第3話 サブマリン☆ 女魔術師《まほうつかい》は水面下で活躍する

1 桜子おうこ覚悟かくご


 もうひとりの春川桜子はるかわ さくらことも、なんやかんやあって、へとへとになってかえってきた。

 どちらからも課題かだいけられたかっこうだが、たってはクールビューティーの桜子おうこほうきゅうようする。

 インターネットで情報じょうほう収集しゅうしゅうする。たのみのつなの“魔法使まほうつかい”には、明日あす依頼いらいすることになるだろう。明日あす早退そうたいさせてもらおう。

 この一週間いっしゅうかんにはすくなくとも3にん人生じんせいかっているのだ。おれ桜子おうことその父親ちちおやの。

 それにしても、桜子おうこもよっぽど余裕よゆうがないのであろう。10秒間びょうかんとはいえあのような、あられもない写真しゃしんおれせてくるとは。

 おそらくは凌辱りょうじょくされた直後ちょくご撮影さつえいされたであろう生々なまなましい写真しゃしんだれにも、とく異性いせいにはけっしてられたくないはずであろうに。

 猶予ゆうよ本当ほんとうに、一週間いっしゅうかんしかないだろうな。桜子おうこは、あと一週間いっしゅうかん我慢がまんということで、ぎりぎりえている。一週間いっしゅうかんってなんすくいもないとなれば、自暴自棄じぼうじきになって父親ちちおや殺害さつがいするか、あるいは、それが出来できないとなれば自殺じさつしてしまうかもしれない。

 この事態じたい一週間いっしゅうかんでどうこうしようなど、無理むりゲーもいいところだが、やるしかない!


2 たのみのつなことわられる


 翌日よくじつ学校内がっこうない桜子おうこは、普段通ふだんどおりにえた。さすがはクールビューティー……などとっている場合ばあいではない。

 内心ないしん懊悩煩悶おうのうはんもんして、とても授業じゅぎょうなどいているどころではないであろうに。

 正直しょうじきおれほうはそうだ。とても授業じゅぎょうのことなどかんがえられそうにない。

 だが先程さきほどたのみの“魔法使まほうつかい”に面会めんかい約束やくそくけることが出来できた。魔法使まほうつかいにうまでに、おれ出来できることなどない。

 むしろ授業じゅぎょう集中しゅうちゅうすることによって、わるほうにあれこれかんがえがおよぶのをふせほう得策とくさくだ。えて、桜子おうこのことをあたまからした。


 午後ごご時半じはんおれはそこにていた。

 『渡部太郎わたべ たろう法律事務所ほうりつじむしょ

 渡部太郎わたべ たろう弁護士べんごしは、おれより10歳じゅっさいほど歳上としうえのいとこにたる。おれたのみのつなは、法律ほうりつ実務家じつむか、『ま、法使ほうつかい』というわけだ。

 タロさん――渡部わたべ弁護士べんごしというと堅苦かたくるしくなるので、子供こどもころからの愛称あいしょう使つかわせてもらう――は、コーヒーをふたりぶん用意よういしてやってきた。

「タロさん、ご無沙汰ぶさたしてます」

「おう、葉太ようた。まあ、そうかたくなるなって。おまえさんとこのちの生徒せいと児童じどう虐待ぎゃくたいけてるうたがいがあるんだって?」

「はい。うたがいではなくて、はっきり児童じどう虐待ぎゃくたいけています」

断定だんていかよ? 児童じどう虐待ぎゃくたい現場げんばでもたのか?」

「いえ。ですが、両腕りょううであざきずだらけで。あと写真しゃしんが……」

「おいおい、ガキのうことなんかけてんのかよ。そいつぁ〜、とんだ狼少女おおかみしょうじょかもんねえぜ」

狼少女おおかみしょうじょ?」

「ああ。『おおかみた〜! おおかみた〜っ!』っつって、大人おとなけむいてあそんでんのさ♪」

「タロさんっ! 春川はるかわはそんな生徒せいとじゃありません!」

 おもわずおれは、がってこえあららげていた。

「まあまあ、そう興奮こうふんすんなって。いまので大体だいたいのことはわかった」

「わかった?」

 たずねながらすわなおす。まだ、なにはなしていないのだが?

