日照り

 ゆらゆらと揺れる木の気配、根っこはぼやけてよく見えない。照りつける夏日の日光は髪の毛を容易にくぐり抜け、頭皮をじりじりと焼く。ツンとした潮風が髪を揺らし、服を捲り上げる。どこかでミンミンゼミが鳴いている。その声に反応するかのようにあちらこちらで鳥が羽ばたき始める。小さな海沿いの神社の一角、ゆらゆらと揺れるその木を僕はただ見つめていた。


 夕時、ヒグラシが代わりに鳴き始め、木は真っ赤に染まっていた。昼間よりも小刻みに小さく揺れる、その木から一匹のセミの声がした。まさに陽が沈もうとした時、一斉に鳥が羽ばたいた。それと同時にサイレンが大きな音で鳴り始める。走って民家に駆け込む人混みが僕と木の間をたくさん通った。水平線に少しだけ顔を出した太陽はどこにも逃げず、じっとそのまま僕と木を照らしていた。


 閃光、破裂音。


 陽は沈まず、また照らし出す。激しく揺れる木、耳を裂くような激しい音、そしてドロドロに焼かれた僕。火の音がする、人の声がする、慌ただしく走り回る。そんな僕らを見るに耐えず、太陽はゆっくり沈んでく。

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