第六話【奇怪な幻想的な城】
坊っちゃんは手当たり次第に積みあげ、また慌しく潰し、また慌しく築きあげた。新しく引き抜いてつけ加えたり、取り去ったりした。なにをそれほどこねくり回しているかと言えば己の記憶であった。
坊ちゃんは記憶というものを己の意思で変形させているのではないかという怖れに囚われていた。思い出す記憶、また記憶、その全てになんらかの加工が施されているのなら、いったいどういうことになるというのか。
思い出す、あるいは覚えているということに意味を見出すことさえ無意味になる。
いつたい俺はだうして此処に居るのだ?
ふいに新たな記憶が蘇る。奇怪な幻想的な城がそのたびに赤くなったり青くなったりしていた。それはなにか工事中のようでもあり、坊ちゃんが見ている間にやっとそれはでき上がった。
坊ちゃんは軽く跳りあがる心を制しながら、その城壁の頂きに恐る恐る檸檬を据えつけた。そしてそれは上出来だった。見わたすとその檸檬の色彩はガチャガチャした色の階調をひっそりと紡錘形の身体の中へ吸収してしまって、カーンと冴えかえっていた。
坊っちゃんは埃っぽいシコクの中の空気が、その檸檬の周囲だけ変に緊張しているような気がした。坊っちゃんはしばらくそれを漠と眺め続けていた。
このとてつもない、引っかかるような……。もはや坊ちゃんの思考は既に論理の体を成してはおらず、ただひとつ直感めいて彼の頭にあったのは、ここにはいてはならぬ一刻も早く立ち去らねば、というただこれのみであった。そしてこれは彼にとって唯一の論理的考察と言えた。
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