隠れ鬼ごっこの時間 2
「先生、あおちゃんは悪くないんです!
あおちゃんはわたしとクラスの皆を庇っただけなの。
だからあおちゃんを叱らないでください。
だって、このエスケープの原因はわたしだから。」
初恋の大好きな待った先生に思い詰めた顔で、この隠れ鬼ごっこ集団エスケープの真相を白状したゆかりは、普段はおとなしい子に似合わず、ついつい勢い余ったのか
「わたし先生が好きだけど
先生はこんな悪い子なわたしなんか嫌いだよね。
わたしパパがいないから
それで先生に憧れちゃったのかな?
わたし、先生が好き!
でもほんとうのわたしは とっても悪い子だし
それに先生は大人だから
まだ子どものわたしには振り向いてくれない
そんなことくらい、わかってるもん・・・。
先生が好きだから特別扱いしてほしい
ってのはあるけど、ちゃんと叱って欲しいの。
だってわたしは悪い子だもん。」
そんなゆかりの言葉に待った先生は、ここ黒百合女学院初等部に採用され急な欠員ゆえに新任にも関わらずクラス担任になった去年、読んでおきなさいと渡された業務日誌を思い出した。
赤井あおい
本校幼稚部よりの内部入学生。
幼稚部年長時に幼稚部クリスマス会から帰宅中、目前で長姉の当時本学高等部在籍中の赤井藍子が轢き逃げ即死により、一時失語。三年生時までメンタルに配慮を要した。
本学創設メンバーの一人の子孫。曾祖母の赤井菊は本学内部奨学制度創設者であり、祖父は本学元理事。次姉の緑は本学中央校大学部在籍。従姉の紫蘭は本学本校高等部在籍。同学年の立花美佐は曾祖父を共にする遠戚。
栗山ちはる
外部入学生。
3年生時に小児癌を発症。早期発見のため治癒するも手術痕露出時には当該部位へのメイクを許可。年に数度、再発検査のため通院中。なお癌告知を受けているため、関連する話題にはメンタルへの配慮を要する。
元子役であり小児癌のためそれを辞めるも、本人は復帰を希望しており、また通学時等ファンとの接触には配慮を要する。
諏訪野みずき
本校幼稚部よりの内部入学生。
父子家庭。先天性形態異常の形成手術ミスにより左耳を失聴。聴こえに配慮を要する。成長により再手術を要する可能性に留意。
高田ゆかり
系列校の柊幼稚舎より内部入学。
父と兄が食中毒死のため母子家庭。一年生時にはメンタルに配慮を要した。父性ある指導を母親の希望により継続中。なお母親は本学大学部首席卒業の本学中等部元教員である。
勤勉であり学力優秀である。今はおとなしく控えめな性格なるも元々は活発な性格であったため、父と兄の死による一時的な性格の変化かも知れぬことに留意。
立花美佐
本校幼稚部よりの内部入学生。
同学年の赤井あおいとは曾祖父を共にする遠戚。父親死別による母子家庭である。母親が病弱かつ多忙のため赤井家に宿泊多し。このため緊急連絡は赤井家にも必要である。
現役のモデルであり子役である。かなり大人びた性格のため通学時等、ファンとの接触には注意指導を要する。なお、それゆえの学力維持への配慮を母親は希望。
桃井カネコ
本校幼稚部よりの内部入学生。
父親の災害死により、現在貧困母子家庭。学力極めて優秀なため初等部で初の学内奨学生である。経済状況に配慮を要する。
一年生時には経済的理由による外部入学生からのイジメあり。しかし同学年の赤井あおい及び立花美佐とは幼稚部以来の姉妹同然の親友であり、このため本人桃井と赤井及び立花の希望により、初等部卒業まで同じクラスとする配慮を継続中。
この集団エスケープの主犯の赤井あおいは結構なる部類のお嬢様だし、この高田ゆかりも母子家庭ではあるが、それでも富裕層だ。これは立花美佐もであるけれど。そして桃井カネコも、父親の災害死で落ちぶれても元々はお嬢様だったのだ。でも去年このクラスの担任になった時から感じ続けた疑問。
赤井あおいやこの五人組が、ほかのお嬢様ぶっている生徒たちとは、何故か自ら距離をとっていて、あまりつるまず、お高くとまっていない理由。
赤井あおいや立花美佐そしてこの高田ゆかりが、自分がお嬢様なのを隠すかのように、庶民そのものみたいに振る舞っていて、親しみやすく感じる理由は何故なのか?。
