第12話 五穀豊穣⑫
豊作の秋は瞬く間に過ぎ去った。また次の年が始まり正月の夜のことだ。
「秋にも来たのだろ」
八咫烏は
八咫烏の盃に木花咲耶姫はお酌をする。
「ええ。でも験を担ぎたいのでしょう。昨年の正月にここに
台地の農家の人々は、豊作を祝って、十月に皆で浅間神社を詣でた。そして、新年にも皆が詣でた。本来なら小さな社であり、地元の人も、あまり正月ですら参拝はしなかった。それが今年は久しぶりに参詣者が多かった。
「それも信心か。それとも欲得から来る行為か」
さあ、どうでしょうか、といなしながら木花咲耶姫は
「どちらでもよかろうよ。神をあがめ奉る連中とて、
案山子の横には姉の
大酒飲みの大山津見神のペースに乗せられて、どんどん二柱は杯を重ねた。今宵の八咫烏は酒癖が悪いらしい。酔うほどに絡み酒になっていく。
石長姫は文句も言わず、何度も盃を案山子の「へ」の口へと運ぶ。
醜女と聞いていたが、案山子の眼には世間が言うほどのものではない気がした。それどころか、むしろ逆であるように見えた。石長姫の所作は典雅であり、体型もふっくらとしていて、豊かさを想像させる。そりゃ、確かに顔立ちだけを比較すれば、木花咲耶姫の方が美しい。しかし、木花咲耶姫はどことなく
父親の大山津見神は二人を平等に扱った。どちらが素晴らしいともしなかった。それこそ、長所もあれば、短所もある。そういうものなのかもしれない。
「なんだ、嫁にもらうか」
見透かしたように父親の大山津見神が問うてきた。
「どちらを」
「二人とも持って行けよ」
「案山子に嫁いでどうするのだ」
ふむ、そうか、と大山津見神は口元に盃を運んだ。
「それにしても・・・・・・」
八咫烏の絡み酒が始まった。どこかが痒いのか、大きく翼を広げて、ゆっくりとたたみ直した。
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