初等部篇 1 あおいはHな女の子?

恋のエスケープの時間

 ここは古都の、とある山裾やますそにある街。古くからの住民は「 山手 」と呼んでいて、旧武家の別宅だったりな武家屋敷や豪商の町屋敷が、少ないながら存在する。もっとも多くは明治以降の建て替えだが。


 そんな山手町にこの「春はあけぼの」物語の舞台、黒百合女学院の大学と専門学校を除く、幼初等部と中高等部の集まる黒百合女学院山手校はあった。無論、ここはお嬢様学校である。

 その黒百合山手校正門に接する大通りに沿って子どもでも労せず歩ける距離に、この黒百合と同系列だった黒川学院というお坊っちゃま学校もあって、二校は活発に合同行事など交流しているが、それは何れ何処かで。


 そんな大通りに面して最近開店したお洒落な喫茶店から通りを見ると、幼女が一人歩きしている。彼女は本当に幼女なのか?。確かに幼女にしては背が高すぎるし、よく見ればランドセル姿だ。でも少女にしては小ちゃいし、顔が幼い感じだ。

 そう思ってるうちに縮まる距離。この距離なら判る。彼女はこの町の誰もが知る、赤井あおいお嬢様。黒百合女学院創設者の面々のうちの一人の子孫であり、また黒百合の内部奨学制度創設者の赤井菊女史の曾孫だ。

 今日は黒百合は創設記念日で、彼女の通う初等部はお休みのはずだが?と眺めていると、彼女がふらついた。高熱でもあるのだろうか?。そこに、お巡りさんの声が響き渡る。


「そこの小学生、止まりなさい!」


「いや、あおいお嬢様、どうかお止まりください!」


 そう叫んでいるのは、この商店街近くの警察署少年課の若くして部下を持つ身の田中栄荘巡査部長。その声を聞くや否や、脱兎の猪突猛進の如く駆け出して行く、あおいお嬢様。


 彼女の身に起きた悲劇いや喜劇、いやいや彼女本人には、やはり悲劇であろうその出来事とは何か?。それは、この今から始まる「初等部篇」の物語に出てくるはずである。






「おはよっ!」


 元気良く六年一組の引き戸をあける、あおい。一年生のときからの、ずっと仲良しの高田ゆかりと目が合う。一瞬だが微笑み合うふたり。そして今朝一番乗りのゆかりが


「あおちゃん、お早う。今日は練習しないの?」


 あおいのお家の家業の一つが道場だから朝は早い。あおいは祖父の早朝太極拳教室のお手伝いをしてから、朝七時には登校して、初等部体育館の渡り廊下で自分の八極拳や空手の練習してるのを知るゆかり。

 仲良しのあおいが総校門、通称、大門を抜け初等部校門を抜け、今朝は珍しくも真っ直ぐ高学年校舎に入って来たのを、窓から見ていたのだ。


「うん、今朝はちょっとね

 それよりカネコは?。ゆかりぃ朝はいつも一緒でしょ?」


「カネちゃん風邪で休むんだって」


「あーわたしも風邪かなあ?

 熱っぽいし、少しお腹痛いし

 つか、すでに下りまくりだし」


「えーっ??

 あおちゃんの場合は

 いつもいつもの食べ過ぎじゃないのぉ?

 一番ちびっ子なのに食いしん坊なんだから」


冷静なゆかりに飛び付き、ゆかりの脇をくすぐるあおい。


「コイツぅ!人が苦しんでるのにぃ

 くすぐりの刑だぁ!ゴメンナサイと言えー!

 それにぃ、ゆかりだって二番目ちびっ子でしょーが

 ちびがちびをバカにするなー」


「きゃははは・・・く、苦しい~

 あ、あおちゃんゴメン

 ゆ、ゆるして~お腹痛い~息できな~い・・・」


 あおいとゆかりがそうふざけているうちに、一人また一人とクラスメートたちが登校してきて、女の子たちの賑やかな活気がクラス全体にみなぎるころ・・・日常の朝の風景に、登校締め切りを知らせる総チャイムが鳴り、初等部側に始業五分前を告げる、初等部のチャイムが鳴る。


 やがて教室の戸が開いて、担任の待った先生が入って来る。イケメンではない。どちらかと言えば残念な部類の顔だ。それでも彼は幼初等部では生徒人気一位二位を争う若手教師。

 事実、ゆかりはこの待った先生に初恋の片恋で、傍にいたくて、いつも付き纏っているのだから。


 待った先生が教壇に立つと、児童会会長兼級長の桃井カネコが休んでいるので、学生会初等部総代兼副級長のあおいが、号令の声をかける。


「全員姿勢を正せ!。気分切り替え黙想!・・・

 ・・・黙想やめ!。全員起立!。礼。」


あおいの号令に従い、一緒に挨拶のクラスメイト達。


「先生ごきげんよう。今日も宜しくお願いします。」


「ごきげんよう。今日も頑張ろうな。

 今日はテレビ朝礼です。皆さんテレビに注目。」


 テレビをつける待った先生。日の丸画面になり君が代が流れ、次いでクリスチャンスクールらしく聖歌が流れ、そして校歌が流れる。それに合わせ歌う六年一組。やがて初等部校長の真田護先生が映る・・・。



