🆕中等部入学篇

🆕初恋再燃 入学式の時間

 ここは黒百合女学院中等部の体育館前の渡り廊下。今日は春休みも真っ最中の三月二十一日だ。中等部の昼休憩を告げるチャイムはとうに鳴った後の、無人の渡り廊下で、空を見つめては溜め息を繰り返す新入生の、ただし、括弧が付いて、その中に予定の文字が入るあおい。


 四月六日の入学式に備えて、中等部の制服購入を兼ねた入学説明会に来ているのだが、高等部の仲良しのしおり先輩や中等部の仲良しの柑奈先輩に話しかけられ、よもやま話に夢中になってしまった。

 そんな先輩方が、昼御飯を買いに総本館の茶話室兼購買に出掛けた頃には、一緒に来ていた初等部からの仲良しメンバー、通称あおい組の面々は先に帰宅してしまったようで、朝食時に差し込む朝日に、自分が雨女なのをすっかり忘れていたあおいの鞄には、折り畳み傘すら入っておらず、それで中等部の仲良しな先輩が通らないかな?と、待ちぼうけしているのだ。

 でも、さっきまで小雨だったのが刻々と勢いを増し、今は本降りになってしまっており


「えーい!シャワー浴びるつもりで濡れて帰るしかないか」


と言わんばかりに鞄を頭の上に乗せ、走り出そうとしたとき


「おい、お前あおいだろ?

 何でうちの学校にいるんだよ」


そう見知らぬ男性の声が話しかけてくる。


「え?体育館にいた先生、みんな校舎に戻ったはずなのに

 学生服のお店のお姉さんも帰ったはずだし

 ま、まさか・・・

 まさか古い学校だから

 いないはずの見えてはならない人たちが・・・」


怖々と声の主の方を振り替えるあおい。

 そこには、女子中学校だから男性はいないはず。とは違う意味で、そこにはいないはずの男が立っていた。


「お兄ちゃんこそ何でここにいるのよ

 いけないんだぁ! ここ女子校なんだから忍び込んじゃダメ!

 でも声が変ね 風邪ひいちゃったの?」


 そう。声の主は、あおいの一回り上の遠戚で、あおいの姉のみどりの婚約者で、あおいの初恋相手で脳内彼氏の、でもその初恋を諦めようと別れる決心した、真鍋瞬お兄ちゃんだった。


「ん? そんなに声変か? ちょっと風邪でな。

 てか、忍び込んだんじゃねぇよ! 人聞きの悪い。

 俺は昨日から隣の高等部の教師なんだよ。

 で、あおい 

 お前こそ国立付属に入るんじゃねえのかよ。」


「んーとねぇ

 わたしは国立行く気満々だったし、合格してたし

 でもねぇ 初等部の待った君

 じゃなかった 松田先生がね

 わたしがいなくなるとさみしいって泣くから

 黒百合に残ってここに それで制服買いにね。

 それよりお兄ちゃんこそ

 塾辞めてここ来るんなら どうして教えてくれなかったのよ。」


「え? お前

 松田さんから聞いてねえのかよ」


  真鍋の言う松田さんは、あおいの言う待った君こと松田先生と同一人物の、初等部であおいの担任だった教師であり、真鍋の一つ上の先輩でもあり、無二の親友だ。


「松田さんにしてやられた! 騙された。」


そう思う真鍋。でも、今日こそ俺は謝らなきゃダメだと。


「あおいっ!ごめんっ!

 お前の焼いてくれたバレンタインのケーキ

 無駄にしてごめんなさい。

 それから 冗談でも

 あんな事言ってはダメでした。

 本当に申し訳ありませんでした!。」


 バレンタイン生まれゆえにチョコレート嫌いになった。そんな瞬お兄ちゃんのために、焼きかけのココアスポンジのケーキを放り出し、改めてナッツケーキを焼き上げたあおい。そのあおいに


「実は俺 バレンタイン嫌いなんだよ」


そう言ってしまったお詫びに、深々と頭を下げた真鍋。


「もういいわよ

 どうせ男の子なんて女心なんか・・・

 それに事情はわかってるし」


そう言いつつも、この一月あまりを思い出したあおい。手加減のない平手打ちが、瞬時に真鍋の頬にヒットする。


「わたしを傷つけた罰よ!」


キッと睨み付ける瞳に涙が溢れる


「わたし わたし・・・

 この一ヶ月 ほんとにさみしかった」


瞬お兄ちゃんに抱きついて泣くあおい。


 だが、誰もいないと思っていた体育館には見物人がいたようで、ヒューヒューと冷やかしの口笛がする。あおいが慌てて真鍋から離れ振り向くと、そこには先に帰ったはずのあおい組の面々が。それに松田先生まで混ざってしまっている。


「松田さん! あんた俺を嵌めたな!」


「ま 真鍋 そう怒るなよ

 ほらエイプリルフールだよ」


「何がエイプリルフールだ! 今は三月だ!💢

 それも一ヶ月もかけて念入りな」




 













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