第17話 記憶操作
お兄さんの家は特に何も感じなかった。少しくらいは何か残っているかなと思っていたけれど、客間に置かれていた守り神も御札一式も捜査資料として警察が押収したらしく、この部屋には霊的に影響しそうなものは何もなかった。私が何か代わりに置いたとしても、お兄さんが時間をかけて行った事と同じような状況は作り出せないだろう。
客間は何もなさそうなので他の部屋も見てみる事にしたけれど、どの部屋を見ても何も感じることは出来ない。お風呂場も寝室も特に何かがいるというわけでもなく、何かがいたような形跡は残っていたけれど、それを調べようにもあまりにも痕跡が少なすぎて手掛かりにもならなそうだった。
二階に上がってみると扉が開かれている部屋があったのだけれど、この部屋の物もほとんど押収されているらしく、私が見ても何もわからなそうなモノしか残っていなかった。隣の書斎らしき部屋も似たような感じで机とラックがあるだけで調べられそうなものは何もなかった。
これ以上調べても何も出てこなそうだったので、最後にトイレだけ使おうと思っていると、隣のお風呂場から何かが覗いているような気配を感じた。その気配は私が気付いたことに気付くと、そのまま消えてしまったのだけれど、これがもとからこの土地に住んでいる何かなのだろうか。もう少し調べてみようと思ってみたけど、いくら調べてみても何も感じることは無かった。
一通り家の中を調べてみたけれど、収穫はほとんどなかったうえに、はっきりと確認できなかったのでどうやって説明したらいいのだろうか考えてしまった。家の人達には特に報告をしなくてもよさそうだとは思っていたけれど、あとで日記に何か書くときには困ってしまいそうだ。
私の家にお兄さんが着いたと連絡があったのだけれど、今から家に戻るとしても深夜になってしまうと思うので、今日は私がお兄さんの事を調べることは出来ないだろう。調べると言っても私はお兄さんの事は大体調べてあるのでこれと言ってやりたいことも無いのだけれど、他の人が何か見つけるかもしれないという可能性は少なからずあったと思う。
私が家に戻っている間にもお兄さんを調べたという情報は随時入ってきていたけれど、私が調べた以上の事は出てこなそうだった。今のお兄さんには拷問をしたとしても効果が無いと思うし、そう言うのが得意な人も今は役に立たないだろう。
お兄さんの家に向かった時と違って、これから家に帰るのだから、早くても四時間は車の中にいることになるのだけれど、不思議と眠気は襲ってこなかった。長い時間の運転を任せているのだから少しはねぎらった方がいいのかもしれないけれど、その方法がわからないので、途中で食事をとる時にでもご馳走してあげようかと思う。
そう思っていたのだけれど、家に着くまではトイレに行くときに止まった以外は信号でもあまり止まらなかった。
家に着いたのは深夜と呼ぶにはまだ早い時間ではあったけれど、今日はお兄さんに質問をぶつけるのはよしておいた方が良さそうだった。私はそのまま食事をとってお風呂に入ったのだけれど、おばあちゃんもお兄さんの事は調べていたみたいで、私がお風呂から上がるとその話をしてくれた。
お兄さんの頭の中を覗いてみたらしいのだけれど、頭の中身はこれと言って変わった事も無く、子供に関する情報も得ることは出来なかったらしい。誰かがお兄さんの記憶を操作したのか、お兄さんが自らそう言う事をしていたのかはわからないけれど、おばあちゃんでもそれの原因を調べることは出来ないそうで、明日以降はどうやって接すればいいのかが悩みどころとの事だ。
今日は久しぶりに自分の部屋に戻ってきたのだけれど、早めに休んで明日は何か変わった事でもしてみようかと思っていた。その時に私の部屋に見たことが無い男の子が立っていた。その子はお兄さんに似ているような気がしたのだけれど、私が話しかける前に居なくなってしまった。
絵は苦手だけれど、一生懸命に思い出しながらスケッチをしていると、そんなに似てはいないけれど特徴は捉えられたような気がしていた。この絵をどうしたらいいのかはわからないけれど、明日はおばあちゃんに見せてみて反応を見てみよう。
その後は特に何も起こらず、次に気付いた時には完全に朝になっていた。朝ご飯を食べるのも久しぶりな気がしていたけれど、私以外に食卓に向かっている人はいなかった。
