星の輝く日
常朔
天体観測
今日は雲一つない晴天。
いや、今は夜だから晴夜か。
夏の真夜中は星々がいっそう強く輝いて見え
て、夜は暗いというのが嘘と思わせられる。
折角だからこの星空をスマホに保存したかっ
たが、そんな高性能のスマホを高校生の僕が
持てるわけが無かったので、諦めて好きな人
にメッセージを送った。
『今日は夜空が綺麗だよ。一緒に見に行かない?』
こんな真夜中に誘うなんて迷惑きまわりない
事は重々承知のつもりだ。
それでも、誘わずにはいられないくらい美しかった。
『わかった。望遠鏡持って行っていい?』
まさかの軽く承諾された。
しかも、僕が頼もうとしていた望遠鏡を持ってきてくれるらしい。
『マジか。ちょっと待ってそっち行くから』
『マジって何?ダメだったの?』
『そうじゃない、断られると思ってた』
『君が誘ってくれたし、私だって好きだもん、星見るの。一人じゃダメだと思うけど誰かとなら親も許してくれる』
「私だって好きだもん」の一文に、僕は少し心臓がキュッと縮んだ気がした。
────
「こんばんわ、
「改まってどうしたの。
「さん付けはやめてくれ。距離感を感じる」
「君が先に始めたからのってあげたのに。そんな言い方は無いんじゃない?」
「僕が苛めてるみたいじゃないか。まぁ、その夜は静かでさ、何となくそう呼びたくなっただけ」
「寒さは人を変えるって事かも。今は夏だからそんなに寒くないけど」
ならなんで寒さの話を出したんだ。と突っ込みたかったが、これ以上玄関前で話し合っても仕方ない。
僕は箱に仕舞われた望遠鏡を持ち、こっそりと学校の屋上へ向かっていった。
────
高校生だからといって、学校の屋上を誰でも使えるわけじゃない。ここの高校は星を見る会こと観測部があるのだ。
この観測部の部員は僕と志保のみ。だから、本来は部員が足りず、部として認められないのだが、志保はこの学校の生徒会長なのだ。
勿論、会長だからという理由だけではない。それでは、悪い人がなった場合収集がつかないだろう。
では、何故つかえるのかというと彼女は騒がしい所が嫌いで学校に行く事自体を拒否している所謂引きこもりなのだ。
唯一、この引きこもりを引きずり出す事が出来たのが天体観測という訳で、観測部を設立して、屋上を僕達だけが使える事になっている。
「あー重いな、この望遠鏡は」
「お父さんがいい物をって奮発して買ってくれたから傷つけないでね?」
「分かってるってそれくらい。っしょっと」
僕はいつもの指定位置に望遠鏡を組み立て始める。
「ねぇ、朔。今日はどうして誘っくれたのかな?」
「いつもなら綺麗で終わる星空だったけど、今日はもっと綺麗に思ったから。それだけ」
「もしかして、裏がある。と思ったのは勘違いか。どう?セッティング終わった?」
我慢しきれず星空を眺めていた志保の目線がこっちに向けられた。正確には望遠鏡の方だろうが。
「ちょっと待って。ピントが合わないから」
「ピントぐらいなら出来るよ」
志保の手が僕の手と重なって、望遠鏡の微調整をする。
「なぁ。恥ずかしいから離れていいか?」
「ダメ。今離れたらまた微調整のやり直しになるから」
「そんな事無かったはずなんだけど……わかった」
手は微かに冷たくも、温もりを確かに感じられるものだった。
恥ずかしいと言ったが、離れさせてくれる気がないならいっそこのままと思った時手が離れていく。
「あっ……」
「どうしたの?悲しい顔してる」
「そ、そうか?なんでだろ……」
「ちょっとこっちおいで?」
「こう、でいいのか?」
僕は志保の前に少しだけ近寄る。
そして、突然目の前の景色が見えなくなった。暗闇に慣れてきていた目でも、その景色を捉えることが出来ない。
