epilogue #2

 昼休みが終わり、午後の授業を終えて放課後になった。教室は賑わいを見せていた。僕は隣の席の3番に声をかける。


「なあ、3番。」


 帰り支度の途中だった彼は驚いた。


「なんだ?吉野から話しかけてくるなんて珍しいじゃないか。明日は雨でも降るのか?」


「俺の記憶では予報は晴れだったな。」


「そうか、じゃあ珍しいことでもないらしいな。」


「雨が降ることも珍しいわけではないけどな。」


「違いない。それで?話しかけたからには何か用でもあるのか?」


「ああ、僕の今日の敗戦についてなんだが、」


「おいおい、まだやるつもりか?あきらめろって。反省会ならほかの奴を呼んでくれ。俺は部活に行く。」


 こいつ、部活なんてやってたのか。表情に出ないように驚く。本当に僕は何も見えていなかったらしい。

 でも、それも今日までだ。これからはいろんなものを見てみようと決めている。


「いや、お前も来い。」


「なんで俺なんだよ。」


「総合点の方はまだしも、平均点の方の敗因の一端は3番だと思わないか?」


「それを言われると痛いな。」


「だろ?なんだか気になる喫茶店を発見したんだ、一緒に行かないか?それと、」


「それと?」


 僕は3番の目を見て言う。こんなことは初めての経験だから緊張してしまう。けれどいつもの僕らしく精一杯ふるまう。


「名前、なんて言うんだ?3番の名前。」


 3番は口を開けて驚いていた。それはもう『驚愕』という単語のお手本のような表情で。そしてそのまま沈黙していた。やっぱり今更名前なんて聞くのは間違っていただろうか。

 3秒ほどして、3番は口を開く。


「明日は確実に雨だ。というか、雪が降ってもおかしくない。吉野がそんなこと言うなんて。」


「別に僕だって名前くらい聞くさ。」


「嘘つけよ。まあいいや、俺の名前は江嶋拓馬だ。よろしくな。」


「ああ、よろしく。それで、喫茶店の方はいくのか?」


 部活があると言っていたし、断られても仕方ないだろう。


「さっきも言ったけど部活があるんだ。でも、」


 3番、いや、拓馬は笑う。


「ちょうど、さぼろうと思ってたところだ。一緒に行ってやるよ。」


 その姿を見て予感がした。こいつとは多分、長い付き合いになるだろうと。

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