第4話 五穀豊穣4

木花咲耶姫このはなさくやひめがおぬしに力を借りたいそうじゃ」

 とある田のあぜに立っていた案山子かかしの肩に八咫烏やたがらすがとまって、そう伝えた。

「なんだ、色香いろかに迷うたかね」

「馬鹿を申せ」

 八咫烏は事情を話した。

 一昨年の秋、二柱ふたはしらが立っていた「谷戸やと」の様々な作物の収穫が激減した。夏から秋にかけて、史上最大と人々が呼ぶ台風が、二度も上陸した。それが原因の収穫の減少だった。

「昔、もっと大きい台風が来たではないか」

「忘れたわ。それにどうでもよい」

 台地の斜面にすがりつくように暮らしてきた農家の人々は、二人が向かっている河沿いの浅間神社に総出で参拝した。台風のあった秋の次の春のことである。

 農家たちは各々が畑で収穫した作物を持ち合い、なんとかザルを満たして、お供え物として差し出した。掃き清められた本殿に昇り、神主による祈祷きとうを受けた。祭壇には皆が集めた作物が載っている。

 その様子を見ながら、木花咲耶姫は困惑した。浅間神社の木花咲耶姫は農業に関しての知識はない。

 そこで八咫烏に使いを頼み、久延毘古くえびこに助けを求めた。久延毘古とは案山子のことだ。

「なるほど木花咲耶姫は同情したのだな、面倒な」

 案山子は知恵の神、立っているだけなのに全てを知る。だから頼られたのだろう。

「とりあえず、会うだけ会うか」

「会いたいだけではないのか」

「おぬしと一緒くたにするな。聞かねばならぬ事があるのだ」

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