第11話 五穀豊穣⑪
タヌキたちは義心が強かった。栗林のある丘の上を走る幹線道路を次々と渡り、救援に駆けつけた。
子どものタヌキの何匹かはダンプカーにはねられて死んでしまった。
大人のタヌキも含めて、渡り終えたとしても、人々に捕まってしまった。
タヌキは人間に遭遇すると気絶してしまう。気絶している間に人間にまんまと捕まってしまう。
哀れ、みなタヌキ汁になってしまった。
生き残ったタヌキは森にいるクスサンの成虫である蛾を食べた。
ヤドリバチも予定通り、幼虫の数を減らしてくれた。
近くの幼稚園の園児の間で、「ぶんぶんぶん」が大流行した。幼稚園の先生に地元の出身者がいて、ヤドリバチが増えた理由をきちんと園児たちに教えたらしい。それを園児たちは親に伝えたのだろう。ヤドリバチが人には危害を加えないということも知った。
「ぶんぶんぶん♪」と歌う元気な園児の声が、丘と丘の間の低地に響いた。
結果として、幼虫・成虫の両面からクスサンの量は減っていった。
いつものように案山子の近くの柿の木の下で、農家の人々は昼休憩をしていた。口々に「よかった」と言い合っていた。だが、そのついでに「タヌキが増えた」だの、「蜂が多い」だの、好き勝手な文句を言い合っていた。
聞いていた案山子の顔がゆがんだ。絶対にタヌキには伝えたくないな、と思った。
栗林の夫婦も安堵し、肩の荷を下ろしたようなすっきりとした表情になっていった。有機栽培も続けられそうだった。
こうして秋の収穫は台風の影響もなく、順調な実りとなった。
その後タヌキや蜂たちの大部分は、散り散りになって他の土地へ移動した。タヌキは再び犠牲を払って、幹線道路を横断していった。
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