🆕重なるくちびる? 告白されちゃう時間 3

「紫蘭お姉さん、あおい

 入っていいですか?」


 さっき、あおいに呼ばれるままにその病室のベッドに腰掛けようとして、その気もないのに偶然あおいの手に触れてしまい、あおいの事を意識しすぎてしまって。

 それで丸一晩かけて試行錯誤したせっかくの、あおいへの告白の言葉が出せなくなってしまって。あおいの従姉の紫蘭が来たのをこれ幸いにトイレに駆け出して・・・頭を冷やしていた剛くんが戻ってきた。


「入っていいわよ」


考え事中のあおいに代わって答える紫蘭。


「じゃあ剛くん、わたしね

 緑お姉ちゃんとあおいの代わりにね

 お爺ちゃんの道場手伝わないといけないから

 あおいの相手してあげてね」


 剛くんがあおいに片想いしているのを知る紫蘭は、あおいが瞬お兄ちゃんに夢中なせいで怪我して入院したのも知ってるのだけれど、それでも実はあおいもある一面では剛くんの事を好きなのも知っていて・・・。お爺ちゃんの道場のお手伝いを口実に、二人に気を遣う。


「あおい、青蘭がまた来たらさ

 『遊び歩かず帰って勉強しな!』

 あたしがそう言ってたって伝えてね。

 あの子、勉強が残念だから。

 それにあの子の学校テスト中だし。

 じゃあ、また明日ね。

 剛くんチャンスだよ!頑張れ!なあんて

 バイバイ」


「紫蘭お姉さん お疲れ様でした。」


帰っていく紫蘭にちゃんと挨拶する、ちゃんとしている実はお坊っちゃまの剛くん。こんなところを実はお嬢様のあおいも、ちゃんと評価はしていて買っているのだ。


 改めて再びあおいのベッドに腰掛ける剛くん。互いのママ同士が同級生同士の親友で、おうちも隣同士・・・。必然的に兄妹か姉弟かのように育った、そんな剛くんとあおい。

 優しくて心をゆるしている。そんな幼馴染みの剛くんの瞳をあおいはジーっと見つめている。悪ふざけ大好きなあおいが、剛くんにいつになく珍しくも見せる、真剣な顔だ。そしてあおいは、ポツリポツリと言葉を紡ごうとする。


「あのね、剛くん・・・」


「あのね、剛くん・・・わたしね・・・」


「あのね、剛くん・・・わたしね・・・実はね・・・」


「あのね剛くん、わたし実はね、好きなの・・・それでね・・・」


 今でこそ、目の前のあおいは中等部一年生ながらも、黒百合女学院中等部の泣く子も黙る番格の一人。

 でも実は・・・黒百合女学院の幼稚部から初等部にエスカレーターしたころの、そのころのあおいは・・・あおいのほんとうの内面は・・・内気で、無口な、全く自己主張しなかった、弱々しい女の子。そう知っている剛くん。


 剛くんの目には、真剣な顔で目を瞑って辿々しくポツリポツリと懸命に言葉を紡いで何かを伝えようとする時の、あおいの幼い頃の癖が甦ってしまい、幼い日のおしとやかだった、そんなあおいに見える。


 しかし・・・


 しかし・・・女の子とはカレとカノジョの意味では全く交際経験がない剛くんは・・・そんな真剣なるあおいに対して


『えっ?』


『まさか、これは・・・あおいが』


『あおいから・・・まさか・・・俺に告白?』


 いやいや早まるな俺!と思いながら剛くんは、あおいの次なる言葉を待つのだが・・・。剛くんの目には・・・怪我して入院しているせいか、赤ちゃん帰りしたみたいな今のあおい・・・紡ごうとする言葉がなかなか出てこない、あおい。


 実はこのときあおいは


『下手な相談の仕方をしてしまったら

 わたしのことが好きかも知れない

 そんな優しい剛くんが傷つくかも・・・』


と慎重に言葉を選んでいたのだけれど。でもそれを知る由もない剛くんは、あおいがいつになく、たまにしか見せない真剣な表情をしているし、その言葉は辿々しい有り様だしで、少女漫画にあるようなシーン・・・


『これは、あおいからの俺への告白?』


『目を閉じてキスのおねだり?』


『俺、ついにライバルの

 あおいの想い人の真鍋に勝ったのか?』


 さっき、そんなつもりもないのに、あおいと偶然にも手と手が重なってしまい、照れまくって舞い上がってしまった剛くんはトイレで顔を洗って頭を冷やして戻って来たのに、あおいのこの態度。剛くんは勘違いしてしまった。

 単にあおいは悩み相談で言葉を選んでるだけなのに。でも、そうとは見えなくて、そうとは思えない剛くん。あおいがいつもいつも、悪ふざけばかり剛くんに仕出かしていたからもあるのか・・・。


 こんな真剣モードなあおいには久しぶりな剛くんは、『俺、今日、あおいに告白されるのか?』な焦りで


「あおい、ごめんな。

 俺、実は初めてだから

 こういう時、どうしたらいいか

 俺、全くわからないんだ。でもさ


 でも、俺はお前の事が大切なんだ。


 だから、してもいいけど・・・

 頼むっ!お願いだから

 俺、初めてだから

 痛いことしないでね」


なんて、余りにも恥ずかしすぎる勘違いを述べる剛くん。


「え? どゆ事?

 何の話よ? どーゆー意味?」


剛くんの勘違いな反応のせいでワケワカラナイ状態になってしまい、改めて目を開いて、剛くんを見つめるあおい。しばらくして・・・


「あ!

 そっかー!

 そりゃそうよね

 そう勘違いしちゃったのね」


堪らず吹き出してしまった、あおい。剛くんに申し訳ないと、心ではそう思うのに、それでも吹き出してしまい笑いが止まらなくなってしまった、あおい。


「剛くんったら・・・」


「ご・ごめ・ごめん・・・なさ

 ごめんなさい剛くん・・・」


「ひー

 お、おもしろい・・・

 剛・くん・ご・ごめ・んね・・

 あははは!・・・お腹いたい!

 笑いが、笑いがぁ、止まらなーい!」


「剛くん、ごめんね

 あのね剛くん、初めてで痛いのはね

 初めてで痛いのはね、ふつうは女の子だけなのよ」


「ほら、尻もちついちゃったトカで破れちゃった

 そんな女の子は初めてでも痛くない女の子 いるみたい。

 でもね お姉ちゃんによると

 男の子で初めてで痛いのは・・・

 残念なあそこの男の子だけらしいよ?

 皮がまだ・・・の、男の子ね

 剛くんまだ中学生だしぃ・・・」




続く・・・


この≪重なるくちびる 告白されちゃう時間≫の

≪中等部編 あおい12歳の初入院≫の章はまだまだ続きますが


次は番外編のページにございます。読んでくださいね💕 

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