恋のエスケープの時間 3
美佐とゆかりの通う黒百合女学院山手校の初等部は、幼稚部や中等部また高等部と隣接しており、その裏山は近年開発されて小規模ではあるが住宅街になっている。
その山頂には、価格の割に美味しいと若者たちに評判の喫茶店があり、その隣には夜景や春の桜をはじめ季節の花々たちのキレイな公園があって・・・。
となれば、その公園は例に漏れずデートスポットになっているのだけれど、それでも日中は黒百合女学院の幼初等部の子たちの遊び場である。
その公園で仲睦まじく親密そうにデート中の一組のカップルがいる。そのカップルは、別にイチャイチャとアダルティなことをしているわけではないのだだけれど、それを花壇に隠れてじっと見つめる、赤いランドセル姿の女の子が二人。
そのカップルの彼女はゆかりと美佐の親友、あおいの九つ歳上の姉の赤井緑で、その彼氏はゆかりと美佐の担任である待った先生の親友の真鍋瞬だった。
自分を迎えに来た真鍋の愛車・・・そのドレスアップには、『同じ車をもう一台買えたのでは?』くらいに結構なるお金のかかっている。そんなスカイラインに乗ろうとする緑を、下校時に校門をくぐる時に見かけたゆかりと美佐。
「これは裏山デートに違いない!」
と、まだ初等部の六年生だけれど、既に男女の恋には興味ありで、停まっていた裏山行きのバスに飛び乗り、この二人を追いかけ尾行して来てしまったのである。
それは実は恋への興味だけではない。美佐もゆかりも、親友のあおいが自らの姉の婚約者の真鍋瞬に片恋しているのを知っている。
そしてその姉の緑はあろうことか、一昨日の土曜日には真鍋と違う男と仲良さそうに、ここでデートしていた。さらに昨日の日曜日はこれまた違う男と。それで
『あおいちゃんのお姉ちゃんが浮気?。
これはあおいちゃんに教えてあげなきゃ!。
いやいや、あおいちゃんから真鍋さんを奪ったくせに
浮気なんてゆるせない!とっちめてやる!。』
と、その意味での尾行でもあったのだが、やっぱり恋への好奇心が勝ってしまい、こうして一時間近くデートの成り行きを見守り、否、覗いているのだ。
モデルや子役している活発かつ積極的で人懐こい美佐。でも今日の相棒ゆかりは低学年の頃は、そこそこお転婆で活発だったものの、今は内気で大人しく消極的な小学生。
キスシーンどころかハグシーンにもなかなか進展しない二人に、ゆかりは飽きてしまい、このカップルに遠慮するかのように
『ねえ、もういいでしょー!
邪魔になったら、ふたりに悪いわよ
いい加減に帰ろうよお!。』
とでも言いたそうに、ゆかりは美佐のセーラー服型のワンピースになっている夏制服のミニスカートを引っ張る。それを振りほどくかのように積極的な美佐は、自分があおいとその姉の、この緑と遠戚でもあることから
「緑お姉ちゃん
ご無沙汰してました お久しぶりです。
わたし立花の美佐です。
いいなぁ。真鍋のお兄ちゃんとデートですかぁ!。」
そう挨拶してしまった。仕方なくゆかりも
「緑センパイ、瞬お兄ちゃん、こんにちは!。」
と挨拶する。
高等部の山手校から大学部の中央校にエスカレーターして以来、美佐に会うのは久しぶり過ぎる久しぶりの緑。同名の誰かと人違いされてるの?と、美佐の声を忘れていて最初はそう思ったものの、妹のあおいと遊びに毎日のように家に来るゆかりを見て
「あら、こんにちは。
丁寧に挨拶出来て偉いわね。
初等部は授業もう終わったの?。
そっかぁ!そうだった・・・
初等部は始業式の日は
お休みの報告会だけで授業ないのよね。」
真鍋を妹のあおいと奪い合っている緑は、『しまった!あおいがデート邪魔しに来ちゃうかも!』と思いつつも、九つ離れた後輩たちに取りあえず優しく微笑んで見せる。
でも、おませでかつ積極的な美佐は
「いいなぁ! お姉ちゃんにはカレシがいて。
幼稚部から大学部まで女子校の黒百合で
どうしたら出逢えるんですか?。
わたしもカレシ欲しいなぁ。」
と聞いてきた。しかも積極的な美佐はすぐに核心に触れる。
「わたし土曜日
ここであおいちゃんと待ち合わせしてました。
緑お姉ちゃん、いらしてましたよね。」
「あの背の高いお兄ちゃん、わたしのタイプなんです!。
緑お姉ちゃん あの人紹介して お願い!。」
と緑の耳に口を寄せ、ナイショ話を囁いてくる。さらに
「わたし、昨日もここで遊んでましたぁ。
昨日のお兄ちゃんも優しそうで
美佐、カレシ選び迷っちゃう!。」
トドメを刺してくる美佐。
「わたし緑お姉ちゃんの浮気現場をハッキリ目撃したよ!。」
とでも言いたそうなセリフに、驚きを隠せない動揺する緑。
この緑、あおいの姉は実はハンサムハンターが趣味なのだ。今の時代ならイケメンハンターとでも言うべきか。
繁華街などを夜な夜な歩き回っては、その童顔の虜になった男からナンパされては、あと少しのいいところでタイミング見ては振るを繰り返す緑。
ゆえに浮気を疑われる身の覚えは山ほどにあるのだが、美佐に今回かけられた疑惑には、全く身に覚えはなく。
でもハンサムハンターの趣味を緑は、隣に座る婚約者の真鍋にはナイショにしていて、しかも目の前には愛しの婚約者の真鍋がいるしで、それで怪しさ満載に目が泳いでしまう。
別に緑は男たちに高価なプレゼントやお金を貢がせたり、男たちとアダルティな事をしているわけでもなく、それにはちゃんとワケが有ってのことなのだが・・・。
それは学校側には決して知られてはならない事情。清楚清純が売りのお嬢様学校の黒百合の大学部の学生でありながら、裏の顔は・・・
「わたしぃ実はぁ
夜な夜な繁華街を歩き回り
逆ナンパするかのように男性を誘惑してぇ
ナンパされては⭕⭕⭕直前のイイとこで振ってまーす。
それはぁ
わたしがエロ同人を書くためのネタ探しなんですぅ!テヘペロ」
なんて事はこの九つ下の後輩の二人、美佐が遠戚でもゆかりが可愛い妹の親友でも、女の子の口からカミングアウトは恥ずかしく。それでもちろん学校側には秘密にしているものの、これがバレちゃった日には黒百合での楽しい楽しい女子大生生活が終わってしまう緑。
ゆえに「わたし浮気なんてしてません!」とは、口が裂けても言えない緑であった。
それを言おうものなら、自身のエロ同人活動を自白せねばならず、お嬢様学校である黒百合は学生の性には、極めて厳格で。
「エロ同人誌を制作しているだと?。
つまり性的誘惑の種をばらまいているわけだな。
それは不純異性交遊より怪しからん!。」
と、されかねないからである。もし美佐がこの事態を学校側に告げ口でもしようものなら・・・。自分の大学生生活が終わる危機なのに、適切なる言いわけが出てこない緑。
そんな中、時間をもて余したゆかりが美佐に
「ねえねえ、さっきのナイショ話
何を聞いたの?」
「まさか一昨日と昨日の緑センパイのデート?。
ダメだよ。人のプライベートに首を突っ込んだら・・・。」
と聞き始めた途中で、真鍋が緑に助け船を出す・・・
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます