第2話『先生は手を下さなくて良いです。死体の処理だけ手伝って下さい

1 もっともだとかんじたならば、きみ共犯者きょうはんしゃにでもなろう


先生せんせいひところしたいとおもったことはありますか?』

 桜子おうこ言葉ことば一瞬いっしゅん意味いみがわからなかった。これは冗談じょうだんなのか、本気ほんきっているのか?

 想像そうぞうななうえをきたかんじだ。ただ、沈黙ちんもくおも空気くうきつくげてしまう。こたえろ。なにこたえるんだ。

「あー、そりゃあ、あるさ。いけかないヤツとか、ムカつくヤツ、やたらかたきにしてくるヤツとかは、ねばいいとかおもうくらいだれだってあるさ」

ちがいますね。わたしきたいのは、そういうことではありません。秋田あきた先生せんせい本気ほんきだれかをころしたいとかんがえて、そのために行動こうどうし、すくなくとも計画けいかくったことがあるのか、それがきたいのです」

 無表情むひょうじょうにそうげる桜子おうこさん。とても、冗談じょうだんたんなる好奇心こうきしんとはおもえない。

 ここで、『そんなことかんがえちゃダメだ!』とうのは容易たやすい。だが、それをったところでどうなる? 反発はんぱつされてそれっきりだろう。二度にどこころなんてひらいてくれない。そして最悪さいあく事態じたいこされる可能性かのうせいもゼロではないだろう。

 ならば……。

桜子おうこさん、きみにはころしたいという相手あいてがいるんだね? くわしいはなしかせてくれれば、はチカラになれるかもしれない……」

 えてんでみた。このなやみはおれかんがえていたよりもはるかにやみふかいようにかんじられた。このすくえるのは、おれしかいない。直感的ちょっかんてきにそうおもった

 さっきまで歳相応としそうおうおんならしくわらっていた桜子おうこに、『ひところす』なんてだいそれたことが出来できるとはおもえない。けれども、その笑顔えがおをなくしてしまえば、いまつめたい能面のうめんのような表情ひょうじょうこころまで浸透しんとうしてしまえば、衝動的しょうどうてき犯行はんこうおよんでしまうかもしれない。

 いまはなるべく刺激しげきしないように、普段ふだん使つかわない『ぼく』という言葉ことばもちいた。

いやだなあ、先生せんせい高校生こうこうせい冗談じょうだん大人おとなが……」

 桜子おうこ言葉ことば途切とぎれる。おれ真剣しんけん真摯しんし親身しんみになってはなしいている。それがつたわったのであろう。

 しばしの静寂せいじゃく困惑こんわくしたような表情ひょうじょう。ここにきて、ふたたまよっている。

 だれかをころしたいほどにくんでいるのか、ほか感情かんじょうなのか? まさか、クラスじゅうからイジメられていて、クラスメイト全員ぜんいん殺害さつがいしたいなんてうんじゃないだろうな。

 緊張きんちょうし、生唾なまつばむ。

 決心けっしんがついたのだろう。桜子おうこおれをしっかりとつめてきた。

秋田先生あきたせんせい? いまからわたしはなすことをいたら、先生せんせいはもうせなくなりますよ? もし先生せんせい警察けいさつ通報つうほうして、わたし逮捕たいほされたとしたら、出所しゅっしょしたあとかなら先生せんせい殺害さつがいしにうかがいます。何十年なんじゅうねんかっても絶対ぜったいに! いまならいます。1分いっぷん以内いないに……」

不要ふようだ。ひとつっておく。このけんかんしては、ぼく先生せんせいじゃない! 秋田葉太あきた ようたというひとりのおとこだ。きみはなしいて、それをもっともだとかんじたならば、きみ共犯者きょうはんしゃにでもなろう。だが、きみうことに納得なっとく出来できなければ、ぼく全力ぜんりょくきみ犯行はんこう阻止そしする。ただし、その場合ばあいでもきみだまちにはけっしてしない。正々堂々せいせいどうどう真正面ましょうめんから、きみ犯行はんこう阻止そしさせてもらうよ。それでいならはなしを……」

 桜子おうこりょうひとみからなみだこぼれた。

「ど、どうしたの?」

「おねがいです。すこしのあいだだけ、こうさせてください」

 桜子おうこおれむねかおうずめ、こえころしてはじめた。

 どうやら、拒否きょひされることなく、彼女かのじょむねうちることに、えずは成功せいこうしたようだ。とはいえ、場合ばあいによっては殺人さつじん片棒かたぼうかつぐリスクもめているわけで★

 まだまだ、けない。


2 絶句ぜっく! 一枚いちまい写真しゃしん


はなしはじめるまえに、わたしはなしがウソでも冗談じょうだんでもないということを証明しょうめいするために、これをおせします。けっしてらさずに10秒間びょうかんください」

 そう前置まえおきして、桜子おうこりの写真しゃしんした。

 周囲しゅういをきょろきょろと見回みまわ桜子おうこおれおなじように周囲しゅうい見回みまわしたが、さいわ公園内こうえんないにはだれもいなかった。

 おれたちがいまいるベンチは、公園こうえん中央ちゅうおう付近ふきんで、10びょうやそこらでは、だれかがやってきて写真しゃしんのぞむなんてことはこりないだろう。

 さきほど、『おれ殺害さつがいする』とまでっていたほどなやみだ。おにようがじゃようが、けっしておどろくまい! そう決意けついした!


