隠れ鬼ごっこの時間 3

 「先生が好き」


そう初等部生徒の高田ゆかりに告白された保健室を出て、柄にもないセリフを吐いてしまった!と、頭を掻きながら総本館校舎の廊下を歩く待った先生は、悪いことに中等部いちばんの鬼教師かつ風紀主任の、白井良子先生に捉まってしまった。


「中等部の廊下を何やら喚きながら走り抜けてるのは

 松田先生、あなたのクラスですよね!。


 市立小学校じゃあるまいし

 まさか学級崩壊してクラス全員に脱走されたんですか?。

 ここは名門お嬢様学校の黒百合なんですよ。


 情けないっ!。

 さっさと中等部に行って皆を捕まえなさいっ!。


 ほぼ全員が中等部にエスカレーターの

 初等部と違って、中等部は

 もっと良い高校大学を目指して

 外部に進学したい子もいるんです。


 迷惑でしょうが!

 いい加減にしっかりしてください!💢💢。」


「す、スミマセンっ

 今すぐ皆を捕まえますっ!。

 あ、でも山手校学長と幼稚部・初等部・中等部・高等部の

 各校長に報告しませんと・・・」


「あなたって人は・・・

 騒ぎが起きてどれだけ時間が経ってるとお思いなのっ!

 その報告、わたしがしてますから

 さっさと行きなさいっ!💢💢💢」


「ひ、ひいっ、も、申し訳ありませんでした!。」


コメツキバッタか?みたいに何度も頭を下げて、総本館校舎から中等部に慌てて走って行く、待った先生。




 一方その頃、二学年合同で行われるはずだった自由体育の授業中に、隠れ鬼ごっこエスケープ事件を巻き起こした当事者の、初等部の六年一組二組そして一年一組二組は・・・というと


 美佐は六年一組と二組の主な面々と分担して、中等部や高等部を走り抜けつつ、斯く斯く然々と伝えた後、六年一組二組の皆を教室に戻していた。

 ちはるは残りの六年一組二組の半分と分担して、初等部の全クラスに斯く斯く然々と伝えたのち、ちはると協力して一年の一組二組を教室に戻していた。

 みずきは、ちはるが一年生を教室に戻せるよう、その残り半分の六年と協力して、一年一組二組を集めていた。と、いうより一年生の、班ごとの集合場所を最初から決めておいて、先生に見つからぬよう、一年一組二組を誘導していた。そう、それは


「わたしが隠れ鬼ごっこ始め!の号令のまえに

 逃げ隠れる範囲は、幼稚部から高等部までの全域!

 と言うから、先生たちは

 まさか、みんなが初等部校舎

 それも自分のクラスにいるとは思わないわよ。


 そしてね

 先生たちが必死にわたしらを探してるのに

 その瞬間が来るまで

 わたしらは机で教科書開いて真面目に自習って

 おちょくっていて、楽しいでしょ!。


 おまけに初等部の先生が

 わたしらを見つけて安心するころ

 その瞬間

 中等部高等部では

 持ち物検査と没収に断固反対!

 だけど、わたしも校則違反しました

 先生、わたしを処分して!

 の自白が大量殺到する大騒ぎなの。

 それに初等部の皆が続くの。


 何てったって、このわたし、あおいさまは

 黒百合創立者の面々のうちの子孫だからね。

 生徒の不在中に無断没収だなんて、泥棒まがいの

 間違ったことは、たとえ先生でもゆるさない💢。

 黒百合は自由と生徒自治の学園だぁ!。

 

 な~んちゃって

 あおい、逆ギレして開き直っちゃいましたぁ! テヘペロ。

 でも、わたしも皆も間違ってない。


 皆はちゃんとあの本、返そうとしたんだから。そうでしょ?

 それとも、あの本の事

 このあおいさまに逆らうつもりだった?。違うよね!