 クラスの子ども達が君が代や聖歌と校歌を歌ってるうちに、全員の顔色を確認する待った先生。

 いや、彼には松田桐男という本名が当然あるのだが、昨年、五年一組つまり今の六年一組の担任になったとき、世の中には将棋なるゲームがあるのを教えようと、あおいと軽い気持ちで一局指したのだが、将棋は初体験のはず!のあおいに負けてしまい


「お主、やるな!」


とハンディ無しで再戦したはいいものの、「待った」を連発した上に再度敗けてしまって、それで「待った先生」と呼ばれてしまっているのだ。


 テレビ朝礼を皆が聞いているうちに、と、始まりの会で皆に注意せねばならぬ事がある待った先生は、頭の中で話を組み立てるのだが、あれは昨年の事だった・・・




 夏休み明けの初等部水泳大会。初等部プールのプールサイドで転んだ子を保健室に連れて行った、救護係だった待った先生。その帰りのプール更衣室の陰から、何やら聞き慣れない人の声がする。

 水泳大会だから父兄か生徒と親しい地域住民、あるいは出入りの業者が応援か?と、そう思っているとその声は一人や二人ではない。


「そうそう、いいねっ!。女の子座りも可愛いよ」

「次はね、首の後ろから両手で髪をかきあげて!」

「君ちっちゃいね、本当に五年生?」

「オマエ馬鹿言うな。小さいから可愛いんだよ」


さらに


「ちょっとぉ、そこの失礼なロリコンのお兄ちゃん

 わたし小ちゃいけど、ほらぁ肌の色が白いでしょ?

 それにぃ、ねえ、見てみて!

 わたしぃ、お兄ちゃんたちの大好きな

 谷間どころか膨らみすらない、水平なおっぱいだよ?」


しまいには


「もぉー!💢何でお兄ちゃんたち

 さっきからずっと、あおちゃんだけ撮るのよ?

 わたし美佐ちんはモデルに子役ですよ~

 美少女小学生の稀少なる旧タイプのスクール水着ですよ~

 って無視すんなっ!💢もっと撮ってよ」


「そうよ!

 あおちゃんばっかし!腹立つぅ!

 わたしだって元子役だし それに

 わたしがいちばん全体的には整ってるもんっ💢💢」


 水泳大会に潜り込んだロリコン達は、最初はモデルしてたり元子役だったりの、立花美佐や栗山ちはるを撮っていたのだろう。

 ところがカナヅチだからと水泳大会をサボっていたあおいが、気まぐれに途中から現れて、あおいは実は狂暴で内面が悪魔と知らない彼ら。あおい持ち前の色白に二次性徴の兆しすらない、幼児体型な小さな体と童顔で騙されて、あおいに人気が集中したようだ。

 それが五年生になってからと謂うもの、最近は女の子らしい体に変わりつつある、モデルの美佐や元子役ちはるのライバル心を刺激したのだろう。


 慌てて彼らを追い払った、待った先生は勿論に、あおい・美佐・ちはるを捕まえて雷を落としたのは、言うまでもない。無論、後の職員会議で、以降は初等部校内への関係者以外立ち入り禁止にしたのも、さらに言うまでもない。が最大の問題は・・・。

 三人は別にヌードになったわけでもなく、そこではない。この三人がすでに性に目覚めてしまい、いや、そこでもない。この三人が、彼らは美少女モデルや子役のファンではなくロリコンと理解し、その趣味も理解していたのに、隠し撮りがバレて帰ろうとした彼らを自ら引き止め、写真撮らせる代わりにお小遣いをボッタくろうとしていた。としか思えない事だ。


 それにそれだけではない。先週金曜日の放課後、このクラスの生徒の机の中から偶然だが発見されたものは・・・。

 頭を抱えたくなる待った先生。そう、ここは女子校なのだ。しかも生徒は微妙な年頃の六年生。たとえ業務による指導であっても性的な話は男の自分には切り出しづらいし、おまけにこのクラスにいるこの三名・・・。

 この三名は・・・特に約一名は、普通の大人では手玉にとられ弄ばれてしまう、悪ふざけと屁理屈が大好きな、しかも学校一番に手が早く狂暴なる・・・まさに「悪魔」。




 待った先生が、今朝すべき訓示に頭を痛めているうちに、無情にもテレビ朝礼は終わってしまい、気付けば朝の始まりの会が始まってしまっている。教壇で始まりの会を仕切っているのは・・・





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