葉太ようたよ、ちの生徒せいとねつげるのはやめといたほうがいいぜ?」

「なっ!? おれは……」

生徒せいと児童じどう虐待ぎゃくたいけてるっつうんなら、どうして学校がっこうからじゃなくで、おまえさん個人こじんから依頼いらいがくるんだ? 弁護士べんごし費用ひようってな〜、そうやすいもんじゃねえぞ? おまえさんのひとつきかせぎがあっというぶぜ?」

「そ、それは……」

学校がっこう問題もんだいじゃなくて、わたくしごとにしてえんだろ? それは何故なぜだ? 女生徒じょせいとれてるからだ。ちがうか?」

 おれ言葉ことばなかった。

「ま、いや。どうせおれは、この依頼いらいけらんねえしな」

「えっ?」

今週こんしゅう高松たかまつ高裁こうさいったり、最高裁さいこうさいったり、いそがしんだよ。大法廷だいほうていだぜ? おれったら先例リーディングケースになる。すげぇだろ。おまえさんのヒーローごっこにはってらんねぇっての!」

「ちょ、ちょっとってください💦 春川はるかわの……、おれ生徒せいと人生じんせいかってるんですよ。たすけてくださいよ」

「だからいそがしいっつってんだろ? 悲劇ひげきのヒロインをたすける王子様おうじさまごっこならよそでやれってんだ! 189いちはちきゅう通報つうほうして、あとはそのみちのプロにまかせときゃいんだよ」

 189いちはちきゅう児童相談所じどうそうだんしょ緊急きんきゅう通報つうほうよう全国ぜんこく共通きょうつうダイヤルだ。語呂合ごろあわわせは『いちはやく』

「そこに通報つうほう出来できないから、こまってんだよ!」

 おれせきってはなれてこうとするタロさんにつかかっていた。一発いっぱつなぐってやらないとがすまない。が、おれのパンチはあっさりとかわされ、手首てくびつかまれたかとおもうと、背中せなかひねりあげられていた。

「タロさん、ギブ、ギブッ!」

本気ほんきなぐかってきておいて、ギブアップがあるかよ? 相手あいておれだったからいものの、社会人しゃかいじんひとなぐったら、大事おおごとになるぜ?」

 といつつも、はなしてくれた。うう……。なんかかっこわるい。

おれはこの事件じけんけられねえんだが、わりのすけ用意よういしてある。おそらく、この事件じけんかんしては、おれ以上いじょう適性てきせいがある」

「タロさん以上いじょう適性てきせい?」

 やりられるタロさん以上いじょうすけとは?

「まあ、ひらたくやあ、かねにならない事件じけんってことだな。どうだ? 紹介しょうかいしてしいか?」

 おれには、ほかたよるアテもない。

「おねがいします」

 素直すなおあたまげる。

「っつうわけでご指名しめいはいった。実枝みえちゃん、出番でばんだぜ!」

 タロさんが大声おおごえげると、おくから女性じょせいあらわれた。おれより歳上としうえだろうが、かなりの美人びじんだ。

弁護士べんごし松永実枝まつなが みえもうします。どうぞよろしくおねがいたします」

 その女性じょせいったまま、あたまふかげた。


3 えずったのだが……


 その、タロさんは、興味きょうみなさげにせきはずし、松永まつなが弁護士べんごしはなった。

 児童じどう虐待ぎゃくたいのこと。桜子おうこ救出きゅうしゅつするプラン。桜子おうこ父親ちちおやがどうなるか・どうするかということなどなど。

 そして当然とうぜんのことながら、松永まつなが弁護士べんごし桜子おうこからはなしきたいとってきた。

 おれは、『通報つうほうしたら殺害さつがいする』とわれているむねはなしてしぶったが、

「その程度ていどおどしでびびってたら、弁護士べんごしなんてつとまりませんよ。教師きょうしも。でしょ?」

われて、そのとおりだとおもった。

 松永まつなが弁護士べんごしは、木曜日もくようび桜子おうこわせてしいとった。それまでに出来できることは極力きょくりょくしておくとも。


弁護士べんごし相談そうだんしたことを桜子おうこげるべきかな〜?」

 自宅じたくのベッドに寝転ねころがってひとりごちた。

 もし、弁護士べんごしに――他人たにんに――相談そうだんしたことをったら、桜子おうこはどうおもうだろうか? 裏切うらぎられたとおもって、凶行きょうこうおよんでしまうのではないか? だとしたら、木曜日もくようびまでだまっていたほういだろう。

