絶痛

 裂ける身、飛んだ飛沫はとても美しかった。破壊的な衝動は自身の肉体へと向けられ、流血を持って命を確かめさせてくれた。


 それは破壊的衝動が絶対的に生への執着であることを証言している。溢れ出るリビドーは僕が思うよりも真っ赤で、波打って、まだ生きたいのかってそう感じさせる。こうして永遠に流れ続けたら僕の命はこの箱から流れ出て世界と同化するのかな。


 僕の真っ赤な水分は草木の栄養となり脂の乗った肉は動物の食料となり…あとはなんだっけ、自分を構成するもの…それだけか。なんて、主人の気持ちは考えず、細胞は必死に瘡蓋を作ってる。裂けた身を頑張って直してる。生きたいのかなぁ、やっぱり。どうして、外壁を直すのにはこんなに必死なのに内壁を…そう、僕の心とかそういうものを直す力はないのだろう。血が流れたら必死に止めるのに、僕の感情が溢れ出ても、なんにも止めてくれない。心にも瘡蓋があればよかったのに。そうすれば、きっともう少し人間らしい感情が僕の中にも残っていたのにね。僕の心は、感情は社会の悪意たちの、醜い怪物たちの美味しいご飯。甘美な蜜だったのかもね。


 もう何も残ってないのにどうして生きているのだろう。どうして生きているのか、そうか、細胞か。彼らは僕じゃないのか。この体は僕じゃないのか。だから僕のことなんて放っておいて、自分のことに必死なんだ。細胞は僕の精神に寄生しているんだ。無理やり宿主を生かして、美味しい蜜を怪物に提供するために頑張ってるんだ。


殺してやりたくなった。もう一度。


飛沫を飛ばそう。


痛みを感じているうちは、僕自身は生きているのだから。

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