 みんなは黒百合のルール守るいい子でしょ。


 わたしに任せて!。

 高等部には紫蘭お姉ちゃんもしおり先輩たちもいるし

 中等部には神奈先輩たちもいるし

 きっと黒百合、ひとつにまとまるよ。」


と、悪魔なあおいの作戦通りの行動であった。




 そして、黒百合女学院初等部の番格で、この隠れ鬼ごっこエスケープの主犯たるあおいは、この騒ぎの真っ只中で何をしていたか?。


 あおいは大胆不敵にも、この隠れ鬼ごっこエスケープ騒ぎで無人と化した初等部職員室に隣接する、用務員室に忍び込んでいた。

 それは、ゆかりや美佐たち六年一組の机の中からあの本を探し見つけ出したのは、待った先生によれば、用務員さんらしいからである。

 また、あの本がすでに待った先生の手を離れて、初等部の教頭先生や学年主任また風紀主任の先生たちの手に渡り、初等部全体の問題になっていないかを知るために、用務員室だけではなく、職員室をも捜索するつもりだった。


 そのために、あおいは何がなんでも初等部全体を大騒動にして、職員室を無人にしなければならなかったのだ。

 これは、まだ小学六年生のあおいなりの「目には目」で、証拠隠滅のためにも、「生徒の不在時に、生徒に無断で不法に没収したのだから、わたしも無断で取り返して隠滅してやる!」だった。


 でも、あおいが用務員室をいくら捜索しても、問題のあの本は一向に見つからない。首をかしげて考えるあおい。考えられる可能性は


① 用務員さんが、ひとりエッチ用にお持ち帰りした。 


② 用務員さんが誰かにあげるか貸すか売るか捨てた。


③ 待った先生の職員室の机かロッカーにある。


④ 待った先生がお持ち帰りか売るなり処分した。


⑤ 待った先生の教室の机の中。


⑥ すでに露見して、教頭先生・学年主任・風紀主任の何れかの手中。

 

『うーん、困ったなぁ

 最も考えられる可能性は・・・』


ひとり考えるあおい。用務員さんや待った先生そして学年主任の先生や風紀主任の先生に教頭先生の、それぞれの性格や今までの言動を思い出してみる。すると・・・あおいが思い出したのは・・・。


 待った先生があおいのおじいちゃんの道場の生徒だったから、待った先生とは昔から幼馴染みだったあおい。でもそれは決して仲良しではなく、水と油の犬猿の仲の、お猿さんな待った先生と可愛い子犬なあおいの、ケンカばかりな毎日だったけれど


 それで、ストレス発散のサンドバッグ代わりに、待った先生には酷いイタズラばかりしてきたあおい。それに乗っかり、待った先生を困らせようとイタズラばかりする、クラスメート。

 でも、いくら怒らせようとしても、決して感情的にはならなかったのが、この待った先生。たまに叱られても、それは感情的ではなく論理的で。少なくとも教師になってからは、優しく諭してくれる先生の鏡みたいな姿だった。

 それに待った先生は、あおいや皆のイタズラを一度も他の先生やママたちには、告げ口なんかしなかったのだ。


「クラスの中の問題

 それも重大な校則違反や違法行為でない限り

 クラスの中の問題は

 他の先生や父兄には関係ない。

 これは師弟間で解決すべきことだ!。」


と、一貫した言行一致した、待った先生の態度だった。

 ならば、あの本は待った先生の教室の机にあるに違いない!。待った先生の性格と今までの言動から、わざわざ自ら好き好んで、あの本を職員室に持ち込んで、生徒の失敗を告げ口する筈がないからである。


『うーんと、そうなればぁ

 あの本は絶対に、教室の待った先生の机にあるわね。

 でも、この不当没収、なんだかキモチワルイのよね。

 なんか、わたし、前から予感してたような・・・


 学生会や児童会で、先生による持ち物検査な気配

 最近は全くなかったし

 そもそも先生による持ち物検査は

 それ自体が校則違反だし。


 おじいちゃん、ここの元理事だから

 わたし、おじいちゃんから聞いたのかなぁ・・・


 あ!思い出した!

 あの時だよ・・・』



続く・・・


この「隠れ鬼ごっこの時間 3」の前話は

「初等部篇1」の章の

「隠れ鬼ごっこの時間 2」です。


そして、この「隠れ鬼ごっこの時間 3」は

次話「隠れ鬼ごっこの時間 4」でまだまだ続きますが


次ページ(目次参照)は

「中等部篇 あおい12歳の初入院」の章の

「告白されちゃう時間 1」でございます。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る