第16話 霊的思考

 お兄さんが私のお姉ちゃんを殺してくれてから周りの人達の反応も変わっていった。私よりもお姉ちゃんの方が操りやすいと思っていた人もいるだろうし、実際にお姉ちゃんはおだてられると調子に乗ってなんでもやっていた。

 私のお姉ちゃんは普通の人に比べると霊能力もあったのだけれど、おばあちゃんや私に比べるといざというときには頼りないと思われていた。お兄さんがやっていた事は確かに危険な事だとは思うけれど、しっかりと観察をして対応を取っていれば時間がかかったとしても死ぬことは無かっただろう。お姉ちゃんが時間を駆けなかったのは柏木さんが近くにいたことも大きく影響していると思う。

 柏木さんはお姉ちゃん寄りの人だと思っているけれど、あの人は誰にも肩入れはしていなかったと私は感じていた。お姉ちゃんと一緒にいる時間は長かったけれど、それはお姉ちゃんが単純で褒めればそれに応えてくれるってだけだし、お姉ちゃんが柏木さんと一番年齢が近いからって言うのも近くにいた理由の一つだろう。

 私がお姉ちゃんを助けることが出来たのではないかと言われているけれど、その気にならなくても助けることは出来たと思う。お兄さんがやっていた事は単純な事だし、ちょっとバランスを崩せば結界も解けて霊的な力も拡散してしまうと思う。お姉ちゃんにはそれがわからなかっただけだし、私はそれを教えなかっただけだから。


 私がお兄さんに近付いたのはお兄さんの子供が欲しいからだ。お兄さん自身も能力は高いのだけれど、お兄さんの子供はそれ以上の逸材だと思う。今から徐々に能力が弱くなる可能性もあるので、今のうちに子供を確保しておきたいのだけれど、お兄さんは子供をどこかに匿ってもらっているようで、私が一緒にいる間はそこに行こうともしない。何かに気付いているようだけど、私の行動から全てを察することは出来ないはずだ。

 私のおばあちゃんもお兄さんの子供を手に入れることは賛成だと言っているし、それが出来たら草薙家は日本でも一番強い霊能力者の家系になれると思うのだ。


 お兄さんと一緒に過ごしてみてわかったのだけれど、お兄さんは少しだけ自分の能力を過信しているし自分は助かると思っている節があった。弱いと言っても草薙家の長女を殺すことが出来たのだからそれは間違いだとは言い切れないけれど、入念な下準備と強力な協力者の存在が重要だと思うし、同じことは私にしていたとしても何も出来ずにお兄さんに全て返っていっていたかもしれない。

 守り神同士を戦わせてその場に霊場を作るという発想は私達にはなかったものだし、それを多少霊能力のある奥さんで実験していたのは面白いと思った。お兄さんの計画ではもう少し強力な呪いが発動すると思っていたらしいけれど、繋がった世界はそれほど強力なモノではなかったみたいで、お兄さんが持ってきた破れた御札も一部分を除いてお兄さんが破いたのだと思われた。


 柏木さんの行動は間違っていたのだろうか?

 お姉ちゃんの立場から見てみると間違いかもしれないし、私の立場から見てみると正解だとは思われる。私は直接柏木さんに指示を出していたわけではないけれど、私が裏から多少は操っていた面も無いとは言い切れない。

 柏木さんが死んだのは誤算だったけれど、もう少し私の支配に耐えられるとは思っていた。目の前でお姉ちゃんが死んだのが思いの外ストレスになっていたのかもしれないと思ってしまったけど、日常的に人の死に触れていると言うか、人の死後の姿に触れているのだから大丈夫だと思っていたのだけれど、身近な人の死はそれなりに大きなストレスになってしまったのだろう。


 お兄さんを動けなくはしているのだけれど、奥さんとは違ってある程度は動けるようにしてある。私の問いかけにも答えてはくれるけれど、その答えは満足のいく答えではなかった。このままだとホテルに滞在し続けているのも面倒な事がありそうだし、ここは私の家に戻ることにしよう。

 家の人に連絡をして諸々の手続きなどもしてもらう事にして、警察の対応も鳴れている人にお願いするのが一番だろう。迎えの人が来るまでに出来る事は何かないかと思っていたけれど、今のお兄さんに何かしたとしても答えが見つかるとも思えないけれど、子供の居場所くらいは調べてみようかな。


 お兄さんのスマホを調べてみると、ここ数か月で頻繁に連絡を取っている人がいることがわかった。市外局番からこの近くではないと思うのだけれど、だいたいの場所はわかるのでこれから調べればわかるだろう。

 このお兄さんは奥さんと子供以外に家族はいないと思っていたけれど、もしかしたらどこかに親戚がいるのかもしれない。それとも、柏木さんにしていた以上に支配している人がいてその人に子供を預けているのかもしれない。

 持っていたパソコンは仕事のやり取りと、私達とのメールくらいでブラウザの履歴を調べてもおかしいところはなかった。


 私のスマホに連絡が入ったので部屋に家の人を迎え入れてお兄さんの移送をお願いしておいた。私はもう一度お兄さんの家を調べるべきだと思って、お兄さんから家の鍵を借りると運転手とともにお兄さんの家に向かう事にした。


「あの、自分は美春さんみたいに戦えないんですけどご一緒しても邪魔にならないですか?」

「それなら大丈夫よ。あの家はもう戦うとか奪うって状況じゃないからね。とりあえず、着くまで少しだけ眠らせてもらうわね」


 今の時間帯ならそれほど時間もかからずに着くと思うのだけれど、少しでも体を休めることは大事だと思う。

 お兄さんの家に子供の手掛かりが残っているといいな。

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