あおい六歳 戻らないクリスマスの時間 3

 あおいと美佐が藍子お姉ちゃんに連れられて黒百合の幼稚部に登園してから、かれこれ四時間。


 赤井家の邸宅の離れでは、これぞお嬢様学校の生徒たちな清楚な女の子たちが、声高く歌を響かせている。彼女たちは黒百合女学院山手校に隣接のホーリネス希望教会の聖歌隊員の、黒百合高等部の合唱部の有志の面々である。

 藍子たちの通う高等部はすでに冬休みで、校舎補修工事が行われていて。それで赤井家の離れで聖歌隊・・・その多くは高等部の合唱部・・・によるクリスマスコンサートの練習をしているのだ。


🎵よろこべイスラエル

  久しく待ちにし しゅく来たりて

  御民みたみの縄目を解き放ちたま

 主よ 主よ 御民を救わせ給えや


  あしたの星なる 主よ疾く来たりて

  お暗き常世とこよ御光みひかりを給え

  主よ 主よ 御民を救わせ給えや


  ちからのきみなる 主よ疾く来たりて

  輝く御座みくら永遠とわに就き給え

  主よ 主よ 御民を救わせ給えや


  万軍の主 救わせ給えや🎵


 合唱部の部長でピアノを弾きつつ歌う藍子が、ふと壁のかなり年季の入ったゼンマイ仕掛けの古時計に目をやると、時針はすでに昼ご飯時を指している。


「みんな~そろそろお腹空かない?

 近くに美味しい洋食屋さん見つけたの!

 みんなで食べに行こ~!」




 そのころ、京都市立段原中学校に通う緑は、職員室に呼び出されていた。期末テストの点数が学年最下位記録更新しての、お説教タイムである。


 勉強嫌いのヤンキーな緑は、お受験したエスカレーター式の幼稚園や小学校に中学校のことごとくが不合格。ゆえに市立中学に通う緑は、高校進学するつもりなど更々なかったのだが・・・中学校としては、緑をほいほい中卒就職などさせるわけにはいかなくて。

 なぜなら緑はこの街ではお嬢様。府や市の議員に影響力を持つ有力者、赤井家の次女だからである。


 別に赤井家当主で緑の祖父の晋太郎も祖母の菊子も、父の幸一郎も母の桃子も、「緑を高校進学させてくれ!」等とは、学校側には今まで一言も言ったことはなく。むしろ


『自己チューの極みみたいな性格で

 世間知らずの極みみたいな現実不認識で

 暇さえあれば空想の世界に行っていて

 勉強が超絶に嫌いと言うより勉強のやり方すら知ろうとしない

 そんな緑は、早く痛い目を見させるに限る。

 さっさと就職させてくれたほうが本人のため

 なんなら中学校退学でもよい!

 別に無理に進学しなくても

 いざとなれば武術の才能ある緑は家業の道場を継げばいい。』


としか思ってなかったのだが、なまじお嬢様生まれだと周囲が勝手に迷惑なる忖度をしてしまい、本人も望まぬ生活をさせられてしまう見本みたいなものである。


 だから緑は、そんな周囲に反発してヤンキー化してるのに。そして学校側に迷惑なる忖度されてる緑は、学年主任に居残り補習勉強を命じられてしまう。


 今日の昼過ぎには母の桃子に頼まれた通りに、妹のあおいを黒百合の幼稚部にお迎えに行かなければならないのに。




 それで仕方なく自宅に電話をかける緑。受話器からコール音が長く繰り返されて待ちくたびれた頃に、漸く向こう側の受話器が上がる。


「もしもし 藍子お姉ちゃん?

 わたしね、居残り補習させられちゃうの。

 だからお姉ちゃん、あおいのお迎え代わって!お願い!」


「もう!。あなた勉強しないからよ!

 仕方ないわねえ

 わかったわ。行ってあげる。

 でもねえ緑

 どうせならその先生の養子になっちゃいなさい。

 緑でも勉強できる賢い子になれるかもよ?」


「お姉ちゃん!💢

 わたしみたいなかわいい妹になんてことを!💢💢」


「冗談よ 冗談

 すぐ怒らないの。

 じゃあ代わりに幼稚部行くから

 補修がんばりなさいね。」




この《あおい六歳 恋の始まり篇》の章はまだまだ続きますが 


次のページは


《初等部篇1 あおいはエッチな女の子?篇》の章にございます。

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