 だが、その場合ばあい松永まつなが弁護士べんごしまえ修羅場しゅらばえんじることになるだろうな。第三者だいさんしゃまえだということで、おとなしくしててくれるといのだが。


 火曜日かようび水曜日すいようびと、おれ松永まつなが弁護士べんごしから報告ほうこくけるのと、ネットで個人的こじんてき調しらべる以外いがいのことは出来できなかった。

 そして木曜日もくようびおれは、ホームルームのあと、桜子おうこしてげた。

今日きょう午後ごごれい公園こうえんしい』

と。


4 公園こうえんでの再会さいかい


 おれはこの早退そうたいして、はやめに公園こうえんっていた。スペシャルゲストは520分にじゅっぷんあらわれる手筈てはずだ。おれはそのまえ修羅場しゅらばおさめておかなくてはならない。

 4時よじ45ふん春川桜子はるかわ さくらこあらわれた。この公園こうえんは、今日きょうウグイスではなく、閑古鳥かんこどりいている。

「やあ、桜子おうこさん。よくてくれた」

「どうかしたんですか?」

「いや、きみ救出きゅうしゅつする具体的ぐたいてき方法ほうほうはなしておこうとおもってね。桜子おうこさんは、児童じどう相談所そうだんしょ一時保護所いちじほごしょってってるかい?」

「っ!」

 おどろいた表情ひょうじょうかたくする桜子おうこかまわずはなしつづける。

きみ父親ちちおやなんだが、警察けいさつ通報つうほうしたほういとおもってね。そうなるときみは、一時保護所いちじほごしょ保護ほごされることになるとおもう。

 警察けいさつでは、きみ父親ちちおやきみたいしての所業しょぎょう調しらべられるだろう。きみ被害者ひがいしゃとして、裁判所さいばんしょ法廷ほうてい証言しょうげんすることをもとめられるかもしれない。

 ひょっとしたら、マスコミにぎつけられて、興味本位きょうみほんい報道ほうどうされるかもしれない。きみ個人こじん名前なまえ報道ほうどうされることはないだろうが、それでも、こういった事件じけんは、どうしてもまわりにれてしまうから、学校がっこうきみのことがうわさされ、学校がっこうにも居辛いづらくなるかもしれない。

 あっ、そういえば、一時保護所いちじほごしょにいるあいだ学校がっこうかようことが出来できなくて……」

 おれ松永まつなが弁護士べんごしからおそわったことや、自分じぶん調しらべたことを淡々たんたんはなしていった。

 桜子おうこ反抗はんこうすることもなく、おとなしくいていた。あっけないほどだった。

 おれっていることをはなえると、桜子おうこがおずおずといてきた。

わたしの……、わたし人生じんせいひかりはありますか?」

 おれがって、桜子おうこ両肩りょうかたをやった。桜子おうこがる。

「もちろんだとも! きみはこれまでつら人生じんせいごしてきたんだろうが、これからはひかかがや未来みらいっているはずだ!

 だからこそ、きみ父親ちちおや殺害さつがいするなどということをしてはいけない。日本にほん法律ほうりつでは、『自力じりき救済きゅうさい原則げんそく禁止きんし』されている。そのために、警察けいさつほか組織そしき機関きかん存在そんざいするんだ!

 きみは、これからしばらくつらうだろう。けれども、それをぎればかがや未来みらいっている。ぼくきみ世界せかいひかりもどすまで、出来できかぎりのチカラになりたいとかんがえている」

葉太ようたさんっ!」

 桜子おうこおれむねんできだした。おれやさしくそっときしめてやった。

 この桜子おうこなみだは、地獄じごくのような日々ひびから解放かいほうされるよろこびなのか?

 それとも、これからおそってくる様々さまざま変化へんかや、彼女かのじょたいする好奇こうきやあらぬ噂等うわさなどはかなんだものなのか?

