに触れると、大爆発を起こす。


「うわああああ」


俺はそのまま頭を伏せてしゃがみ込む。

何とか爆発に巻き込まれずに済んで入るが、爆音で鼓膜が破れそうだ。


「へぇ、結構しぶといやん」


俺とレヴェッカは無事だった。

彼女の防御魔法のおかげだ。


「じゃあ、二連発はどうや? 【二重爆発花火ダブル・エクリクスィ・ルディ】」


マモンは両手であの技を繰り出した。さすがにこれを食らったらヤバい――


「なんやて!? ぎゃあああ!!」


二つの花火は、ヤツの手前で爆発した。

その爆発は、半径2メートルほどの小さなモノに収まった。


「やるやん。まさかそのシェルターでボクを閉じ込めるとはな」


彼女はマモンを防御シェルターで閉じ込めたことで、内部で爆発を起こし、自爆させたのだ。


「今です、勇者様」


その声を聞き、ハッとした。

そうだ、ヤツは今ボロボロ。これはチャンスだ!


息の根を殺して、静かに剣を振る。

死角からの攻撃だ。ヤツは油断している、俺なんか眼中になかったはず――


「これは君の彼氏か?」

「え?」


何が起こったか分からなかった。

俺は確かにヤツの首を切り落としたはずだ。

だが、剣先にその感触がなく、空気を切った虚無感だけが残る。

気が付けはマモンは、俺の頭を優しく撫でていた。


格が、違いすぎる。


生まれたての子鹿のように足を震わせながら、そのまま尻餅をついて倒れた。


「勇者様、気を確かに。あなたならきっとやれます!」


「いや、無理だ。勝てる訳ない」


「ほら、可愛そうやん。この子震えてるで?」


一瞬でもやれると思った俺が馬鹿だった。

やっぱり俺はましいなんかじゃない。


「だったら君、ボクのとこ来るか? ボクの方に付いたら、もう戦わんでええし、好きなことも出来る。美味いもん食べて、好きな時間に寝て、好きな時間に寝れる。君、やりたいことなんかないか?」

「やりたいこと? 死ぬ前に出来なかった、ゲームかな」

「ええで、それもやらせたるわ。ほな、ボクのうちに行こか」

「ああ」


「勇者様! 勇者様!」


誰かが俺を呼んでいる気がする……気のせいか。

俺のことを気にかけるヤツなんて、いる訳ないじゃないか。


さぁ、嫌なことは全て忘れて遊ぼう。


「ほな、さいなら」

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