第3話

 傘を持って外に出た。十一月というのは冬なのか秋なのかわかりにくい時期で、服装も持ち物も何が適切なのか判断できない。すぐにでも降ってきそうな様子だったがそんな気配があるだけで、傘など必要でなさそうでもあった。どこか焦げ臭いようなにおいがしてじわりと冬めいた日だった。

 五分も歩けば、とはいうものの実際に時間を気にしたことがないのでその程度だと思い込んでいるだけで、とにかく歩き疲れないうちにコンビニに着く。コンビニというものはいつでもあまり季節感のないものだが、この時期は特に季節を掴みかねている。表面的な年中行事がなければ季節をつくれないからだろう。冬季限定の紅茶などをみてもぴんとこない。おでんはいつからか年中売られるようになった。コンビニのそういうところが好きだった。とりわけ明かりの少ない深夜の住宅街の外れのコンビニには特別な光がある。店員の態度はむしろちょっとぞんざいなくらいがちょうどいい。

 朝ご飯を買いに来たはずだったが、食べ慣れないものを急に選ぶのは骨が折れる。パンが簡単かと思ったが総菜パンも菓子パンもちゃんとしたい日の朝食には不向きに見えた。おかか、鮭、シーチキンのおにぎりで迷って結局三つとも取った。オレンジジュースはコンビニに寄る時はいつも買うので買った。邪魔なだけの傘をぶらぶらさせて帰った。

 家で買ったものを広げるとばかみたいな献立だった。中途半端に慣性を脱しようとしたのだからある程度はやむを得ない。こんな食卓は彼女には見せられないなと思って、なぜそんなことを思ったかと驚いた。

 バイトのない日に何をしているのか、という質問も百万回されてきていて、その都度いい加減な回答をしてきたが本当のところは自分でも何をして過ごしているのか解説できない。趣味に興じるでも勉学に励むでも休養に努めるでもなく日を過ごす。あるいは日が過ぎる。朝ご飯など食べてみてもそこのところは変わらない。なんとなく黒くなってゆくような初冬の空の下で言いようのない生活が続く。

 思い付きの行動は概して長続きしないもので、朝ご飯を飛ばす状態に戻り、お風呂に入るのが億劫になり、入ると出るのがだるくなって誰の口からも冬という言葉が出るようになった日、また彼女に呼ばれた。

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