おばあちゃんはもう食べ終わっていたようだし、他の人達は私が食べ終わって一通り朝の仕事が終わってから食べるらしい。
前まではその事に気が付かなかったけれど、改めて周りを見てみると、私が気付かないように気を使って行動を取っている事がわかった。
おばあちゃんは今日も朝からお兄さんと向き合っているのだけれど、お兄さんが何か反応するわけでもないので、お互いに何もしないでただ椅子に座っているだけだった。私もその近くに座っていたのだけれど、昨日描いた絵を持ってくるのを忘れていたので、今は部屋に戻る事にした。
部屋から戻ってきた私は、持っていたスケッチブックのページを捲ってお兄さんに見せてみた。
何の反応もなかったお兄さんではあったけれど、私が昨日の夜に見た男の子のページを見せると、今までは何の反応も返してくれなかったお兄さんが目を見開いてそのページを凝視していた。
今まではこんな事も無かったのだけれど、そのページに反応しているのが何か不思議だった。特徴はとらえているとは思うのだけれど、絵として見てみると無駄な部分は無いわりには何となく伝わるといった感じだと思うのだけれど、お兄さんにはこの絵が何なのか一瞬で理解したようだった。
お兄さんは両目に涙を浮かべて謝っているのだけれど、それは奥さんに対するものなのか私のお姉ちゃんに対するものなのか、それとも柏木さんに対するものなのかはわからないけれど、お兄さんは何度も何度も謝っていた。
私の絵を見たおばあちゃんもその絵が何を伝えたいのかわからないけれど、少しでも子供の居場所がわかればいいと言っていた。
お兄さんは相変わらず泣いて謝っているばかりで、私の問いかけにも答えようとせず、問題のページを見ているだけだった。そんな中でもおばあちゃんはお兄さんの頭の中身を覗いていたらしく、今までにはなかった子供の情報が少しだけ手に入ったらしい。
「この人の子供は千葉県にいるみたいだけど、千葉県のどこに居るのかまではわからないよ。この人が何かを思い出そうとすると、それを邪魔している何かが近付いてきてその記憶を消去してしまうようだ。美春なら頭の中身を上手く見れるかもしれないし、今回は美春にお願いしようかね」
おばあちゃんの指名を受けて私はお兄さんの頭の中身を覗こうと思っていたけれど、それにはどうすればいいのかわからなくておばあちゃんに聞いてみた。
覗く方法は意外と単純で、コツさえつかめば何か他の事をしていても大丈夫な気がしていた。それくらい単純な方法で覗けるのだった。
お兄さんの頭の中に浮かんでいる言葉を並べてみると、千葉県と神奈川県が印象的だと思った。最近の行動パターンを見てみると、お兄さんは千葉県には行っているけれど、神奈川県に行っている様子はなかった。お兄さんらしき人の姿を追っていた監視カメラの映像を解析していた人の話では、お兄さんは品川駅で年を召した男性と会って何かをしていた様子が映っていた。その映像を見たわけではないけれど、ほぼお兄さんで間違いないようで、その相手が子供を預かっている可能性が高そうだという事だった。
その男性はこれといった特徴も無く、どこにでもいるような服装だったようで、追跡には少し時間がかかりそうだとの事だったけれど、神奈川方面の電車に乗っていたのは確認できたようで、私達は神奈川方面を中心に調べることになった。
お兄さんの奥さんが四国の人らしいのだけれど、一応その辺も調べてもらう事になっているのだけれど、奥さんの親族が東京方面にきているという情報はなかった。
私の描いた絵を見ていたお兄さんの感情はだんだんと失われているようだった。何かに強く反応するとその記憶が消えていくような呪いなり何かがかけられているのだとは思うのだけれど、お兄さんにそのようなモノがかけられている兆候は見られないのも不思議ではあった。
今はお兄さんの様子を見守りつつ、お兄さんと会っていた男性がどこに行ったのかを知る事が今できる最善の事だと思う。下手に動いて裏目に出るよりも、ここでじっくりと待って確実な情報を手に入れることが重要だ。
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