また、それでも何故か赤井あおいの言うことには、それが無茶苦茶な事であっても、クラス全体いや学年全体がおとなしく従っているのは何故なのか?。
確かに赤井あおいも立花美佐も、かなり手が早い乱暴なお転婆娘のじゃじゃ馬な部類の生徒だけれども、殴られるのが嫌だから従うとか、怖いから従うというのとは違う理由で皆が従っているような、教師の立場から見た感覚。それは何故なのか?が、今ようやくわかった気がした、待った先生であった。
この五人はメンタルに一度、深刻な深い傷を受けている。だから常に五人でまとまり庇いあっているのだ。そしてこの五人から向けられる他者への優しさが、クラス全体いや学年全体に共感支持されているのだ!。
クラス担任になってようやく今ごろ?ではあるが、自分のクラスを理解した待った先生は、自分に恋を告げたゆかりにしばらく時間を取り向き合うことにした。待った先生は語る。
「なあ高田
お前のしたことはあまり良くない。はっきり言うと悪い事だ。
でもこれは、赤井や立花も黒山も諏訪野もだし
主犯は他にこいつらだろ?。それに
つるんでエスケープした六年生のみんなも、だ。
でも高田はいい子だ。もちろん、みんなもな。
だって世の中には忘れ物や落とし物を
勝手に自分の物にしてしまう人はたくさんだ。
でも、お前は返そうとしたんだろ?
それは優しい親切な良い事だし
返せなかった事に罪悪感をちゃんと持っていたし
叱られる前にちゃんと自分から白状した。
あの本を持ち込んだ不要物持ち込みの校則違反も
理由があると思ったから先生は叱らなかったんだ。
この集団エスケープも
イタズラしても謝らない人はたくさんいる。
でもお前はちゃんと自分から白状して謝ったし
そうなった理由、赤井の立場も怒りも
ちゃんとお前は代弁して弁護できた。
友達だからと良くない事を隠すのは
ときに隠蔽という、もっと悪い事につながるけど
お前は隠さなかったし、ちゃんと代弁できた。
それはお前が優しく強く、そして賢い子だからだよ。
先生はお前のその優しさと強さが好きだよ。
もちろん赤井や皆のそれも、だけどな。
で、お前の告白だけど
ありがとうな。嬉しかったよ。
ところでお前は気持ちは大人に近づいてるけど
世間的にはまだ子どもだし、教師と生徒だ。
だけど、お前がいい子のまま優しい大人の女になって
そのときまだ先生が好きだったら
改めてまた告白してくれよ。
どうせ先生は女の子の気持ちに鈍感だからさ
それまで独身かも知れないぞ!。いや絶対独身だな。
先生は年齢イコール彼女いない歴だからさ。なははは・・・。
だからさ、お前が先生を好きなら
このまま優しい大人の女に育ってくれよな。
いいか、これからお前は自分で自分を育てるんだ!。
ママがこう言うとか先生がこう言うとか
パパが昔こう言ってたじゃなく
もちろん人様の意見は大切だけど
自分自身の、こんな大人になりたい!って意思で、だ。
でも自分の力でどうにもならないときは
ちゃんと今みたいに誰かに相談するんだ。
いつでも先生、相談相手になるぞ。
お前が卒業しても大人になっても
お前は先生のかわいい生徒なんだからな。」
待った先生の話に希望を繋いだのか、さっきまで思い詰めて泣きじゃくっていたゆかりが、目を輝かせる。それを見て、柄じゃない事を言ってしまったかと、内心で照れながら保健室を出る待った先生は、悪いことに中等部いちばんの鬼教師の白井先生に鉢合わせして捕まってしまった。
「中等部の廊下を走り抜けながら
何やら大声で喚き散らしてるのは
松田先生、あなたのクラスの生徒ですよね?!
市立小学校じゃあるまいし
授業を脱走された学級崩壊ですか?
ここは名門黒百合なのに情けないっ!💢
さっさと生徒たちを捕まえなさい!💢💢」
作者より
この「初等部篇 1」の
「隠れ鬼ごっこの時間 2」は
まだまだ続きますが
次ページは
「中等部篇 あおい12歳の初入院」の章の
「告白されちゃう時間 1」でございます。
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