第7話 五穀豊穣⑦

 そして、八咫烏やたがらすが先刻説明した内容とほぼ同じ内容を木花咲耶姫このはなさくやひめは語った。ただ、農家の人々の窮状に対する思い入れなどを交えたものであった。それを聞いて、案山子かかしは深く同情した。それは木花咲耶姫が美人だからではない。案山子もそのような義心を持ち合わせているのである。

「いやな、わざわざ来たのは他でもない。きちんと話さねばならぬことがあってな。我々への願いは『豊作』か、それとも『台風の上陸阻止』か」

「その両方ではいけませんか」

 少し潤んだ、美しい眼で見つめられると、『なんとかします』と言いそうになる。しかし。

「台風を避けるのは不可能だろうな。天災ゆえにな。八意思兼命やごころおもいかねのみことならあるいは」

 八意思兼命とは天気の神様だ。だが、台風をあやつれるとは案山子も聞いたことがなかった。

「では、八咫烏やたがらす殿、またお使い願いますか」

 八咫烏は羽を広げて、「分かった」と返事した。

「では案山子様、百姓たちのご支援のほど、よろしくお願い申します。わらわもここで祈りを捧げるゆえ」

 木花咲耶姫は深々と頭を下げた。

「お任せあれ、栗の方は話は簡単だ。八咫烏よ、わぬしが虫を全て食えばよい」

「ふざけるでない」

 八咫烏は興奮して、「くわぁ」と鳴いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る