「よしよし、いい子いい子。どう、落ち着いた?」
「いや、興奮した。あと抱かれている事に困惑してる」
「こうすれば落ち着くって本で読んだことあるんだけど……違うのね」
「そういう事か……。確かに、こうされると落ち着くのは嘘じゃない。泣きそうな時胸を借りるというのはある話だ。だけど、その、同性じゃないのに胸を借りると匂いとかで、興奮する」
僕の正直な感想を聞いた志保が顔をここが一番明るいくらいに赤に染まっていく。
「……変態」
「この考えに行き着くのは不可抗力だって。男子の人大抵はこうなるから次はちゃんと彼氏にやれよ」
「……だからやったのに気づいてよ。ばか」
「何か言った?」
「何も言ってない。それより星、見よ」
「ばか」の一言しか聞こえなかったので、納得がいかないが、僕はスマホを取り出し照明を確保した。
「本当に綺麗。朔も星を見る目が肥えてきたと思う」
「星を見るガチ勢に言われるとなんか嬉しいな。あ、もしかしてあれさそり座?」
「うん、そうだよ!すごいなぁ……こんなに見れる日、あんまりないかも。だってこれはあれで、あれはこれだし──」
志保のスイッチが入ってしまうと、もう誰にも止めることは出来ない。部員であり、彼女をよく知る僕がそれを一番よく知っている。
僕がここに誘ったのは今日、告白するつもりだからだ。
実は天気予報によると、今日のこの後、もう少ししたら流星群が来るという。
それに合わせて告白を。と考えているのだが、いざ、その瞬間が目の前になるとこの心臓が言うことを聞かなくなる。
「なぁ。志保?」
「ん、何か?」
「僕は志保の事が好きかも」
かも、じゃなくて好きなのだが、気恥ずかしくなった結果、曖昧になってしまった。
その瞬間、望遠鏡が傾き始めていて、僕はなんとか望遠鏡を身を呈して受け止めた。
「いってぇ。やっぱりこいつ重い」
「あ、あの……聞き間違い?私の事、好きって」
(あ、「かも」は聞こえてないんだ。ラッキー)
「そうだよ。こんなに星に熱中してる君が好きだ」
「わ、私はその、学校にそんなに行かないし、変人って思われてるんだよ?生徒会長なのに引きこもってるから」
「知ってる」
「そのせいで、先生から指導もらいそうになってて──」
「いやそれは知らん」
「だから──」
「それでも、好きだ。正直、最初はビックリした。部員が必要だから校内を駆け回っていて、結局僕しか部員は出来なくて、実態を知った時はもっとビックリした。それでも、嫌だとは思わなかったし、むしろ知りたくなった……」
ここまで言葉が出てきたのに、口が思うように動かない。
「っ、だから、近くで知っていく内に星に詳しくなってたし、志保の事も、好きになってた」
「うん……」
「だから、付き合って欲しい」
「ぅうん」
「それどっち?やっぱりダメだった?」
「嬉しくて言葉が出ない。から、その、えっと、いいよ?」
返された返事が結局どっちなのか分からず、思わず吹き出してしまった。
「ちょっと……人が泣いて喜んでるのにそれは無い」
「いや、ほんとごめん。なんか緊張の糸が切れちゃって。喜んでるって事はOKだよね?」
こくりと志保は頷いた。
───
何とか告白に成功して一段落したところに、星空を横切っていく群れが見えてきた。
「流星群が来た!何お願いしよう」
「なんでも好きなものをお願いすれば?」
「そう言う朔は?」
「僕は、もう叶っちゃったから」
「それすごい恥ずかしい」
「僕もそう思う」
互いに笑みが零れる。
どんな星々よりも志保の笑顔に勝る輝きはないだろうと思った。
星の輝く日 常朔 @kainz_299
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