 おれほう写真しゃしんけてひらかれる。シワだらけで保存ほぞん状態じょうたいわるいといえる。

 桜子おうこは、写真しゃしん回転かいてんさせながらおれわたしてきた。

「うっ!」

 前置まえおきがなければ、おれはその写真しゃしんを10びょうものあいだつめつづけることなど出来できなかったであろう。

 それほど凄惨せいさんなものがうつされていた。

 桜子おうこさんのあられもない姿すがた抵抗ていこうすることさえ出来できない放心状態ほうしんじょうたい

 その写真しゃしんただけで、おれ彼女かのじょ殺意さつい本物ほんものであると結論けつろんけた。殺人さつじん片棒かたぼうかつぐことになるかもしれない。極力きょくりょくける方向ほうこうでいるがな。


3 中学ちゅうがくねんときに、ちちみさおうばわれました


中学ちゅうがくねんときに、ちちみさおうばわれました」

 桜子おうこは、つとめて冷静れいせい言葉ことばはっした。

 以下いか淡々たんたんかたっていく。


――それははは外出がいしゅつしているときでした。そのちちは、はは外出がいしゅつのたびに身体からだもとめてきました。ことわれば暴力ぼうりょくるわれて、当時とうじわたし抵抗ていこうするちからはありませんでした。

 やがて、ちちおこないはははにバレ、ははちちってかりましたが、ちちはげしい暴力ぼうりょくによってさえぎられ、ははいもうとれてていきました。

 それからは、毎晩まいばん毎晩まいばん……★

 わたしげるのをおそれていたのでしょうか? ちちはやがてはたらかなくなり、生活せいかつはみるみるくるしくなってきました。

 それでも高校こうこうだけは、かせてもらうようたのんで進学しんがく出来できたのですが。

 最近さいきんは、高校こうこうなんかめちまえと、執拗しつようってきます。

 機嫌きげんわるいとすぐに暴力ぼうりょくるわれて、かおだけはなんのがれていますが、えないところはあざきずだらけです――

 桜子おうこ長袖ながそでまくって両腕りょううでせてきた。それは正視せいしするにえなかった。

写真しゃしん何百枚なんびゃくまい何千枚なんぜんまいられたかわかりません。不幸中ふこうちゅうさいわいだったのは、写真しゃしんがポラロイドカメラによるものだったことと、ちちPCピーシーやインターネットをまった理解りかいしていないことでした。けれども、最近さいきん高校こうこうへの登校とうこうさえ妨害ぼうがいされがちで……、それに……」

 桜子おうこかたふるし、言葉ことばつづかなくなってきた。

 この告白こくはく桜子おうこにとって、セカンドレイプとおなじことなのだ。どれほど屈辱的くつじょくてきみじめなことか。

「わかった、もうい、もういから★」


4 魔法使まほうつかいにはアテがある


 春川桜子はるかわさくらこ実父じっふより、2ねんものあいだ性的虐待せいてきぎゃくたいけてらしてきたのだ。

 母親ははおや見捨みすてられて、虐待主ぎゃくたいぬし父親ちちおやとふたりきり。しかも、最近さいきん桜子おうこ高校こうこうかようのさえうとましくおもってきたという。

 最低さいていのクズだが、だからといってころしていというわけではない。

 どうすればいのか? いますぐにはこたえをしかねる。

先生せんせいくださなくていです。死体したい処理しょりだけ手伝てつだってください」

「いや、ってくれ! きみ境遇きょうぐうはわかった。きみのチカラにもなりたいとおもう。だが、ころすのはダメだ」

先生せんせい、このほんください。知識ちしき度胸どきょうさえあれば、だれでもひところすことが出来できるんですよ?」

 桜子おうこんでいたほんだ。そのタイトルは『はじめてでも簡単かんたん暗殺あんさつ技術ぎじゅつ入門にゅうもん』とかれていた。なんだ? 最近さいきん女子じょし高生こうせいはこんなほんむのか? そういや、まえ学校がっこう生徒せいとで、ひとけものわれる『獣害じゅうがい事件じけん』のほんやら、『毒物どくぶつ』のほんやら、『呪術じゅじゅつ』やら『魔術まじゅつ』やらのほんこのんであさ魔女まじょっぽい生徒せいともいたなあ。

 って、そんなことより。

ひところすっていうのは、そういうことじゃないんだ。なんとかしてべつ手段しゅだんを……」

先生せんせいはやっぱり先生せんせいなんですね?」

 半眼はんがんになったおれめる。けれどもここで、『よし、一緒いっしょ殺害さつがいしよう!』とは、ひととしてえなかった。

 『ほふぅー』と、ためいきがつかれ、るような視線しせんゆるむ。

「この世界せかいには、ネズミをうまえ、かぼちゃを馬車ばしゃえる魔法使まほうつかいはいないんですよ? だとしたら、自分じぶんでなんとかするしかない……」

魔法使まほうつかい? ……そうか! そのがあったか! 桜子おうこさん、『魔法使まほうつかい』には、アテがある。一刻いっこくはやく、この境遇きょうぐうからしたい気持きもちはわかるが、ここは一週間いっしゅうかん一週間いっしゅうかんぼくにくれないか? 100パーセントのハッピーエンドはのぞめないかもしれないが、父親ちちおやころさずに状況じょうきょう一変いっぺん出来でき方法ほうほうつけられるかもしれない。そのわり、一週間いっしゅうかんつけられなかった場合ばあいは……ぼく親父おやじさん殺害さつがい計画けいかく加担かたんしよう……★」

 ってしまった★ 教師生命きょうしせいめいどころか人生じんせいが、王手おうて飛車びしゃでのめろがかるじゅんえらんでしまった心境しんきょうだ。かぎりなく危険きけんじゅんだが、『めろのがれのめろ』のような魔法まほう手順てじゅんがあるとしんじて行動こうどうするしかない!

先生せんせいには……、あなたには、わたし気持きもちなんてわかりっこない! 一週間いっしゅうかんころしたいほどにくんでいる父親おとこかれるのが、どれほどつらなさけないことなのかを……。けれども……。いでしょう☆ 2年以上ねんいじょうしのんできましたから、あと一週間いっしゅうかん我慢がまんします。一週間後いっしゅうかんご、あなたの返事へんじわたし到底とうてい納得なっとくさせることが出来できなければ……」

 桜子おうこは、一旦いったん言葉ことばめ、周囲しゅうい見回みまわした。ちかくにひと気配けはいはない。

「……来週らいしゅうよるちちを……あのおとこ殺害さつがいします」

 えた桜子おうこには、憔悴しょうすいいろかんでいた。桜子おうこにとってもこれは重大じゅうだい決断けつだんなのだ。

「わかった。そのときは、ぼくそう。ぼくは、けっしてきみ裏切うらぎらない。ただし、きみもこの一週間いっしゅうかんけっしてはやまったことをしないと約束やくそくしてくれ!」

「ふふっ♪ あなたのう、『魔法まほうのように上手うまくいく代替案だいたいあん』。わたしたのしみにしております。それでは」

 桜子おうこはしってしまった。


5 どっとつかれ もうひとりの春川桜子はるかわ さくらこ


 桜子おうことは、それほどなが時間じかんごしていたわけではなかったが、一日中いちにちじゅうけずりまわっていたかのように、どっとつかれがた。

 それはそうだ。この一週間いっしゅうかんべつ方法ほうほうつけなければ、犯罪者はんざいしゃ街道かいどうけてネコまっしぐらである🐈

 しばらくがることも出来できず、ぐったりしていたが。

「おーい! ようた〜ん💕」

 とおくからおれこえこえてきた。

 そちらにかおけると――かおけるまえから、こえぬしには100パー確信かくしんいだいていたが――もうひとりの春川桜子はるかわ さくらこがこちらにかってけてくるではないか。内心ないしんげっそりした。

 っと、段差だんさつまづき、おっとっと、っところびそうになるもなんとかこらえて、おれまえまでやってきた。

「やあ、ようたん❤ こんなところでうなんて土偶どぐうだね♡ ひょっとして、ふたりは前世ぜんせいからの、う♡ん♡め♡い?」

 土偶どぐうじゃねえよ、奇遇きぐうだよ。埴輪はにわかっ!


 このあと、こっちの桜子さくらことも色々いろいろとあるのだが、今回こんかい割愛かつあいさせていただく。本編ほんぺん終了後しゅうりょうご、そちらの桜子さくらこサイドのはなし執筆しっぴつする予定よていである。おたのしみにおくださいませ。


 つづく


 次回予告じかいよこく

 ほ〜い、んちゃ! 陸上部りくじょうぶのアイドル。プリティー♡ラブリー♡キューティー♡エンジェル👼 小桜こざくらちゃんこと、春川桜子はるかわ さくらこちゃんダヨー! にゃはは♪


 ようたん♡だ〜りん♡う、『魔法使まほうつかいのアテ』って、あの魔女まじょ★のことかにゃー? 漁師りょうし重労働じゅうろうどう魔法まほうで、ぜーんぶ怪傑かいけつゾロしちゃうのカナー🎣 たのしみダネー♡


 次回じかい、『サブマリン☆ 女魔術師まほうつかい水面下すいめんか活躍かつやくする』のまきだよ〜ん♡ こっちがはやわってくんないと、小桜こざくらちゃんとようたん♡だ〜りん♡とのラブラブラブコメがはじめられなくて、まいっチング💫

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