 おれむね桜子おうこをそっとハグしつづけていると、スペシャルゲストがやってきた。

 松永まつなが実枝みえ弁護士べんごし予定よていどおりだが、あとのふたりのことはらなかった。だが……。

「おねえちゃ〜ん!」

 中学生ちゅうがくせいくらいのおんなってきた。


5 数年後すうねんご葉桜はざくら季節きせつ


秋田あきた先生せんせい、わざわざおてして、もうわけございません💦」

「いやいや、この公園こうえんには色々いろいろおもがあるからね。そういや、あのころ葉桜はざくら季節きせつだったな」

正直しょうじき、あのころわたしは、風景ふうけいたのしむ余裕よゆうなんてありませんでした。けれども、秋田あきた先生せんせいのおかげいまでは人並ひとなみにはお花見はなみたのしめるようになってきました。感謝かんしゃしてもしきれません」

「いやいや、ぼくなにもしてないからね。おっと、そうそう。弁護士べんごしになったんだってね。おめでとう☆」

「ありがとうございます♡ これ、名刺めいしです。先生せんせい離婚りこんされるときには、わたしたよってくださいね?」

「あははは……。冗談じょうだんキツいね? そうならないようにけます」

いまだからいますけれど、本当ほんとう秋田あきた先生せんせいのことを……葉太ようたさんのことをねらっていたんですよ?」

「えっ!」

 おどろいた。まさか、桜子おうこがそんなことをかんがえていたなんて。桜子おうこがそのとおりにほおを桜色さくらいろめている。

「ならばぼくからもおう。じつはあの間違まちがえて名前なまえんでしまったくらい、もと恋人こいびと桜子おうこかおてて……。きみから求愛きゅうあいされてたらぼくきみえらんでしまってたかもな」

「まあ! おくさんにいつけちゃいますよ? ふふっ、冗談じょうだんです♪ いまのはわたしこころなかだけにとどめておきますね☆」

かなかったことには、してくれないんだ?」

「もちろん! こころ宝石箱ほうせきばこ鍵掛かぎかけてしまっておきます🔐」


 ひさしぶりに再会さいかいした桜子おうこはすっかりあかるくなっていた。元々もともとはそういう性格せいかくなのだろう。家庭かてい事情じじょうにより、わらえなくなっていたが、それももう解決かいけつした。

 あのあと桜子おうこは、じつははもとられた。母親ははおやほうでも桜子おうこ不憫ふびんおもい、いてごしていたという。

 父親ちちおやは、有期ゆうき懲役刑ちょうえきけい実刑じっけい判決はんけつ現在げんざい服役中ふくえきちゅう。ただ、いつ仮釈放かりしゃくほうされてもおかしくないころらしい。

 けれども、法律ほうりつ知識ちしきにつけた桜子おうこは、もう父親ちちおやおそれていなかった。

 桜子おうこ両親りょうしんは、その裁判さいばん離婚りこん成立せいりつし、桜子おうこ名字みょうじ高校こうこう在学中ざいがくちゅうわり、さらにその結婚けっこんして名字みょうじわった。もう、『春川はるかわ』とぶこともないわけだ。

 一時いちじは、どうなることかとおもったが、桜子おうこの『魔法使まほうつかい』という言葉ことばからひらめいた『ま、法使ほうつかい』→『弁護士べんごし』をたよることで、本当ほんとう魔法まほうのように、桜子おうこ人生じんせい一変いっぺんした。

 もし、あのひらめきがなかったら、桜子おうこおれ殺人さつじん正犯せいはん共犯者きょうはんしゃとして犯罪者はんざいしゃ仲間入なかまいりをしていたのかもしれないのだから。

 桜子おうこ、かつての葉桜はざくらころきみふゆさむさにふるえていたけれど、いまきみは、人生じんせいはるむかえ、満開まんかいさくらいているよ。

 本当ほんとうにおめでとう🌸


 つづく


 桜子おうこです。

 松永実枝まつなが みえ弁護士べんごしには、大変たいへん世話せわになりました。松永先生まつながせんせい本当ほんとう女魔術師まほうつかいのように、世界せかい一変いっぺんさせてくれました。

 今回こんかい一番いちばんけずりまわって尽力じんりょくしてくださったのですが、小説しょうせつ本編ほんぺんではほとんどてきてない。だからこのタイトルなんですね。サブマリンって『潜水艦せんすいかん』のことなんです。

 まるで、『岸辺露伴きしべ ろはんうごかない』みたいな? ちょっとちがいますか? うふふ♡


 ところで秋田先生あきたせんせいは『なにもしてないから』と謙遜けんそんされていますが、わたし先生せんせいすくわれたのです。

 次回じかい最終回さいしゅうかいは、『課外授業かがいじゅぎょう 葉桜はざくらもとで』です。

 よろしくおねがいたします。

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