第6話 五穀豊穣⑥
社殿のなかは板敷きの床になっていた。床には男が
木花咲耶姫は男の少し右前に立った。ふり返って、
「父です」
とニコリと笑った。
『
と案山子は内心ごちた。これで今晩はしたたかに呑まねばならぬことが決まった。
大山津見神は
大山津見神は
大山津見神は頭には鉢巻きをしていて、両耳のあたりで紙を縦に結わえている。ゆったりとした服で、腕と足を紐で縛っている。上代の男性の衣装を思えばよい。左脇には剣が置いてある。
「おう案山子殿、よく来てくれた。まあ、座ってくれや」
「座れぬわ」
そうであったと、大笑いした。
「では一杯やってくれ」
と大山津見神が持っていた盃を差し出す。腕が曲がらぬのを覚って木花咲耶姫が父の手から盃を両手で受け取った。大山津見神は盃に酒を注いだ。それを木花咲耶姫は案山子のもとに持って行き、
「どうぞ」
と案山子の口元に運んで呑ませてくれた。
「うむ、かたじけない」
木花咲耶姫は口元に笑みを浮かべ、少し頭を傾け、案山子を下から見上げた。盃を少しずつ傾けていく。口から酒がこぼれないように、口元を見ているから、そういう頭の形になっている。
案山子はそのかわいさに、再び頬を染めた。
八咫烏は見逃さず、「ちっ、ちっ、ちっ」と三度、素早く舌打ちをした。
大山津見神は、向こうで大笑いした。
「かわいいだろ、惚れるなよ」
と嬉しそうにのたまった。
「もう惚れてますぜ」と八咫烏。
「バカを申せ」と案山子は咳払いをする。
大山津見神はまた笑った。
「お父様、ご冗談は止して。それよりも案山子様、用件なのですが」
大山津見神の少し前に、侍るように木花咲耶姫は座った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます